観ている人にも、共演者にも、そして自分にも伝わる演技

毎度のように申し上げておりますが、動作の練習がとても大切です。台詞の言い方にこだわる俳優は大勢いますが、セリフというのは『伝える要素』がとても強く、言い方だけにこだわれば、そこには必ず『不自然さ』が出てきます。贔屓の役者なら『そのセリフ回しがとても良い』となるかもしれませんが、そうでなければ『なんか芝居臭い』イメージを与えることでしょう。でもこれは何れも俳優としての仕事としてはあまりよろしくはありません。

俳優として良い誉め言葉は『作品が良かった』ということで、技術的なものを褒められてもそれは、お客様に演技だと見破られているのです。つまり、物語の世界に誘えてはいないということを証明しているのです。勿論、お芝居の楽しみ方は色々です。「私はこの俳優を見に来ています!」「○○さんの大ファンです」というのもあります。ただ、純粋に作品を楽しんでいただきたいという観点から申し上げれば、作品の世界に誘うことが俳優の仕事なのだということをしっかりと認識はしておきたいところです。

というように、セリフでの表現は『伝える芝居』になりやすく、お客様に「このように思って下さい」というような説明的で、やや押しつけがましい演技となる可能性が高くなるので実は注意が必要なのです。勿論全部が全部という訳ではありませんが。ただ・・・

セリフも動作から自然に出てくるようにとこだわればそのセリフも素敵な表現になるということ

今申し上げた通り、動作から自然に出てくるものが実は演技表現としては一番良いのです。

人間は動くことにより感情が誘発されています。

身体動作から感情を誘発させる技術

今回の最大ポイントはこの話になるのですが、例えば、手の動きで、優雅な気持ちが自然に誘発させたり、姿勢で気持ちを引きしめたり、息で心を落ち着かせたり、視線で意思をはっきりとさせたりすることが出来ます。しかし残念なことに、これらを意識してやっても、すぐにそういう気持ちにはなれません。では、そうすればそういう気持ちを誘発させることが出来るのかというと、

動作の反復練習をすることにより、自分の中にある答えを呼び起こす

すると、自然とその気持ちが湧き上がってくるようになるのです。感覚の鋭い方であれば、早く得られるかもしれませんが、感覚が鈍い方であれば、相当時間はかかります。鈍いという表現とは違って、

雑念の多い人(笑)

はなかなかこの湧き上がってくる感覚が掴めないのですね。この場合の対処法としては、普段から、めい想をお薦めしていて、自分のちょっとした変化でも気がつくけるようにすることがポイントなのです。何と言っても、人間は一日に6万回何かについて考えていると言います。みんな雑念があるのです。2.5秒に一回、何かを考えてるって凄いですよね。ですから、その考えをいったん整理して、自分をコントロールしなければ、本来の感覚が芽生えてこないようになっているのですね。ですから、演技練習をする際はこのめい想はとても重要なのです。

普段の私たちの行動はほぼ無意識に動いています。その代表例が息です。息は演技表現としてはとても重要な動作アイテムで、これが起点で、感情を誘発されることが多いのです。私たちはこの感情が誘発される点を「感情が入るスイッチ」と言ってます。

この感情が誘発されるように自分の身体をその状態に持っていくことが重要なのです

このように持っていく技術を演技と言うのです。

演技というのは、演じる技と書きます。ですから、「演じる」・・・つまり表現する技のようにお感じなられる方がおそらく多いのだと思いますが、そのような考えで演技を作ると、間違いなく作られた表現という意図が見えるのです。なぜかというと表現にこだわるというとことは嘘だということを助長しているからです。

つまり演じることは嘘だと捉えてしまった考えで演技を作っているのです。

これではいけません。舞台での嘘は大体ばれるものです(笑) なぜかというと、普段の会話での嘘は様々な情報やまた自分の受答えなど色んな条件の中であるからこそ分からないこともあるかもしれませんが、劇場では、お客様は静かに座って見ている訳ですので、極めて冷静に人を見ています。

ですから、嘘だと分からずとも、おかしかったことを指摘すると「そう言われてみれば、あの時なんか変だったような気がする・・・」と後付けで感じたりもするのです。

それと、もう一つ重大な問題があるのです。それは・・・

嘘は自分が一番分かっている(笑)

これが実は一番厄介なのです。

楽しいシーンなのに楽しめない…

怒っているシーンなのに怒れない…

泣いているシーンなのに泣けない…

こういう風に自分ではそうなっていないけど、お題がそうなっていたら皆さんどうするかというと・・・

楽しいシーンは楽しくする!

怒ってるシーンは私は怒ってるんだぞという風にする!

泣いてるシーンは泣こうとする!!!

このような芝居をするともうバレバレなのです(笑)

本来、感情というのは出すものではありません。湧き上がるものです。そしてネガティブな感情であればあるほど、本来人間はその湧き上がる感情を隠そう、ないしは、必死に抑えようとするものなのです。

怒ってもいないのに怒りを抑えることが出来ますか❓・・・無理です。

泣けないのに、涙を抑えることが出来ますか❓・・・絶対に無理です。出てない涙を出ないように抑えるって・・・(笑)

演技が嘘という前提ではこのような芝居は出来そうで絶対に出来ないのです

抑えるためには、込み上げてくる感情がどうしても必要なのです。その感情を湧き上がらせる方法が演技なのです。

自分が本当にそういう感情に支配されているところに演技で持っていくことなのです

演技で感情を誘発させれば、後は出力するだけです。そうすれば、演技をしようとする役者の動機は奇麗さっぱり消えて、自然にお客様の心に余すことなく届くのです。このように、演技者の動機ではなく、役の人物からの動機で動くことが何よりも大切で、それがあるから、臨場感が生まれるのです。

これで、ご理解いただけたかと思います。ですから、感情を誘発させ、自然に感情が湧き上がるような方法が必要なのです。自然に感情が湧き上がれば、自分自身も自然と体が反応し、演じる意識することなく自然に動くことが出来るようになる。要はそこまで持ってくる技術が演技という訳なのです。これには極めて冷静に物事を見て芝居することが求められます。

例えば、「この台詞が来たら、ここで息を吸う!」というように虎視眈々と切欠を見定めるのです。そして、ここからが重要なのですが、

『この息を吸えば、自動的に自分は感情が誘発される』と自分を信じるのです。

この自分を信じるために作業が日ごろの練習の賜物なのです。つまり、何回も何回も反復練習をして、自分で誘発される感覚を何としても掴み取り、掴み取れたらそれが毎回出るように確率を上げてるようにさらに反復をして確認するのです。

私たちは一度、感情を誘発されることが出来ると、それを体現と言い、それを何回も湧き上がらせることを再現と言います。このように何回も反復して、身体に覚え込ませることにより、普段の私たちのコンディションに近づけていくのです。舞台では心拍数がどうしても上がります。それをコントロールするのもこの練習で出来ます。限りになく緊張しているけども、身体動作をすることにより、心を落ち着かせることも出来るのです。

如何ですか?演技って凄いと思いませんか?

普段でも生かせることがお分かりいただけるかと思います。

最後に、伝わる演技の練習方法を少しご紹介します。伝わる演技とは動作の演技だということを前述しました。ですから、動作の練習になるのですが、数ある中で一番簡単な練習方法をご紹介します。今回ご紹介する動作とは何かというと・・・「息」です。

人間は感情が起こる前に必ず息をします。これはよく覚えておいて下さいね。もっと詳しく言うと、感情が起こる前に驚くということをしているのですが、その驚く時の身体の動きが息を吸うということなのです。ですから、何かに驚き、息を吸いそれから感情が湧き上がるという流れなので、息が感情を誘発させるスイッチとなります。このスイッチは驚いたところでします。例えば、相手の台詞があって途中で驚くポイントがあるとします。そこで迷いなく息を吸うのです。どうです?めちゃめちゃ簡単でしょ(笑)

次に自分の台詞があるからその台詞を話す前に息を吸おうとしちゃダメですよ(笑)

それでは、役者の動機で息を吸うことになってしまって・・・『芝居臭いな』と思われてしまいますよ(笑)

息を吸うところのポイントは、「驚いた時」「理解した時」「気がついた時」に有効です。例えば、相手の台詞の途中で驚くポイントがあって、そこで息を吸えばどうなると思います?

まず自分は、息を吸うことにより、色々な感情の誘発が出来るようになります。何故そうなるのかというと、そのように台詞の聞き方を決めていくと、本当に相手の言っている内容やその動機が伝わってくるようになるのです。そうすると自然に感情が誘発されて赴くままとなります。そして驚くことに共演者にも実は効果があって、自分の台詞途中の驚くポイントの所で息を吸われると、理解してもらえたとリアルに感じて、より芝居がしやすくなるのです。このように、身体動作をして感情を誘発させる技術は、自分だけではなくお相手や、観客にも伝わるのです。これを駆使できると演劇は楽しいです。

そして、これは普段にも使えるのです。人は自分の話をしっかりと聞いてくれる人が好きですよね。だから、この演技法を使うと、「真剣に聞いてくれている」ということが分かり、あなたに関心寄せることになるでしょう。でも、ここで、こう思ってはいけませんよ。「そんなのわざとらしい」と・・・

わざとらしい・・・のではなく、親身になってそういう聞き方をしてあげたいと思っていただけたらと。

そうするとまたまた不思議なことが起きます。それは・・・

相手の話す言葉が自分の心に刺さり、強い共感が生まれるのです。

もしお近くに何かでお悩みの方がおられましたら、こういう風に接してあげてみては如何でしょうか。お悩みの殆どは聞くことで少しは解消されることもあります。何とかしてあげようと思わずに、共感すること。このことで奇跡を生むことをしてみては如何でしょうか。つまり、自分が話を聞くことで、お相手の喜びに繋がり、また、そうすることで、自分の理解が増し共感力も上がるのです。つまり、自分がお相手の苦しみをより深く理解することが出来るようになるのです。だから、自分の理解を深めるためだと思って息を活用してみて下さい。そうすれば、やがて自然に息が出来て、誰にでもより共感力のある素晴らしい人物になれます。

もう一度言いますよ。「驚いたところで息を吸う」相手の話の中で、驚く点があれば、思いっきり息を吸ってみて下さい。そうすれば、自分の感覚が後は教えてくれます。私たちにはそういう隠れた能力があるように思えます。

ただ、息は序章です。ここに手や足や、身体の向きや姿勢や、視線などのより複雑な動作が入りそれをいっぺんに全部やると、みんな最初はパニックになります(笑) 細かいことなのですが、こういう演技レイヤーを重ねることで人物の奥行きを表現するのです。気持ちだけでは到底芝居は出来ないのです。

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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