台本を読むには技術がいる

はい、また出ました変な話(笑) ・・・実はこの話、演技をお教えする上で最も時間を割かなければいけない部分で非常に奥の深いものであります。今回は簡単に説明しますが、それでもなかなかのものですので、是非お付き合い下さい。

まず、先ほど、台本はとっても簡単に読めると書きました。それなのに技術がいる。おかしな話ですよね。

これはこういうことです。

どういう話か理解することは簡単だけど、どういう風にこの話を表現するのかが難しいのです

この話をどういう風に表現すれば良いのだろう?となった時、ここにこの台本を読む技術がなければ、上手く表現が出来ないのです。ですから普通に読んでいたら演技は出来ないのです。しかし残念なことにこの台本を読む技術は俳優の特殊な技術なのにもかかわらず、この技術をお教えしているところが少ないのですね。

それもそのはず、技術というものは教えられて身につくものではないという昔からの風習があるので、技術は学校ではなく現場で盗むものでした。これはおそらくどの世界でもそうではないでしょうか。学校で知識をつけたところで、いざ実践で現場に立つと何にも役に立たないということは周知の事実だと思います。私もその中でこの技術を身につけたものですから、本来はこのように現場で痛い目に遭いながら覚えることも有りかなとは思います(笑)

しかし、それでは今の風潮には合いませんので、なんとかここを分かりやすくお教えすることは出来ないものかと、私、10年間考えました。そこで今の経過段階での答えはこれに至ったわけです。これは、とっても驚かれる内容だと思います。

またまた変なことを言いますが・・・・・(笑)

表現方法の答えは台本にはない

ということです。どういうこと???

ですよね(笑)では、演技の答えはどこにあるのだ???ということですが…それは…

私たちの心の中にある

のです。台本は飽くまでも答えを導く情報だけでそこに答えはないのです。ですから、この台本から答えを導くために、自分の心の中から引っ張り出す作業がいるのです。これが簡単に言う『台本を読む技術』という訳です。

ここからは少し簡単に申し上げますが、例えば、先ほど冒頭で、「何度か戻って読み直す作業をする」と書きましたが、舞台はご承知の通り、リプレイはしません。ということは、「何回も戻って読み直すような読み方」で話を進めてはいけないのです。ここには細工がいるということです。

どういう細工かというと、話を進めて一回で見て分かっていただけるようにもっていく細工が要るのということです。

例えば、皆さまは、10分くらいの人の話を一から十まで理解し覚えることが出来ますでしょうか? しかも一回で…。

出来ませんよね(笑) 不可能です。ということは、理解し覚えていただくための要所はしっかり押さえないといけないわけです。では、その要所はどこにあると思いますか??? ・・・・・それが、自分の心の中にあるという訳なのです。

この要所になる表現の答えを頭の中から引っ張り出す作業は本当は沢山の工程が要るのですが、一つだけ言いますと、一番最初に台本を読んだ時、あなたはどう感じましたか?と自問自答するようにすれば、その要所が必ず見つけられるようにはなるのです。

つまり、こういうことです。一番最初に読んだ時、「あれ、この人誰だっけ?」と思って、もう一度戻って読み直しますよね。

この「この人誰だっけ?」と思ったところが要所

になるのです。ここを押さえておけば、戻って読み直した時に、理解できた台詞やその状況が簡単に見つけられて、そこの場所をしっかりと表現しさえすれば「この人誰だっけ?」とはならないのです。

つまりこれは、自分の一番最初に読んだ時の感覚がお客様の感覚と似ているので、その自分の引っかかった部分や、感動した部分をノートに書き記しておく必要があるのです。

ポイントなのは全て自分がどう感じたかということ。これが「表現方法の答えは自分の中にある」ということなのです。このような読み方をすれば、当然ですが台本には書かれていない感情や表現方法が生まれたりして、絶対に台本からだけでは分かりえない素晴らしい発見が出来るようになるのですよ。面白いでしょ‼

これが出来るようになるとお芝居は本当に面白くなります。

そしてもう一つ台本の表現方法の答えを見つける方法を言いますね。それは「台本は後ろから読む」こうすることで理解が深まりより明確な演技がしやすくなるのですよ。

答えが最後に書いてるのですから、その問題はどこにありますかという問題提起が出来る。そうすると、その答えとなる問題提起部分が簡単に見つけられて、そこをお客様に見ていただくように頭の中でイメージしたものを意図的に表現すれば、演じる方向性は自ずと決まってくるのです。

あと、もっと簡単な読み方の方法をお教えしますね。

悲劇の場合は、最初は出来るだけ明るい幸せな始まり方が良くて、喜劇の場合は最初は不幸のどん底から始まると面白いのです。これは劇的という考え方で、人間の葛藤を作品のクライマックスとすると、その前と後で正反対の方が面白いという概念を持っていくことにより、お客様に分かりやすく作品を理解していただけることが出来るのですね。まぁ、そんなに単純なものではありませんが、これを押さえるだけでも、十分お芝居の面白さは引き出せます。

この台本を読む技術が私の講座で演劇教室ではとても人気で、これだけで何講座も出来るくらいのボリュームです。時には私のところには公演台本が届けられて、

さいとうさんならどう読みます?

と相談を受けるほどです(笑) それも一度や二度ではありません。自分ならどう読むという考えの中の奥には、いつもお客様目線でのロジックが必要ですので、見方を変えることがどうしても必要なのですね。この見方は簡単に出来ると思われるかもしれませんが、実際にやってみると笑っちゃうくらいできないものなのです。

「自分たちの表現でお客様がどう思われるかまで責任を持つ」ことが俳優の仕事

ですから、何としてもこの技術をマスターしていただきたいのです。しかしながら、この台本を読む技術を習得するのに私は10年はかかりました。皆様であれば、5年で済むかもしれませんが…(笑) それだけ私はイケてない役者ではありましたが、それでも、それだけ覚えるのが難しい技術なのです。演技表現をする上での大切な大切な下拵えの技術なのです。

台本の読み方は人それぞれといわれるかもしれませんが、そういう意識ではお芝居で一番需要な一体感を生むことが出来ません。お芝居は客席と舞台が一つになってみんなで作り上げることが最大の魅力なのです。そうした一体感はとてつもないエネルギーとなり、心の浄化を起こします。みんなが一つのことに感動し合えることはこの世の最良の幸せといっても良いのではないでしょうか。私たち俳優はそれだけ凄いことをやってのけようとしてるのです。

このお話の詳細がもっと知りたいと思られる方がいらっしゃいましたら私たちの俳優養成講座でお話ししますので、ご関心がありましたら是非お問合せ下さい。

タップするとブルアの俳優養成講座ページへ

またこの技術の一番素晴らしいところは、この技術を身につけると、稽古でのアドバンテージもとれますので、楽しい稽古になるんです。マウントを取るという訳ではありません(笑) 俳優も演出も意見を出し合ってお互いに共同で作ってるんだなという意識が明確に生まれるのです。これは稽古では一番大事なことですよね。そんな大事なことなのに、演出がワンマンだったりすると、俳優から「したい」はなくなり、「しなければならない」だけのタスクになるのです。

演出をする私が言うのもなんですが・・・・

演出の言いなりのような稽古なんて本当に面白くないですからね‼

でも、お見受けする限り、演出の言いなりの現場は多いように思われます。

戦わなきゃ‼

俳優の地位を向上させる委員会としてはこれを何とか普及させたいと思ってます。皆様もこれを覚えて、ご協力くださいますようお願い申し上げます。

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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