何度も申し上げますが、「演技というのは自分の心を動かす技術」です。
この心の動かし方をマスターすれば良いのです。
ではその動かし方なのですが、答えから申しますと、それはこういうことです。
身体動作から感情を誘発させる
これは普段の生活でも大いに生かせる方法ですので、是非、実践していただきたい内容です。
例えば、毎日良い気分で過ごしたいのであれば、この演技法で練習すれば、良い気分で過ごす習慣が身につけられます。
それぐらい凄いことなのです。
ここで重要なことを言います。
感情というのは起きたことに対して湧き起こるものではなく、起きたことに対して自分がどう思ってるかによって湧き起っているのです‼
これはとても大事なことです。
つまり、自分の思い方一つで、良い感情になったり悪い感情になったりするのです。
そしてここに付け加えると、人間はネガティブに捉えることが普通なので、起きたことに対して悪く捉えることが多く、それで悪い感情が湧き起り、気分を害することになってしまっているのです。
「何故人間がネガティブに捉えることが普通なのか」ということですが、これはまたいつかの時にお話しできればと思います。
まぁ、この話は皆様もよくご存じかも知れませんが、基本動物は変化を嫌いますので、何か大きな出来事が起きるとそれが変化をもたらすものではなかろうかと本能的に感じるものなので、変化させまいと、その出来事をスムーズに受け入れられない恒常性が働くという感じくらいで今は思っていただければと思います。
ですので、人間は出来事が起きた時に、ポジティブに物事を見られる習慣をつけると、毎日気分良く過ごせることが出来るようになるのです。この習慣がとってもとっても大切で、この習慣はどう身につけるかさえ知っておければ、自分の感情をコントロールすることが出来るということなのです。
この方法の一つの方法が「身体動作から感情を誘発する」という演技法なのです。しかもこれはとても強力なコントロール法ですので、是非知っていただきたいのです。
こんなお得な情報をここで教えて良いのかという内容ではありますが、全然大丈夫です。まだまだ、演技法は奥が深く、もっともっと素晴らしいことは沢山ありますので、それは私の講座や演劇ワークショップでお教えしております(笑)
……というのは冗談で、今回のお話しする内容は口頭でまだ説明できるレベルなのでお教えできるのであって、講座やワークショップで教える内容というのは、実際にやり方をお見せして、実践するという方法を取らなければ、体得できない技ですので、意地悪で言ってるわけではないのです(笑)
それだけ、演技というのはとてつもなく凄い技術で、このことを広くこれから俳優を目指される方々に知っていただきたいのです。俳優という職業はとても崇高で、誇りをもって取り組んでいただきたいのです。俗な言い方ではありますが、俳優は食べていけないから……とかそういう低い意識で臨むのではなく、常に高い意識で臨み、私たち俳優は人の心を動かせる素晴らしい人間なんだと感じていただける人になれるようにと思うのであります。そのために僭越ではありますが発信させていただいております。
話は少し逸れましたが(笑)、この身体動作から感情を誘発するとはどういうことかというご説明をします。
まず、感情が生まれるメカニズムをご説明しなければなりません。
感情というのは、先ほど申し上げた通り、ある出来事に対して湧き起るのではなく、ある出来事に対して自分がどう思ったかによって湧き起るのです。ここで重要なのは、感情は自分の思い方によって決まっているということです。ここがポイントです。
例えば、相手の話を聞いている時に、何かの感情に苛まれたとします。苛まれたというくらいですから、その感情が湧き起った人は不快な思いをさせられたと感じている訳です。でも、それは感情のメカニズムとしては間違った捉え方で、本当は不快に感じた自分の捉え方でその感情が湧き起ったということが正解なのです。
つまり、自分の捉え方によって、感情が誘発されるメカニズムが自動的に発動させているということです。
この自動的に発動されるというところがポイントです。自動的にということなので、言い方を変えれば、ここから後のことは自分で制御することは困難なのですね。
ということは、この自動的に働く前にコントロールすることが出来るのかというところに着目していただきたいのです。
コントロールできるのかと問われれば、答えはイエスです。
コントロールすることが出来るのです。一つは、モノの捉え方、つまりどう受け取るのかを考え方により変えることが出来ます。そしてここが今日の一番のお伝えしたいことなのですが、もう一つはこれです。
感情を誘発させる動作を知るということ
この動作方法で感情を誘発させることが出来る…つまりコントロールが出来るということなのです。
これ動作方法で一番分かりやすく、最も重要な動作なのが、
息
です。
何故息なのか……?
それは、感情が起こるメカニズムとして一番起こりやすい動作だからです。
人間は何かで感情が湧き起る際、その前に息をする動作をします。
息を吸うという動作
これはとても簡単な理由です。というのも、感情が湧き起る前はちょっとした驚きがあるのです。この驚くという動作が息を吸うという動作だからです。
意外なことを言われたと感じた時に驚きますよね?……その時に息を吸うのです。そこから、感情が徐々に湧き起る感覚なのです。
勿論、他の身体動作でも感情を誘発させることが出来ます。目線を変える、動作を止めるという小さな動きであっても感情は誘発されます。
ただ、息は感情を誘発させるには一番分かりやすく、最も簡単な方法ですので、これで説明させていただきました。
もう一度、整理すると、例えば、あなたがとある相手の人と会話をしていて、不快な思いをさせられたとします。
あなたはその相手の人の言動にまず、驚きます。すると驚くのでそこで息をします。この時に心の中で「心外だな…」と唱えて下さい。すると、次にどういう息になるのかが、感覚として教えてもらえます。このことを自分から教わる作業と言いますが、この一連の作業を反復するのです。
「息を吸う」⇒「この時、心外だな・・・と心で唱え息を吸う」
これを何回も何回も練習して下さい。そうすると、不思議なことが起きます。
本当に腹立たしくなってくるのです‼
吸いたくもないのに吸わされているという実感さえ湧き起りますよ(笑)
こういう感情が湧き起る身体のメカニズムを知ると、自然に感情が湧き起るのです。
これは言い換えると、その腹立たしくなる感情を表現するまでもなく、出ちゃっている訳なのです。ここが肝心なのです。
感情を誘発するメカニズムを知り、その通りに身体を動かせれば、表現しようしなくても済むのです。
このセリフは怒っている台詞だから、怒らなきゃ!とならなくて済むのです。もう自然に怒っている訳ですから(笑)
それよりも、もっと表現できることが沢山沢山あるのです。
例えば、怒っている感情が湧き起っている人は、その感情が爆発しないように、はたまた溢れ出さないように、必死に抑えたりするものです。自分の感情をさらけ出すと、却って都合が悪いということも人間は知っています。だから、感情が湧き起ってしまった場合、むしろ、その感情を隠すことをしたりもするのです。
泣くのを我慢したりすることもあるでしょう。喜びを嚙みしめる人もいるのです。
そういうところに人間の葛藤があるのです
このことを踏まえた上で、演技を学べば、その深さに出会えることでしょう。沼りますよ(笑)
因みに喜びの感情を誘発させる方法も少しご紹介しましょう。簡単です。上記の例を参考にして吸い方を変えるで良いのです。息を吸いながら笑顔を作るということです。
そうすると、喜びや幸せな感情が誘発されます。息の吸い方も鼻からか、はたまた口からか、人によっては違いますがなんとなく分かります。これは何回も反復してやれば必ず分かります。
こうして何回も反復して習慣化すれば素敵な感情で過ごせる日が増えるのですよ。お得でしょ。
ただ、反復練習が肝心なのです。これが無意識にまで出来るようになれば、変な感情に苛まれることは間違いなく少なくなるでしょう。
先ほどネガティブな例を出したのは、ネガティブな感情の方が実感しやすいからです。何故なら、ネガティブな方が頭の中でグルグル回っているから、知らず知らず反復練習するのですね。だから、ネガティブなことを考えているなと気がつくことが大事。次に、ストップ!と意識的に止めることが重要なのです。
このような心のメカニズムを知ることで、感情をコントロールすることは本当に大切なのです。
今の演劇の世界では、出力をコントロールする練習が多いように思います。声が大きくなるように発声するであったり、奇麗に遠くまで届くように滑舌を練習したり、アクセントやイントネーションなど色々な出力技術を練習しているところは多いです。それはとても素晴らしいことですが、それだけではダメです。
というよりも、それだけですと、寧ろ演技を勘違いしてしまう怖れがあるのです。つまり、この練習だけですと、演技を誤解してしまうことにも繋がるのです。
例えば、次に話す言葉があたかも分かっているかのように、音の高低や抑揚をコントロールしようというように無意識に働くことがあります。
勿論、台本には自分のセリフが何行かは、書いているので分かりますが、本来普段の私たちの会話の中で、人が話す時に、予め何行で話をしますという人はいませんよね。仮に、相手の理解が悪ければ…当然話す言葉も足して足してになりますから、当然増えることになります。
また、逆に自分の言わんとすることが相手にすでに分かっているような状況であれば、言おうとした時点で遮られることも当然あるのです。
台本というのは、たまたまそうなった会話だと思って、会話のやりとりは偶然にすること。これが肝心です。それを必然とやってしまうと、違和感のある会話になってしまって、観の良いお客さまはすぐさま、「台本に書いている通りに話しているんだろうな……」と気がつきます。それだと、お客様を物語の世界に誘うことはできません。
つまり、表現出力のみに拘ると、「伝えようとする」演者の動機が見えてしまって、物語に誘うことが出来なくなるのです。表現練習というのは飽くまでも、自分の表現幅を広げる為だけであって、それだけで心を表現することは絶対にできないのです。
ですので、こういった表現出力法に特化した練習よりも、自分の心を動かす練習にも、もっと重きを置かなければいけないのです。
勿論、そのことを踏まえてお教えされているところもあるかと思います。しかし、それを踏まえて芝居をしている俳優はどれだけいるのでしょうか……。
多くの俳優が自分の表現出力の技術を駆使して感情を出そうとしている。この現象が続く限り、日本の演劇は社会に受け入れられるものにはならないように思います。
大変偉そうなことを申し上げて、恐縮ではありますが、こういう風に考える演劇人もいるんだと捉えていただければ、幸いです。そして、もし、ここに共感をいただけるのでありましたならばと願い、これからもその方々のために発信して参りたいと思います。
お陰様で、ブログも総計10万ビューも超えて、ニッチな世界ではありますが、少しずつご覧いただけているのかなと感じております。
お芝居をしている環境も、人それぞれですから、必ずしも私の申すことが正しいこととは思っておりません。それよりも、場所は違えど、繋がるところが多いなと思っていただけることが何よりの幸せと存じます。
私たちの仕事は心と心が通じるところで勝負をしないといけない世界だと思っております。
またその心が通じるようにするためには、ありのままの自分をさらけ出し、一人の人間として受け取っていただけて、共感していただくこと。この一念にあると考えております。
世の中色んな人間がいますが、人間の葛藤は突き詰めれば、それ自体が究極で、それが知れた時に人間は共鳴するものだと感じます。その共鳴がとてつもないエネルギーを生み出し、浄化をもたらしてくれるのだと思います。
一からやり直すではありませんが、原点に立ち返ることは、人生において分岐点だと思います。その分岐点が多い人ほど、豊かな人生を送れているように思えてなりません。
人生において、毎回、俺は何にでもなれる!
そう考えられる生き方は常に新しい息吹をもたらしてくれる。その息吹を感じることが出来るのが舞台芸術だと思っております。
この素晴らしい体験を是非多くの方々に味わっていただければと切に願い、これからも精進して参ります。
最後までご覧いただきましてありがとうございました。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。