今回はセリフを話す時に気をつけましょうというお話です。

セリフって実は落とし穴があるんです。

どんな落とし穴かというと、

分かってしまっているが故の落とし穴

というのがあって、この落とし穴をよく理解していなければ、

大体の次に何を話すのかが観客に分かってしまってしまうのですね。

次に何を話すのかが分かってしまうとどうしていけないのかということですが、これは見ているお客様からすれば、飾られた言い回しのように聞こえてしまうからなのですね。

もっと分かりやすく言えば、芝居臭いということです。

次に何を言うかが分かるというのは、次の内容がなんとなくこういうことが言いたいんだろうなというのが先に伝わってしまって、そのセリフが終わると「やっぱりそうか」となり、退屈な時間を作ってしまうのですね。

何故なら、演技者のセリフを観客が「こういう風に言いたいんだろうな」とセリフの途中で分かってしまったら、演技者のセリフの言い終わりまでは、「待ち」の時間になるといえるのです。

実はこれが、お客様の時間を長く感じさせる要因であって、1時間の芝居でも3時間くらい長く感じるのはこういう要因があるのです。

これは、実践の知識ですので、演劇を教えている学校レベルでは学べません。

また、演劇の教え方にも問題があります。

例えば、アクセントの練習、イントネーションの練習で、文章を読むときに、ここは重要な部分だから「言葉を立てましょう」という練習があるとします。

言葉を文章を声に出して読む練習ですので、当然この練習には何も問題はないのですが、これがセリフの言い方なのだと思うことが問題なのです。

確かに、重要な部分を「強調する」や「高い声で」というやり方で言葉を立てると、ここが重要ですよという分かりやすさは出ます。しかし、その分かりやすいが故に、展開が読まれてしまうと、最後まで注意して聞いてもらえなくなるというデメリットもあるのです。

さらに言えば、分かりやすい演技は、お客様にとって親切な表現ではないということも付け加えておきます。

お客様にとって分かり難い表現をした方が親切な見せ方なのです。

こういうことは、演劇の学校では教えません……そりゃそうか……(笑)

これはどういうことかというと、現場での実践の考え方をご説明します。

まず、人は自分で情報を取りにいかないとなかなか理解が深まりません。

何故なら、人は関心のあるところにしか目が行かないし、聞かないという性質があるからです。

当たり前ですよね(笑)

例えば、目に訴える視覚で表現するのであれば、見てもらうということをしてもらわないといけないのですが、「見る」という自分から情報を取りにいく行動にはなっていますので、これですと表現の理解は深まりやすいのですね。一方、セリフによる聴覚の表現はちょっと違いまして、音は聞こうとしなくても入ってくるんです。

実はこれが結構厄介で、聞こうとしなくても入ってくる分、自分で聞こうという意識でなければ情報が入りにくいという欠点があるのです。

ですから、セリフを自分で情報を取りに行こうというするためには、分かり難い言い方のほうが、観客からすれば「どういう意味?」という心理状態が働き、次の情報を取に行こうとする確率が上がるのです。

これまた奥が深いでしょ(笑)

「セリフは分かり難く話した方が観客に対して親切」というのは、そういう意味なのです。

と言っても、口をもごもごして、何を言っているのかが不明瞭なということを言ってるわけではありませんよ(笑)

簡単に言うと、次の展開が読めないような話し方が良いということです。

普段の会話でも、話し方の上手な方が、これを結構使っていますが、演技表現として開設しますとこういうことです。

台本に書いている句点と読点の使い方で説明すれば分かりやすいのですが、句点は「。」ですが、これは文章が完結しているので、ここで言い終わると観客にとっては「そういうことか」と理解する点なのです。

一方、読点「、」は、ここでもし言い終わることがあれば、観客にとっては「……だから何?」と次に内を話すのであろうという考えることにもなりますし、次のどんなことを言うのだろうかと待ち構え、聞こうと人から情報を取りに行くことに繋がるのですね。

上記の理屈が分かれば、読点で、効果的な間を空けた方が、観客にとっては情報を取りに行くモードに切り替わるので、効果的なのです。

一方、句点の後に間を空けるとどうなるの?ということですが、間を空ければ空けるほど、お客様は構えてみることになるので、間延びした感じになりやすくはなります。勿論これは一概には言えませんが、そうなる確率が上がるということです。

時間があっという間に過ぎたというコミュニケーションは、話している間、聞いている間の処理能力がいっぱいいっぱいなのですね。だから、もっと話したい。もっと聞いていたいってなるわけです。お芝居でも同じで、話し手(舞台)と聞き手(観客)に完全に分かれてしまっているので、話し手が上手にエスコートしなければいけないのです。

このエスコートの仕方が実践の演技だという訳です。

こういう演技は普通には見えません。ですので、まず習得するには、こういう演技法があるよと知るところから始めなければなりません。

自分がその演技を見えるようになった時、その時は自分が素晴らしい演技を身につけている俳優だと言えるのです。

セリフを決めて話す前に、次に何を言うのかが読めない話し方は本当にたくさんあります。

こういうことを知らずに舞台に上がるということは、本当に勿体ないことだなと思います。

因みにセリフを話す時の落とし穴ー1もあります。こちらは具体例も書いています。併せてご覧いただけるとよりご理解いただけるかと思います。

セリフを話す時の落とし穴1

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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