戯曲は小説と違って、ほぼセリフのみで構成された物語。
台詞のないところはト書(とがき)と言われる、時間と場所(場面)の説明や、俳優や舞台機構の説明文が少しだけ書いてあります。
小説では情景などが書かれている場合がありますが、戯曲にはその情景になる部分がほぼ台詞にありますので、
この台詞をどう言えば観ている人にその情景が伝わるのだろう
という楽しみがあります。
そしてこれが一番難しいことでもあるのです。
台詞は、人によっては取り方が千差万別で、撮り方が違えば大きく作品の方向性は変わります。
また、行間にあるものが小説に比べて多く、そこを想像できなければ、セリフとセリフの間が繋がらないということも十分ありうるのです。
ですので、戯曲は想像力を膨らませることが求められて、この想像力が欠如すると、台本から読み解くということは非常に難しいと言えるのですね。
小説だと何となく話が分かるというのがありますが、戯曲では、
何を書いているのか全く分からない
ということもざらにあります(笑)
特に、不条理劇の戯曲は、場面が急に違うところに言ったり、登場人物が急に違う人になったりとか、時間の流れ方が違ったりとか……
本当に訳が分からない作品も正直多いのです。
だけども、その雰囲気が好きであったり、書いていることは正確には分からないが、何か共感できるものがあるというそんな力を感じる場合もあるのです。
つまり、
戯曲にはこう読みなさいという方向性が小説よりも少ない
ように思います。
ですから、こういうことが逆に言えるのです。
方向性をつける読み方がある程度分かっていなければその話の内容が見えない
ということが言えるのです。
ですから、戯曲を読むには技術がいるのです。
戯曲の簡単な読み方を説明すると、基本的に起承転結で、
転の部分が劇的なシーン
となるのです。つまりここがお芝居の一番の見せ所です。
ここを如何にお見せするのかということが全てで、私はこの部分を
2時間の内の20秒
と言うようにしています。
つまり、2時間のお芝居の中で一番お見せしたいのはこの20秒だという意味です。
この20秒を魅せる為に芝居を作るという考え方で舞台を作っていきます。
ですので、この20秒、つまり劇的な部分を基準にして、他のシーンとの兼ね合いを見るので、
劇的な部分は指針になるのです。
「この20秒を面白くさせるには、このシーンはこういう風にすれば良いよね」
という具合に、方向性が見えない時は、この指針に基づいて作るのです。
こうすると、大体の台詞がどのように構成され、どのような意図で表現すれば良いのかは見えてくるのですね。
また戯曲というのは特殊な本だけに、少し変わった見方をしなければいけないことも出てきます。
それは、台詞の展開に辻褄は合うのですが、大局で見ると、凄く変な流れになっているということなのです。
これはどういうことかというと、
セリフだけを追ってみれば、なるほど、普通に繋がって話が展開されるので、スムーズに話の方向性が分かるのですが、
戯曲のような作品は、大抵普通のことが起きないことが大前提
なのですね。
つまり、絶対に起きないことが起こってしまうというような内容ばかりですので、セリフだけに捕らわれてしまうと
絶対に起きないなのにもかかわらず、普通にその流れで進めてしまう
ということが起きてしまうのです。
ですから、台本を読み進めていく際は、劇的なことが起きてしまうのは分かっているのですが、
そうならないようにそうならないよいうに話を進めていく必要があるのです。
面白いでしょ(笑)
つまり、悲劇であるならばこういう風に考えます。
悲劇であるのだから、最初は思いっきり幸せな幸福の世界を表現する。そして悲しいことが起きないように起きないように作るのですが、
どうしてもそうなってしまう‼
という作り方をするのです。
つまり、劇的を境に、悲劇であるならば最初は出来るだけ明るく作る。
喜劇であるならば、最初は暗く作るというように、
物語の最初と最後で対照的な作り方をすることが重要
なのです。
ですが、この意識が抜けていると、物語の内容を知っているがゆえに、物語の意図に向かって作り込んでしまうことになってしまうのです。
つまり悲劇ならば、この話は段々暗い話になっていくんだろうなというのを思わせるような展開に自然と作り込んでしまうことになるのです。
こうならないようにするためには、物語は大抵、予期しないとんでもないことが訪れるわけですから、
そのとんでもないことが起きなければどういう風に話は進んでいくのかということをベースに作り込むことが必要なのです。
それで、物語を進めていくと、お客様も予期せぬ事態を目の当たりにすることが出来て、より作品の中に入っていただけることが出来るのです。
このように、俳優は戯曲を読んでいるのです。
お芝居をされていない方でも、是非一度台本を読んでいただきたいですね。
想像の膨らませ方が普通の物語の本当とは違うので、また新鮮な体験が出来るかと思われます。
最後までご覧いただきましてありがとうございました。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。さらに、自身のBlog『さいとうつかさの演技力会話力Blog』は1000万PVを超え、多くの方々から支持を得ております。