手の動かし方で心情を表す。
俳優はそうやって演技の表現をする場合もあります。
このように身体動作で演技をするとどのような効果があるのか?
今回はこの話を致します。
身体動作の表現は「伝わりやすい演技」となります。
しかし的確な動作表現をしなければ、何をしているのか全然分からない表現でもあるので、動作表現をする時は注意しなければいけないことが何点かあります。
そのまず一つが、観客がご覧になる優先順位をしっかりと把握するということ。
観客が一番見ているのは、ズバリ「セリフを話している人」です。
観客はこの話がどういう展開になるのだろうと筋を負うために、話している人の情報から作品を観るので、セリフを話している人を一番よく見るのですね。
次に見るのが「動いている人」なのです。
ですので、誰かが台詞を話していたら、観客はそのセリフを話している人を見ますので、自分以外の誰かが話している時は、動作の表現をしても見られない可能性が高いのです。誰も話していない状態で、自分が身体を動かすと自然と目が行くので、そういう状況で表現することが求められます。
まぁ、これは一概には言えないのですが、ベースはこんな感じで考えてます。
つまり身体動作で表現するためには、誰もがその動きで分かるような動作にすることと、観客に見てもらう状況をしっかりと認識して的確に表現することが求められるのです。
観客とのコミュニケーションがバッチリ取れている人は、こういうこともできるようになります。
それは、
自分以外の人がセリフを話しているのにもかかわらず、途中から動作表現をして観客に見てもらうということ
これはどういうことかというと、観客は舞台上で台詞を話している内容を完全に理解した時、他に目を移すことをするのです。
少し文章で説明するのは難しいのですが、
例えば、観客側から考えると、話している人の言っていることが理解できれば、この話はそういう意味なんだなと判断するのですが、その整合性を無意識に確かめることをするのです。
つまり、「この人はこう言ってるけど、聞いている人はどういう風に聞いているのだろう」と、確認作業のように別の人を見るのです。
その次の優先順位が動く人なので、この観客の目が移るであろう時に動作表現をすると、とっても間の良い俳優だと感じ、お客様を味方につけやすくなる。
「そんなの、お客さんがどこの時点で、動いている人の方に目を移すかなんてわからないじゃない」という疑問も出てくるかもしれませんね。
しかし、観客がどのタイミングで話している人から動作をしている人に移るのかは、ちょっとしたきっかけを作ることで注目を移すことが可能なのです。
それはどんな方法かというと、
相手の話している時に『息』を吸うと自分の方に目を向けてくれる
これはどういうことかといいますと、
例えば、普段の会話で初対面の人同士がお互いに気を遣って話をしている時を想像してみて下さい。
その時に「何か話さないと」という心境に駆り出される人は結構多いですよね。
沈黙が怖いですから(笑)
だから、お互いが頑張って話をしようとしてる。
そして自分が話そうとした時に、相手も話そうとしたら、
自分の言うことを直ぐに引っ込めたりしませんか?
そして
あ、「どうぞどうぞ!」と相手が話すのを優先しますよね。
この時、何故相手が話そうとしたのが分かるのかというと、
声を相手も出したということもあるかもしれませんが、
話そうとする動作が見えたからですよね。
その動作が『息を吸う』という動作なのです
これはもちろん大きく息をして話そうとしていることが分かれば、意識的に話そうとしてたなと分かるのですが、少しだけの息の吸い方の場合でも、
人間は無意識に伝わるのです
それと同じように、仮にそれが舞台上であっても、誰かが話している時に息を吸うと観客は無意識に吸った側の方を見るという風になるのです。
面白いでしょ(笑)
もっと細かくお話しすると、人の話を聞いている人は大抵、理解するまでは
息を止めてます
そして、
『理解した‼』ってなった時に息を吸うのです
これはつまりこういうことなのです。
お客様に、
「ここで理解できますでしょ!」という隠れたサインを観客に『息を吸うこと』で送っているということなのです。
昔、海外のドラマで、面白いところは笑い声を入れてましたでしょ?
ドリフのコントでも笑いが入ってましたでしょ(笑)
あれは「ここは笑って良いところですよ」と誘導してるんですよね。
舞台を観ていると「面白いんだけど、ここで笑って良いものだろうか」と考える人もいますよね(笑)
つまり客席は公共の場でもあるので、周りと合わせた方がと考えてしまうものですよね。
これと同じで、こちらはご遠慮なくお楽しみくださいという意味で「ここで話の理解をして聞き手がこういう反応をしているのでお客様の理解は間違っていませんよ」という、ホスピタリティのある演技の隠れサインを出しているのです。
それに、こう言った隠れサインは観客の全員に分からなくても良いというお話もします。
例えば、お客さんの中で俳優のその隠れサインに気がつき「話している人から聞いている人を見る」ということをします。
すると、それが雰囲気で分かるんですよね。周りの人も同じように聞いている人に目を移すようになるのです。つられてみるという感じでしょうか。
子どもはにはもっと効果てき面で、
指をさすと、絶対に指先方向を確認するのです(笑)
このように、人間の無意識に起こす反応を知ることで、
より見やすく見ていただく配慮を演技表現で提供するのが私たち俳優のお仕事なのです。
こういう技術はまだまだたくさんありまして、ここでは全て上げきれません。
それに文章での説明もかなり高度になりますので、私にとってはハードルが高すぎる(笑)
もし、まだまだそういう技術を知りたいというお方がおられましたら、
是非、俳優養成講座へお越し下さい(笑)
まぁ、この話だけでも面白いという方が殆どです(笑)
練習もしないとダメですので、帰りに時間があれば、お話しするというくらいのレベルです。
話しても話しても話したりないのです(笑)
それくらい、お芝居の奥の深さを多くの方々に知って頂ければと思っています。
最後に、冒頭でお話しした
手の動かし方で心情を表すには
どうしてこのような身体動作で「伝わる演技」が出来るのか?
それは、
動作表現はどこまで正確にやって心情を表したとしても、観客にはその心情を100%の断定ができない
ということがポイントで、
100%の断定ができないからこそ、ご覧になられているお客様ご自身が100%分かろうと歩み寄って下さることに繋がる
のです。
セリフという言葉で心情を語れば、はっきりと理解し、そういう心情なのだと判断することはできます。ですからそこから情報を取りに行くための想像を膨らませるということはしなくなります。
しかし動作表現は、どこまで行っても100%の判断が出来ないので、心情を理解するには色々提示された情報をかき集め想像するということに繋がっている。お客様がご自身で情報を取りにいくので当然、伝わりやすくなるのです。
つまり、お客様が想像を膨らませて下さることが、私たちの演技というものは「伝わる」ことに繋がっているということです。
私たちの演技は、お客様がいないと成立しません。
不完全と言われればそうかもしれません。
しかし、劇場空間を一体化させるためには、調和が全てです。
演技が完璧でなにからも頼らないものであるならば、お客様も劇場自体も存在しなくて良いものになります。
こちらの足りないピースをお客様が持っている。
そのピースを最後にお客様にハメていただくために、私たちは変幻自在に姿を変え、舞台でお客様との調和を図るのです。
そういう感覚でお芝居をするから、毎回毎回新鮮に演劇が出来るのです。
毎回毎回新しいものが生まれるのです。
そうやって毎回毎回一体化させることは奇跡を起こすことだと思っています。
俳優はそれだけ素晴らしいことをしている。
手の動かし方だけで、優雅に、繊細に、力強く、また自信に満ち溢れたという様々な表現が出来ます。
その表現の一つ一つがレイアーになっていて、そのレイアーが重ね合わさって一人の厚みのある人物が浮かび上がってくる。この浮かび上がってきたものを繋ぎ合わせることが観劇されるお客様の一番の楽しみなのです。
たかが物語と思われる方もおられるかもしれませんが、こうしてお客様が何層もの想像したレイアーを繋ぎ合わせ、やがて人物像が浮かび上がらせているのは、自分の人生と重ね合わせているということもあるのです。
ふと立ち止まって自分の人生を考える時間になっているかもしれないのです。そこに同じ人間としての共感を得られることが、ひいては劇場全体が一つになる。
これはとても素晴らしいことだと思います。
その素晴らしさを、より多くの方々に。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。
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