演技は盗むもの。

どうしてこんなことを言うのか皆様はお分かりになりますか?

私の解釈を今回、お話しさせていただければと思います。

今から30年程前。

お師匠さんから「演技は盗むもの」というふうに教わり、具体的に演技をお教えしていただくことはあまりありませんでした。

所作はお教えいただきましたが、実践における演技術は教えてもらえなかったというか、教えようがないものといった方が良いのか、なんともこの言い表し方が難しかったりするのです。

ですので、私の感覚的にお伝えできればと思います。

演技というのは、型もあるのですが、重要なことは「同じ動作をして真似したところで、伝わるか否かはその人次第」ということを理解することなのです。

「こうすればこのように見えますよ」という形式は確かにあるのですが、実践でやってみてもなかなか上手くいかない。

たとえば、お教えしている人がその所作をやってみせると、なるほどそれはよく分かる表現になっていますが、教わる側がその動きをそっくりそのまま真似ても、お教えして下さる方の『伝わる演技』になるとは限らないのです。

ここが難しいところでもあるのですが、演技は個人個人によって違うということなので、個性を出す楽しみでもあるということが言えます。

これはどういうことかというと、表現する所作を如何に自分が納得して、迷いなく出来ているかというところが大切だということなのです。

教わった所作を真似てみても、自分が「これで本当に良いのかな?」と少しでも感じていたならば、その所作から伝わる表現をマスターすることは難しいのです。

ですが、教えられたことに「もっともだ」と納得して、迷いなく所作を行えば、「伝わる演技』へとなり、自分の演技の引き出しにすることが可能になるのです。つまり、演技は自分が納得するかしないかが大いに問題になるのですね。

ですので、こうやった方が良いですよと、学校のように技術を受け身で教わるような環境ですと、実践の演技はなかなか身につきにくいのですね。

そこで、今回の表題のことに繋がるのです。

自分が欲しいと思って見ている情報から、

「ここに技術があるのではないか?」と目付をして、それを模倣するとどうなると思いますか?

もうお分かりだと思いますが、これですと、技術は身につきやすくなるのです。

ここにこういう技術がある。つまり演技のこだわりを見つける。納得の所作になるわけです。

こうした自分で苦労して得た情報は、誰でも大切にしますよね。

その所作の(動きの情報)から、そっくり真似てみると、当然納得した状態で動いている訳ですから、『伝わる演技』になりやすいと、こういう理屈なのですね。

今からいうことは演劇のみならず、コミュニケーションの基本ですが、

自分から取りに行った情報は大切にするということ

これを覚えていただくと様々なことに応用が効きます。

自分が知りたいと思って追求する。するとその追求した情報は自分にとって大切な情報となるのです。

ですから、例えば会話でも、相手に答えをポンというのではなく、答えを導くような話し方をすれば、相手は自分で答えを探し出し、その導きだした答えは何よりも大切なものとなり、その人の大切なものとなりやすいのです。

お芝居の魅せ方もそうです。ストーリーの中で、色んな「何故?どうして?」を作っていって、お客様に答えを導き出していただく。こういう展開になれば、常にストーリーを追いながら考えている訳ですので2時間の芝居もあっという間の時間となるのです。

如何ですか?

自分から情報を取りに行くってとても重要なことだって言うことが分かりますでしょ?

先人からの技術や知恵は本当に素晴らしいものばかりです。出来ましたら、そういう技術や知恵を若いうちから知ることがこれからの人生の深みを演出する一助になることでしょう。

こういった学びこそが、最大の自己投資だと言えるのではないでしょうか。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

LINEで送る
Pocket
このエントリーを Google ブックマーク に追加
LinkedIn にシェア

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です