昔、演技は盗むものと教えられました。
この意味を理解できる人はどれくらいいるのでしょうか。
また私はこの意味を本当に理解しているのだろうか?
それくらい、この意味の深さを感じている次第でして、これは演劇教室、ワークショップ、俳優養成講座でお教えしている時に、いつもぶつかる所でもあります。
ぶっちゃけ言いますと…
演技の技術はいくら教えてもその人のものになるとは限らない
ということなのです。この時にいつも思うことは、「芝居は盗むもの」という昔からの教えなのです。
演技という技術は特殊で、何が特殊かというと、
演技とは見えないもの
だからなのです。
仮にお客様が舞台上の人物を見て演技だと見破ると、その時点で舞台作品の中に入っていないということになります。
本来の俳優の務めはいつの間にか物語の中に誘うこと。ですから、演技というのは、そこに技があるのだけれども、技を技として認識できないほどの臨場感を出すためにその技術は見えないようになっているのですね。
演技は目に見えないものですから、あるかどうかも分からない。
ただ、そういう目に見えないものは大事だとはなかなか思えないところにも、この演技の習得の難しい一つの要因にもなっているのですね。
ここを、「この技術は大切で価値のあるものだから、取りに行くんだ!」という風にならなければ、演技を自分のものにすることは難しい。ということをまず知ることが大切なのです。
ですから、こういった技術をお教えする際は、まず、教わる側がその技術を取りに来ているのかという点も重要で、教わる側が教えてもらったから出来るという考えですと、それは学校の延長線上でしかないので、いつまで経っても、一人前とはならないのです。
演技はまず、見えない技術だと認識して、その上で見る目を養うことが肝心
お客様と同じように演技者を観ていては、どこに演技の凄さがあるのかが分からないためです。
演技はお客様にお見せする技術だと思われがちですが、実はそうではありません。演技というものは自分の心を動かす技術であって、お客様のためのものではないのです。
演技の練習をしている時に、「表現しようとしない」という課題が当てられます。
これは「表現しようとする」とその動機が見ている人に伝わってしまうからです。ですから、観ている人に演技をしようとするのは、俳優の目線から言うと浅はかな行為であって、演技しようとする動機がありありと伝わっていることにまでは意識が行ってないのです。飽くまでも、表現するのは役の人物の動機であって、役の人物の動機による表現をしなければならないのです。
ですから、こうすれば、お客様にはこう見えるというのも、演技練習の途中段階に過ぎず、本来の目的は、その演技をして自分が納得できる表現になっているのかなのです。
自分を信じる演技こそが、一番であり、そこを究極的に求めているのが演技道だと思います。
どこまで、演技練習をしても最初は役の人物のようにはなれない。しかし、演技練習をしていく内に、役の人物から感覚を教えてもらえる時がくる。
この時、役の人物に成るという意識から、自分を表現するという風に変化していく。
そういう体験が出来て、初めて役の人物から色々と教わったといえるのです。ですから、俳優はいち早く素晴らしい役に出会うことがとても大切です。その役の人物との対話は、いつしか、人間共通のものを見出し、いつしか、
役の人物を介して自分を表現する
という自分を信じる道が切り拓けてくるのです。
違う人になろうとすれば、どこまでも違和感があります。自分には嘘がつけないのです。
ですが自分を表現するとなれば、限りなく自分を掘り下げられ、しかもそれは嘘ではないので実感として表れるのです。
演技というのは、こうすればこういう風に見えるというのは無数にあります。
それを覚えようとすることも大事ですが、その先にあるものが実は最も大切で、最もやり甲斐のある楽しい世界なのです。
自分の感覚を研ぎ澄まして、観客の前でただ「今を生きる」のです。そうやって多くの方々を惹きこみ、劇場が一体感に包み込まれる。そういう共感を生む俳優を育てていければと。このように思い活動に取り組んでおります。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。