今回のお話の内容は結構深刻なものだと私は受け止めています。

何故なら、この問題「ダメ出しばかりの稽古になっていませんか?」は、

日本人の陥りやすい考え方

だと思っているからです。

これは日本の教育の問題でもあるかと密かに思います(笑)

それは、

『良いものを伸ばす教育』ではなく『足りないものを補う教育』

になってはしないだろうかと思うのです。

つまり、画一的な教育になってはしないかということです。

こんなことを書くと怒られるかもしれませんが、

演劇の世界でも、作品作りをする時に『それではダメだから直しなさい」という指導が成されている現場は結構多いのです。

勿論、そういう風に言わなければならない時もあるかもしれませんが、安易にダメ出しをしてる現場を見ると、私はとても危機感を覚えます。

何故危機感を覚えるかというと、

欠点と捉え、個性と取ることが出来ない風潮ができてしまう

ように思えるからです。

こういう風潮で作品作りをしている中にいる人の考え方は、

「○○しなければならない」「そうするのが当たり前だ!」と義務感から動かされる動機で活動することになる思うのですね。

こういう芝居の活動をして楽しいのでしょうか?

お芝居が好きでやっているのにもかかわらず楽しんで稽古に取り組んでいない人をあまりに多く見てきました。

何のために芝居をしているの?

良い作品を作りたければこの風潮から脱却した方が良いと私は思っているのです。

ではどうして、この「ダメ出しばかりの稽古になる風潮」が危機的なモノになりうるのかということを今回お話します。

芸術には想像的感覚が必要

まず結論から言いますが、ダメ出しばかりが蔓延っている環境は、全員で作っているという感覚がなくなります。

何故なら、理由は簡単です。

演出の言う通りにしなければいけないというような風潮になっているからです。

「演出に言われたからそうする」「こう動かなければ演出から、はたまた先輩から怒られる」という会話が横行するようになっていますよね。

実は私もダメ出しばかりの環境で育った1人なのですが、相当厳しいことも言われましたし、今では絶対にNGな言葉も浴びせられましたね(笑)

こういう時の心境は、こうなるものです。

「演出の言われた通りにしなきゃ、またダメ出しを喰らう」(笑)

だから、演出の言われた通りにしなければならないことを半ば強引にさせられました(笑)

こういう稽古を積み重ねると、段々と稽古に出ること自体も、

稽古に行かなければならない

となってしまって、かなり苦痛になるのですね。

自分なりにしなければならないものを持ってきたつもりでも、演出からやる気を正されたりもして、酷い時は、セリフの一行を何度も何度も稽古させられて、

「お前がちゃんとしないから、他の者が稽古できないんだぞ!」と言われたこともありました。

ある日、自分なりに精一杯やってきたつもりでしたが、それでも、出来ていないとダメ出しをされて、他の先輩からも「やる気があるのか!?」と叱咤されたこともあり、思わず私は「これが精一杯なんです!これ以上どうしろと言うんですか!?」と逆切れした苦い過去もあるのです。

あの時代は、そういうことが普通だったのですね。

でも今から思えば、それの良い経験にもなったと思う反面、

自分で考える脳を完全に失っていた時期でもあったと言えます。

つまり、演出家の「こうしろ!」がタスクになっているため、理屈抜きで指示通りこなすことが求められていた訳です。

自分でこうしてみたいとか、これにチャレンジしたいとか、そのような自発的なクリエイティブなものはなく、心がすさむ時期もありました。

演出の言うことを守るのに必死で、他にやってみたいということは頭にはありませんでした。

そして、また新たなタスクが目の前に現れた時に、いつしか、

このタスクはどうやって乗り越えて良いのか分からなくなってしまったのです。

どう表現して良いか分からないまま稽古をしますが、当然そういう中途半端な演技には容赦のないダメ出しが浴びせられます(笑)

そして、どうして良いか分からないと演出に吐露すると、

「そんなもんは、自分で考えることやろ!」

と叱られるのでした(笑)

この時、自分が如何に情けないかということを思い知らされました。

自分がイケてないから、演出にいつも怒られるんだ…

そういう時の稽古が一番辛いのですね。

おそらくこのような経験をされた方は他にもおられると思います。

ではこのような環境からどのように抜け出せたのか?なのですが、

私の思う最大の理由はこれです。

開き直って演出に何を言われても他者基準ではなく自己基準でいることが出来たから

だと思っています。

いくら演出に厳しいダメ出しを喰らっても、私は常に心の中で、

「そんなん言うんやったら、自分がしてみろ!偉そうに言いやがって!」と思うようにしてました(笑)

変な言い方ですが、演出は思いっきり私の自己肯定感を下げさせようとしましたが、私自身は自己基準で自己肯定感を常に上げていたので、それが幸いしていたのだと思うのです。

すみません。ここで誤解をされないように付け加えますが、演出は意図的に私の自己肯定感を下げようとしてたわけではありません。演出も私が演技が良くなるために尽力して下さっていたのはよく分かっております。

しかし、ダメ出しを受けている人にとっては、どうしても被害者的になってしまうので、敢えてこういう書き方をした次第でして、決して悪意的な意味ではありません。

要するに、ダメ出しを受けると、自動的に自己肯定感が下がり、「自分がダメだから直さなければいけない」という自然な流れなるのです。

相手が望んでいることに注視するので、クリエイティブに動くことをせず、言われた通りに動くことになってしまうのです。

だから、このように言われる演技者の方もいます。

「昨日、演出はこっちに動けと言われたのですが、今日はまた違うことを言っている。どっちに動けば良いですか?」

と。つまり昨日言っているダメ出しと今日言っているダメ出しが違うと演出に指摘しているのですね。

この時に演出が、

「そんなもんは自分で考えろ!」

となってしまうのです(笑)

これどちらが悪いわけでもないのですが、敢えてこの原因を言うと、

ダメ出しの多い演出家は考えなくなる俳優をたくさん育ててしまう

ということですね(笑)

つまり、一方で「考えるな」としておきながら、都合が悪くなったら「考えろ」と言ってるようなものなのです。

これって、責任のなすりつけ合いになるのですよね(笑)

お互いに「お前が悪い!」と言ってるようなものです。

一方、ダメ出しを多く受けている俳優にも問題はあります。それは、想像的な作業を自分で出来なくしているということです。

演出の言うことが絶対!

となっていれば、最初から考えることがなくなってしまうのです。

ですから、

俳優と演出は稽古で戦わなければいけないのです。

演出はこうして欲しいと言ってるけど、俺はこうしたいんだ!

と言って勝負できている俳優がどのくらいおられるでしょう?

おそらくとても少ないことだと思います。

それが、欠点を個性に取ってこなかった今までの教育なのではないでしょうか。

人を教育する上で、一番簡単にコントロールさせる方法は、教育する人の自己肯定感を下げさせて「自分が出来ていないから、直さなければいけない」と思わせること。

そのように思います。

しかも、それは、教えている人の為だとしてされる場合が殆どなのですね。

悪いところを指摘することは親切だと思っている人もいる。

しかし、そのことで失っているものが、芸術作品を育てていく一番大切な想像力ではないでしょうか。

舞台は、演出家一人が作っているものではありません。ダメ出しが多い環境下では、どうも舞台が演出のモノだけになっているように思えるのですね。

そういう作品は、劇場を一体化させるのはなかなか難しいように思います。勿論、そのダメ出しによって、俳優を感化させている場合は別です。

それが、ダメ出しを言わなければいけない時なのですね。

「あなたは、そんなところでくすぶっている人ではないはずだ!」

つまり、ダメ出しはするけれども、自己肯定感を上げるようなダメ出しが必要だということなのです。

演出の仕事は、これが出来るかどうかで決まってくるように思います。

つまり、ゴールに俳優が素晴らしい演技を持ってくることを信じ、そこに辿り着かない場合は、寄り添って、時には叱咤もすることが何より大切なのです。

今、目の前で見ているものに判断して、安易にダメ出しをしてはいけません。それは俳優を信じるという行為にはならないからです。

俳優を信じているからこそ、俳優は遣り甲斐を感じるのです。

ダメ出しばかりをしている演出家は、時に俳優の遣り甲斐を奪っていることに気がつかなければいけません。

それよりも、ちょっとした良い兆しの変化でも見逃さないぞ!という目で、そこを指摘できるようになればと思います。

自己肯定感が上がれば、クリエイティブに考えることが出来るようになり、芝居も楽しくなります。

自己肯定感を上げるのはそれだけ重要なことなのです。

謙虚な日本人。でもそこが盲点となってしまっている。そのように感じます。

自分はイケてるんだと思わなければ、イケてる人にはなれません。

イケてない人が舞台に出てお金をいただいてはいけません。

このイケてるかイケてないかは、自分で決めることです。人が決めることではありません。

そうやって、自己管理して、常にイケている自分だとなっていれば、想像的感覚が働き、

「やってみたい!」「してみたい!」

が増えるのです。

努力している人は、周りから見れば努力と見るかもしれませんが、その努力している人からすれば好きでやっている訳ですよね。これは自己基準で物事が見えることが出来ているから、それが出来るのです。

「しなければいけない」という環境に持っていってるのは自己肯定感を下げる自分でもあるのだと戒めて、決して自分の価値を下げないように努めていただければと思います。

もう一度重要ですので、申し上げますが、

演出からダメ出しをもらっても、自己基準で常に考え、自己肯定感を決して下げないように努めることが俳優には求められます。

以上が今の演劇事情に対する私の一個人の想いです。

とても偉そうなことを申し上げて誠に恐縮ではありますが、

これから、演劇を始められる方々に読んでいただき、自己基準で演劇の練習に取り組まれる助けになればと。

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

劇団Blue Earth Theater Company代表

さいとうつかさ

劇団道化座に14年間所属し日本全国、海外で公演。現在は役者の勉強会「いわゆるえんげきの会」と当劇団の代表を務めております。ステージ出演回数は400回以上と実践で培った演技指導が強み。劇団以外でも、演技指導、演劇ワークショップを行なう。スタニスラフスキーシステムを独自にアレンジした実践型メゾッド『ゆるえんメソッド』は今までにはない演技練習法として支持を得ております。特長は「ダメ出しではなく褒め出し」「自分を変えないで本来の自分をみつける」という考えで、演技向上だけではなく「自信を深める」演技レッスンを行なっております。

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