私たちは、普段の動きについてどれだけ意識してると思われますか?

実はほぼ、大半が無意識で体が勝手に動いているのです。

心臓だって動かそうと思って動かしている訳ではありませんよね。瞬きもしようと思ってする人はほぼいないはずです。視線も観ようと思って動かすこともありますが、ほぼ無意識の動作で必要最低限の情報を取るために周りの情景を見ているといった方が正しいかと思います。

つまりこれは何が言いたいかというと、

私たちの行動はほぼ無意識によって動かされている

と考えることが出来るのです。そしてこの無意識の行動は、自分の居心地の良い状態を保つために常に最適に動いているだけに過ぎないのです。

例えば、朝起きてまず何をするか人によって違いはありますが、その人その人の習慣は必ずあるはずです。起きてすぐトイレに行く人もいれば、起きてすぐ顔を洗って、歯を磨いてという方もおられるでしょう。つまり、自分の無意識の行動が、自分の最適を決めて勝手に動いているのです。

ここでです。もし、この習慣を変えるとどうなるでしょうか?

これは簡単な話ですが、習慣が変わると自分の方向性が変わってしまうために、強制的に戻の習慣に戻そうとする無意識の力が働くのですね。これが俗にいうホメオスタシス(恒常性)というものです。人間の本能は本当に変化を嫌うので、自分の意思で決めたことであっても、自分が変化するようであれば、無意識の自分は全力で変化しないよう阻止しようとするのです。この阻止の仕方が、継続させない考えを浮かばせたりして、新しい取り組みをしない理由を考えるということをするのだそうです。

ですので、私たちの無意識の行動を変化させるのは実はとっても難しいということなのですね。

しかしながら、これを演技練習の方法でやると無意識の行動が変わりやすくなるのです。

ではどうすればその演技練習で無意識の行動が変えることが出来るのでしょうか?

それが身体動作から感情を誘発させるというシステムを使うということです。

例えば、いつも気持ちが暗い人がいるとします。そういう方は、間違いなく、

気持ちが暗くなるような身体動作をしている

ここにまず気がつかなければいけないのです。

身体動作から感情を誘発させる演技理論から見ると、

息の吸い方、声の高さ、視線の位置

これらいずれかが、暗い感情を誘発させる動きになっているのです。

息は、吸う方にだけ意識を向ける

声は高い方で

下を向かない

これだけで、全然変わるのです。

暗い気持ちの人は、息の吐く方に意識を向けている。これはため息ですね。

声が低くなる。感情が誘発されにくいので、イメージ力が低下し、常に同じ考えに苛まれる。

下を向くと、近くの情報しか入らず、内に入り込みやすくなる。これは少し難しいことですが、世の中の多くの人が、自分に目が行くようになっていて、このように内向的になると積極性にかけるだけはなく、自己肯定感を下げる要因にもなるので負のスパイラルになりやすいのです。

ですから、とにかく外に目を向けることが何より重要で、人と比べて自分はどうかとかそんなくだらないことを考えるのではなく、いち早く世の中の調和の法則に気がつくことが重要なのです。

世の中の調和の法則とは、今まで自分はこういうところが人よりも劣っていると考えていたものが、ある世界に飛びこめば、逆にそれは強みですよってことが普通にあるのです。そこに飛び込めるか否かは、常に外に目を向けていなければ、いつまで経っても自分の環境が変わらないので、自分の劣ったところばかりが目に行くというこういう単純なことなのですね。

下を向くだけで、内向的になるってどういうこと??

ここに疑問を持たれる方もおられるかもしれません。ここで演技のお話になります。

下を向いている人を見ると自分が現れてしまう

これはどういうことかというと、舞台上で生きる時に下を向いてしまうと、素が見える。つまり役の人物ではなく、役者本人として見えてしまうということを昔からよく言われてまして、確かに、下ばかり向いて表現している人は…

自信がないのかな…?

なんて、見えたりするのです。他にもまだ理由はあるのですが、今回はこの辺で置いといて(笑)

勿論、下を向いて表現することも当然必要な時があるのですが、その下の向き方が演技の上ではあったりもします。ですので、下を向く芝居というのは、実は難しかったりするのです。

話はだいぶ逸れてしまいましたが…(笑)

つまり、気分が暗くなる動作をしないようにすることが大切なのです。

そして、気分が良くなる動作に変換すれば、これが不思議と性格も明るくなり、積極性も伴うので行動力が爆上がりするのです。

では今回はその方法をお教えします。

まず息の吸い方から。

空気はタダですから、あまり有難味がないかも知れませんが、なければ一番困るものですよね。だから、空気って有難いなって思って息を吸って下さい。

ただこれだけではいけません。

バカバカしいのですが、何回も何回も反復練習するのです

大きく吸い込まなくても大丈夫です。逆に一気に吸い込むとめまいを起こすかもしれませんので、くれぐれもお気をつけ下さい。

ゆっくりと有難いとイメージしながら吸い込むのです。

この反復練習をするとやがてこういう変化が現われます。

身体が温かくなる。血の循環が良くなる、指先まで血液が行き渡ってるような感覚になる。

そして、一番大切なのは、

感動して痺れるような感覚が芽生えてくるようになる

のです。私はこれを…

ゾワゾワ感

と名付けております(笑)

演技において、このゾワゾワ感が出ている時というのは、観客にも伝わりやすく、感情を受け止めていただく心の扉が空きやすくなるように思います。

それだけ、臨場感のある表現として伝わっているということなのです。

ですから、身体動作から感情を誘発させてこのゾワゾワ感を出すことが何よりも素晴らしい表現なのだと思って日々演技練習に励んでいるのです。

これは少し余談ですが、感情の種類によって、痺れるところが違うというのもミソなのです。

良い感情でゾワゾワ感が出る場合はほっぺから首筋にかけて出てきて、怒りなど悪い感情の時は、前頭葉あたりからゾワゾワ感が出てきます。

このゾワゾワ感が出ると、放っておいても感情が自然に誘発されるようになるので、本来の感情を抑えつつも溢れ出してしまうという絶妙な表現が現れるようになるので、これが演技の面白いところだなと思います。

また脱線しました(笑)話を続けると…

こうして反復練習をしていくと、今まで気がついていない自分の中の感覚が目を覚まし、その感覚から新たな自分が作り出されるというような感じになるのです。

高い声もそうです。高い声は、演技的に言うと「気を遣っている」という表現になるので、それだけではいけないのですが、ここに先ほどの息をしっかりといれて高い声を再現すると、

元気な声になるのです

ここでのポイントは大きな声を出そうと自分に命令してはいけません。これだと自分に無理させていることになり、恒常性は全力で阻止しに来ます(笑)

ですので、こういう練習はだましだましが良くて、気がついたらいつの間にかこうなってたという感覚で取り組むことが望ましいのです。

息を吸う意識を持ってゆっくり吸う。そして高い声で話してみたらどうなると思いますか。

笑顔になりやすいんですよね

ここで笑顔になってと命令するとこれがダメなのです(笑)

絶対に奴が全力でとめにかかります。

何が面白いんだバカバカしい!止めちまえって…(笑)

こういう風に自分を上手く動かして、いつの間にか変わっていくんだということをするのです。

幸い、演劇はその練習を設けているので、仮に強制的にやっても、恒常性はそれほど関係ありませんが、普段の気分転換法でこの演技練習を使うのであれば、命令であってはいけません。極めて簡単な動作をするに徹していただいた方が良いのです。

最後に視線を上げる話ですが、人間は一日6万回何かを思考していると言われています。そして恐ろしいことにその殆どはネガティブなことなのだそうです。それはそうかもしれませんね。危険を察知して、自分を安心なところに持っていくのが恒常性の大切な役目なので、悪いところに目を向けるのは当然かもしれません。

しかし、このネガティブな思考が、自動的に身体動作を決めて、気分を低くさせている要因にもなっているのです。ですから、まず、自分が何かネガティブなこと考えているなと気がついたら、その時、考えを遮断することが重要なのです。

ここで間違ってはいけないのは、ネガティブな思考が出てくるのを決して責めないことです。これは本当に仕方のないことですので、考えを遮断することに専念して欲しいのです。その時に必要な動作が上を向くということなのです。下を向くと継続的に考えてしまう傾向にあるので、視線を変えて、違うものを見る。これに専念するこれです。この習慣はとても大切です。

それでも出てくることもあるでしょうけれども、ここでお釈迦様が仰った言葉、相手にしないというのが大切なのだと思います。

怒りをお釈迦様にぶつけてきた人がいて、お釈迦様はこうお尋ねになられました。

「贈り物を持ってきても相手が貰ってくれなければそれは誰のものですかと」

その怒りをあらわにした人は「受け取らないのであれば、それはその贈り物を持ってきた人のものであろう」と。

するとお釈迦様は「あなたの怒りを受け取りません」として、反応しないというお話がありましたね。

放っておく術を身につけるにはこうした身体動作を覚えておくと良いと思います。

視線を自分よりも少し上に変えるだけ。これだけでいいのです。そうして反復練習を繰り返せば、ネガティブな感情に支配されたオートパイロットモードの行動は少なくなるでしょう。

そしてこのネガティブな感情から動かされた習慣が少なくなればなるほど、自分の望む道に進みやすくなるという訳ですね。

如何でしたでしょうか?演技の話からここまで出てくるとは思いもよりませんよね。

演技って素晴らしい技術だってことが多くの方々に知っていただければと思います。

気分が沈みがちな人にこの話を少しでも聞いていただければ、演劇に関心を持っていただけるかなと思います。

全国色々なところで演劇活動されてらっしゃる団体があるかと思いますので、もしご関心がありましたら、これを機に門を叩かれてはいかがでしょうか。きっと楽しい世界が開かれることだと思います。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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