私はおそらく色々なところで恥をかいています。

まぁ、一般常識がないので、人が驚くことも良くやらかします。

お芝居を始めた時、先生方から褒められたことは殆どありませんが、それでも一つだけ、褒められたことで印象に残った言葉があります。

それは、

思い切りが良い

ということでした。

後先のことを考えないでやっているだけなのですが、思い切りが良い風に先生方からは思われていたようです。

芝居を始めて3年目。初の大役をいただけるようになり、もう稽古していた時のこと。

体力に自信のある私でも、かなりのタイトなワークで、へとへとになっていた時に、師匠がこんなことを言いました。

芝居が下手なんやから、汗かいてお客さんに納得して貰え!

その言葉は、今となってはよく分かります。

これは、申し訳ないからという意味ではないんですよね。

こういう稽古での努力って、公演の時のパフォーマンスでも表れるってことなんです。

どう表れるのか……

それはよく分かりません。いや、本当は分かっているんですけど、無意識によく頑張っているっていうのがどうやら観客の皆様に伝わることなので、具体的には分からないのですすね。

観客の皆様に一生懸命の姿が映ると、

味方についていただける

ってことなんです。つまり、これも俳優の技術なのです。

ただし、これは役の人物の動機から心を動かすのではなく、役者の動機で心が動くってことですので、こういう技術は本当はよろしくはありません。

でも、一生懸命演じているのをご覧になると、感情移入がしやすいので、気持ちを汲んで下さる確率は上がるのですね。

私は本来であれば、役者の動機を表わさないように指導はしているのですが、こうした役者の動機を利用して、観客の皆様に味方についてもらい距離を縮めていただくのも、舞台の醍醐味なので、それも良しなんですね。

汗かいてお客様に納得して貰えって言葉……意外に深い意味がありますでしょ。

新劇の俳優の変わった技術って他にも面白いことが沢山あるんですよ。

この汗をかくということなのですが、最近ではこのことの意味があまり分からなくなっているのかもしれません。

稽古の時から汗をかくという意味です。

稽古の時に、苦しめば苦しむほど、良い汗をかくことに繋がります。

え?稽古って楽しくするんですよね?

私のBlogをご覧になってらっしゃる方であれば、この矛盾が出てくるのではないでしょうか。

しかし私は、上記のような苦しめば苦しむほど良い汗をかくという方法でも稽古は楽しくなっているのだと思うのです。

稽古って、常に自分の実力のちょっと上を目指すのですよね。

ですから苦しいのは当たり前。今日はそれをチャレンジして出来るのかな?という楽しみがあるわけです。

多くの場合、それは体力です。例えば、ここのセリフは一息で大きく轟かせたいというような時、体勢はゆったりではあるが、息は少ないところで話したいという相反するタスクを用意していると、当然ながら難易度の高い表現になります。

その難しい高度な表現を稽古の一発勝負で虎視眈々と狙うのです。この時、ペース配分なんかしたりすると、先が見えた芝居になるので、常にアクセル全開が絶対条件なのです。

この常にアクセル全開にするということが稽古では求められるのです。

稽古でこれが出来ていないと、本番でそれが怠慢という形で出てくるんです。本人は一生懸命本番の舞台で演じていても、稽古での怠慢さが見えてしまうのです。これではお客様を味方につけることは出来ません。

何故、お客様に怠慢な稽古だと伝わってしまうのか?……

それは、おもいっきりの良さがないからなのですね。

もしも稽古の段階で自分がこれ以上は出来ないと本気で感じていたなら、一つひとつにおいて、おもいっきりの良さが光るのです。

しかし、稽古の段階で自分はまだまだ出来ていたなと感じていたならば、一つひとつにおいて、おもいっきりの良いパフォーマンスとは映らないのです。

つまり、汗をかいてお客様に納得して貰うためには、まず自分を納得させないといけないということなのです。

これが汗をかく本当の理由です。

これは言うは易しで、実際に実践するのは結構難しく、多くの方がこの戦いを避ける傾向があります。

何故なら、自分が考えてきたものは完璧に演じたいと思うからです。

完璧に演じたいと考える時点で、未来を憂う状態になります。そうではなく、これ以上何も出ない。ただ、今を生きるだけと心に決めれば良いのですね。

心はそのまま舞台に現れてしまうというお話でした。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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