息は表現においてとても重要な動作表現になります。
しかし、息は普段無意識にしているものですので、息をコントロールすることは意識していないと出来ないものなのです。
苦しくならないように息を無意識にしている。そう考えると人間の無意識って本当に凄いですね。心臓も無意識に動かしているのですから。
息の表現は先ほど申し上げたように意識的にコントロールしなければ出来ないので、息を演技表現に取り入れるということはどんな時に息を吸うのかまたは吐くのか、または止めるのかということを予め知っておかなければならないということになります。
ですので、息の動作表現をしっかりと駆使して、より正確に「伝わる演技」を身につけて参りましょう。
演技は感情を入れれば出来ると考えている人が俳優をやられている方の中でも大勢います。しかしそれは違います。演技は極めて冷静にしなければいけません。自分という表現装置を使って司令塔から一つ一つボタンを押すような感覚でお芝居をします。
そんなロボットみたいなことをするとリアリティがないようにみえるのではないか?と思われる方もいるかもしれません。
しかし、演技というのは感情を入れるだけですると主観的なイメージでしか捉えていない場合が多いので、
本人はしっかりと感情を入れてやっていてもそうは見えない
ということが往々にあるものなのです。
感情だけでは出来ない理由は、人間の動きの殆どは無意識で動いている場合が多く、その無意識を練習もせずに模倣することは出来ないものなのです。
自分ではやっているつもりでも、見ている人からすると全くやれていないということの方が寧ろ当たり前なのです。
これを「つもり芝居」と言って、このことを知らずにやられている俳優は実はとても多いのです。
これを防止するために、演技練習の一環としてエチュードで身体の動かし方を練習するのですが、正確な身体の動かし方をしている俳優は本当に少なく、これが今の演劇の問題の一つだと思います。
よく演技練習を見ている時に
「そんなご飯の食べ方をしている人はいないよ!」
「そんなにペットボトルを傾けて飲まなくても飲めるよ」
など、実際にやってみたら簡単に分かることなのですが、それでもエアーでお箸をもってご飯を食べてもらったり、エアーのペットボトルで飲み物を飲んでもらうと、
本当にとんでもない動かし方をしている人が多い。
これは批判しているのでなく、それだけ無意識にしている事なのだから仕方がないということでそれをまず知るということが大切ですよと言いたいのです。
その無意識を意識化するのが今回の表題のテーマでもあります。
自分(俳優)の息で台詞を話してはいけないとはどういう意味か……
これは少し説明が難しいのですが、感情だけで演技しようとする人は、役の人物の感情は分かっても、その時にいている状況などのコンディションなどを全部踏まえて演技するということは殆ど出来ません。
何故かというと、先ほどお話ししたように、自分が思っている動きと実際の動きは違っている場合が多いからです。
ですので、その動きの誤差をなくすためには、実際に動きを細分化して、その動き一つ一つのメカニズムを知ることが求められるのです。これが無意識の部分を意識化するという練習です。そんな大変なことをしないといけないのですかと言われれば、お客様からお金をもらう演技技術としては当然で、そのために普段から動作練習をしないといけないのです。誰もが出来る技術にお金を払う人はいません。ですからここは当然そうあって欲しいです。
話は少しそれますが、ここの動作練習の重要度が分からないと俳優は続けられません。好きだからやるでは出来ないところです。
ですので、そういう動作の基礎練習をしっかりとして、感情だけでは出来ないということを身体に覚え込ますことが必要なのです。
例えば、役の人物が怒っているという表現をします。
激高して相手を恫喝している人を想像してみて下さい。
この人は相手を恫喝しているのでかなり罵声を相手に浴びせているのですが、これを演技ですると、役の人物の息で話さずに、役を演じる自分の息で話をどうしてもしてしまいます。
それは何故か?
それはとっても簡単な理由です。
とってもしんどいからです(笑)
とってもしんどくなると人は息が切れた時、無意識に息を吸ってしまいます。
しかし、恫喝している人の息は、怒鳴っている時は思いっきり息を吐き出しています。そして相手の言葉にかぶせようとするために間髪入れず吐き出すこともよくするのです。
この人どこで息吸ってるんだろ?
というくらい、怒鳴り散らかしている(笑)
しかし芝居になると台詞が決まっているので相手が台詞がある時はどうしても…
休み時間になってしまう
ことになりがち(笑)
休み時間だから、ここで息が吸えると無意識に吸ってしまうのです(笑)
こうすると、恫喝している時の緊張感がなくなってしまうことに気がつかないのですね。
緊張感を作るためにどうすれば良いか……?
それは、
息を止める
ことなのです。
場をコントロールしている人が息を止めると周りにいる人間も一緒に息が止まるのです。
これが固唾を飲む表現になるのです。
要は恫喝している時にこの人はどこで息を吸っているんだろうと分からないくらい相手にたたみ込んで言葉を浴びせると相手はその勢いで怖れしかない状態になってしまうのです。
そんな時に息を吸ってしまったら、相手にも落ち着ける隙を与えてしまうので、
とってもゆる~い緊張感の出ない怒号が鳴り響くだけなのです。
これは、観客に無意識に伝わるので、こういうお芝居を観てしまうと無意識に芝居臭いと感じてしまい、
ただ単に演じてますよって感じで、うるさく怒鳴ってて不快感しかない
シーンになってしまうのです。
恫喝している人やケンカしている人は本来、相手に息を悟られまいと無意識にしています。
柔道でもそうですね。息を吸ってしまうと体が軽くなってその間に技を掛けられる恐れが出てしまうので、息を殺して悟られまいとしますね。
ですので、こういうことを踏まえた考えで取り組まないと、こういった真剣勝負を舞台で感情だけでするのは実はとっても難しいのです。
まず、お相撲さんが相撲を取った後のインタビューを見ていただければわかります。
一分もない取り組みでも、あれだけ息をぜーぜーさせているのは、見ている人にはなかなか分からないと思いますが、実際にやってみたら
無茶苦茶しんどいですよ‼
素人の相撲でもしんどいのに、
よく関取は、あれだけ凄い取り組みを15日間もしてるなと本当に感心しますから。
本当にしんどいのですよ。人との真剣勝負は。
そういう感情とは別の環境やコンディションを踏まえて表現するするのは大変なことなのです。
芝居は冷静にする。
こういう時は身体がこうなって息はこうなるからそれを忠実に切欠が来た時にその感情を動かす動作のスイッチを押す。
こういう感覚で芝居をしているのです。
そうするとどういうことになるかというと、本当に感情が湧いてきて、自然と相手の話もすっと入ってくるし、相手の心にすっと入る演技が出来るようになるのです。
この時、俳優はとてもやりやすくなり、見ている観客もテンポの良い芝居と感じるのです。
これも客席と舞台を一体化させる技術。
演技は表現するためだけの技術ではないということがお分かりいただけましたら幸いです。
最後までご覧いただきましてありがとうございました。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。