俳優志望の方でしたら、この話は知っておいた方が絶対に良いことだと思います。
それくらい重要な話です。
よく尋ねられる質問に、
どうしたら演技は上達するようになるのですか?
というものがあり、この時に私はいつもこう答えいています。
良い役に出会うこと
これしかないように思えるくらいなのです。
私のブログを良くご覧になられている方でしたら、何度か出てくる言葉だとは思いますが、
役の人物から教わる
ということがありまして、演技のその時その時の答えを、役の人物から教えてもらう不思議な感覚を経験するのですね。
この感覚が、身体に染み付き、今後の役作りに生かせるのです。
何故身体に染み付くのかというと、これが少し変な話ですが、
役の人物が自分の身体を通して教えてくれる
ということなのですね。
どういうことかと言いますと、
例えば、自分では思いもよらないお客様の反応があった時とかは、当にこれにあたります。
例えば、お客様から笑いが起これば、「こういう時に笑いに繋がるんだ」と直ぐに理解し、初めてお客様からどう見られているのか客観的に理解出来たりとかするのですね。
これは、お客様から教えてもらうということも出来ますが、役の人物を忠実に表現で来たからこその反応と考えれば、役の人物から教わったといった方がしっくりくるのです。
よく芸事で言われることですが、「笑っていただく」と「笑われる」というものですね。「笑っていただく」というのは今回のお話で役の人物から教わったもので、「笑われる」自分の意図しないところで笑いが起こることのことを言うのですね。
自分の意図しないものだったら役の人物から教わったものもそうではないかと言われるかもしれませんが、これは頭で分かっていても実際にやってみると出来ないことはよくありますよね。役の人物から教わるもので、実際に役の人物を忠実に表現できていないものに関しては「笑っていただく」ことはおろか「笑われる」ことすらないのです。
つまり反応すらいただけない表現だということです。
よく笑われる芝居をするなという人がいますが、笑われるというのは実はお客様を味方につけているという面もあるので、一概には言えないのですね。
ですので、役の人物を忠実に表現すると、そういった思いも寄らないサプライズが素晴らしい学びとなるのです。
ではどうすれば、良い役に出会えるかということですが、
これも動画でご紹介していますので、こちらも参考にしていただければと思います。
どうしたら良い役につけますか?
どうしたら良い役につけるか……?
これからはこう考えていただければと思います。
自分にきた役が一番良い役
だと。
これ本当にそうなのです。
自分に来た役を一番良い役だと思って、役作りに励むことが一番の多く良い役に出会えるのですね(笑)
当たり前じゃないかって思うかもしれませんが、これが意外に分かってらっしゃらない人が多いのです。
私は、最初舞台に出る時は、出来るだけ「ちょい役」の方が良いと思っています。
最初から良い役についてしまうと、ちょい役が物足りなく感じてしまうからも勿論あるのですが、一番の理由は
下積みの読み方が出来ず、しっかりと演技のプランが立てられないから
なのですね。
下積みの読み方ってどういうことかというと、
下積みの時は出演できても、セリフが一つか二つです。その一つか二つのセリフにこれでもかっていうくらい意味を入れてくるんですよね。
そこまで考えなくても良いのでは……?
と言われるかもしれませんが、実はこういう俳優のこだわり、つまり出番が少ないわけですから、役の魅せ方を比較的に簡単に作り上げることが出来るのですね。
そして、こうしてほぼ完ぺきに計算して作り上げようとする時間は、俳優にとって至福の時間であり、とても楽しいのです。
早く稽古でご披露したいとうずうずするものですね(笑)
そういう気持ちで稽古に臨むわけですから、当然周りの人の目には稽古を楽しんで取り組んでいるというふうに写ります。
こういう人が一人いるだけで、稽古場の雰囲気は変わるので、演出からしても楽しみな逸材になるわけです。
楽しみのある可能性を秘めた逸材ですから、次のチャンスは必ず到来するということに繋がるのです。
こういう流れで、良い役が次々とくるのです。
芝居が上手いから、次々と良い役が来るという訳ではないんです。
ましてや、芝居が上手いことを鼻にかけて稽古に臨んでいたとすれば、そういう人と一緒に芝居をして面白い訳がありません。そういう人は芝居の根本的なことを見失っていると言わざるを得ません。
私たちは、参加者全員の力でお見せするのが最大のミッションです。そういう調和のとれない人がいるといくら芝居が上手くても、芝居として成立しなくなる確率が上がるので、そういった人を起用するのは避けたいところです。
ですので、目の前の事を楽しく取り組んで、周りの期待以上のことを持ってくれば、次の高いステージに上がるのはもう用意されているようなものなのです。
こういう理由もあって、俳優は謙虚な方が良いということなんですね。
色々と自分で考えてきたものをご披露することは本当に楽しいのです。思いっきりも出来ますし、何しろ清々しいのです。
しかし、ちょっとでも曇った気持ちで臨んでいれば、それは稽古を見る人からすれば直ぐに分かります。そういう人はダメ出しが来やすいのです。
いくら自分が考えてきてやってきたと言っても、それはそのつもりになっているだけということなのです。
本当は自分でも、まだまだ潔くやってはいないと心のどこかで感じているから、周りの人もそれに気がつくのです。
ですので、自分の為にも、本当に考えられたものを稽古でお見せすることに集中することが何よりです。
そうやって、自分の一生懸命に持っていける環境を作ることを目指して欲しいのです。
良い環境があれば、成長するのは間違いありません。ですが、良い環境は周りが用意するものではなくて自分で作ることも大切なのです。自分で作って良ければ、周りがサポートしてくれて、あなたに相応しいステージをどんどん提供してくれるわけなんです。
今自分がいるところが最高の環境だと思って懸命に取り組んでみれば、すぐに良い役は来ます。
あなたを成長させてくれる役が。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。