
お客様を味方につける俳優は何をやっても受け入れられる。例え、本番でセリフを忘れても・・・
「ご愛嬌」
と取って頂ける(笑) 名優と言われる方々には皆様、そうしてお客様から愛されていたように思います。例えば、公演中、何か不測の事態が起きても、お客様はこういうのです。
「あれが生の面白いところだよね!」
というような具合。普通であれば、公演でセリフが出てこなくなってシドロモドロしているとお客様も当然分かってくるので、ハラハラして見てるのですね。
この時に贔屓の人であれば、上記のように「生の醍醐味」と捉えてくださり、それ以外の人であれば、「これでお金とったらだめだな」と手厳しくなるのです。
同じようなミスをしても、こうも見方が変わるのは、
お客様を味方につけられているかどうか
にかかってくるのです。このお客様を味方にする努力を怠るとますますお客様は離れていきます。
まず、大前提は、
お客様あっての演劇
なので、お客様に味方になってもらわないと私たちは存在の価値すらなくなるのです。それで、私は今の演劇……大丈夫かなと思うことがありまして……こんなことを言ったら、多くの方からお叱りを受けるかもしれませんが……
面白いものを作ったら観に来てもらえると思っている人が多いような気がする・・・
のです。しかし、これは果たしてどうなのでしょうか。
私はこの点についてこういう風に思っています。もし、面白いものを作って観に来てもらえたならば、きっと今の演劇はもっと栄えていると思うのです。
私はまだ30年ほどですが、その間、誰が見てもこの作品は素晴らしいと思う作品をいくつも観てきました。でもいつもこう思ってたんです。
もう少しお客さんがたくさんいればもっと盛り上がっていただろうな…と。
つまり良いか悪いかは別として、世の中の人々の娯楽の選択肢に演劇が入っていないことが問題なのではないかと思うのです。
私は世の中と演劇の世界が乖離し過ぎていて、私たち演劇人はもっと世の中に歩み寄る努力をしなければいけないのではないかと思っているのです。
大変偉そうなことを申しまして、すみません。
ただ、これからの演劇を何とかしたいという思いだけです。これからも小さな力ではありますが活動して参ります。
そういう意味も込めまして、今回の記事をご覧いただき共感いただければ、より発展的な活動になると信じ、引き続き述べさせていただきます。
お客様を味方にする方法
それは、お客様とのコミュニケーションがしっかりと出来ていると味方になって下さる可能性が上がります。
お芝居は、舞台上から作品を表現しているので、発信しているだけに思われるかもしれませんが、お客様を味方にする名優は、お客様からの受信力がもの凄いのです。これは経験がなければ身につかないものかもしれませんが、感受性を高める訓練を演技の練習で普段から行えば、少しばかりかは経験となるのでその感覚が研ぎ澄まされると確信しています。
たまに舞台で緊張しないという人がいますが、それはもしかしたら感受性に問題があるのかもしれません。お客様からの圧倒的なものを感じたならば、立ってられないというくらいの方が寧ろ自然かと思います。
ですから、舞台で緊張すると言われる方は感受性が良いのかも知れません。稀に自意識が過剰な方もおられますが、それでも最初は過剰な方が、鎧をつけたくなるものですから、演技が格段に良くなる可能性は人よりもあるかもしれません。
現に、ベテランの俳優の方のほうが、本番前の集中力は尋常じゃないことが殆どです。殺気すらあります(笑)私が新人の時、そういう姿をそういう光景を幾度となく舞台袖で見てきました。
凄いところで戦うんだろうな
と感じていました。私には分かりませんでしたが、明らかに普通でない状況なのですね。本番前は。
人間が真剣に向き合っている姿。
その姿と、開演してからの姿とのギャップがまた凄いのです(笑)
さっきの緊張感はどこに行ったの???(笑)
こうも、舞台上でリラックスして芝居できるだなんて……本当に信じられない思いで見てました。こういう光景を何回も何回も見て、こうことが分かったんです。
自分の都合なんてどうでも良い。ただ、お客さんに伝わる芝居を常に対応できるかだけに集中している
とても冷静に淡々と演技をこなしている。しかも、こうしようという判断をするだけで、どういう風に動こうかとかそういうことは微塵も感じさせないくらい迷いのない演技でやってのけているのです。
これは、自分の動作の動きが完全に無意識の中で動かせるようにならないと出来ないもので、
思っただけでそうなる
といういう感じの表現になっているのです。
それよりも、もっと重要なことは、今お客様がどういう風に見ているのかのことに完全に意識が行っていて、劇中でも、舞台上で平気でアドバイスしてくるときもありました(笑)
「もっと、ゆっくり喋れ…届いてない」
芝居とは違う低い声で話すのです(笑) お客様が今こちらを見ていないということが分かってなければできない芸当を先輩俳優陣はされるのです。
「こうすればこうなる」という技術
これは経験で培われたもの。私たちはその経験から得た知恵を教わり、出来るだけ早くマスターしようとしていました。しかし、この受信力だけは、なかなか教えられるものではなく。やはり感受性を各々で鍛えなければ得られないものです。演技技術上最も難しい技術の一つなのです。
今お客さんはこう見てる
そう判断して随時動いているのです。こうしなければ、自分の計算した演技プランには持って行けないのです。
『お客さんが見ている時に芝居しないと成立しないんや』
これは私の先生が仰った言葉です。
『ここ!って時に、ポンっと出す!これや!』
笑いながら話をするお師匠さん。冗談のように言ってました。でも、これが神髄なのだろうな……と今のところは思っています(笑)
喋らないお客さんの考えていることが分かるってエスパーか!(笑)
って思いましたが、それはロマンのある話ですよね。この話を聞いてから、私は演劇に対して、こういう風に思ったのです。
「演劇はお客様との見えない会話で決まるんだな」
「良いものを作ってくれたら観に来てもらえる」という考えは、やはり作り手の慢心ではないかと思うのです。
お客さんと共に育むものだから素晴らしい作品が出来る。
そこで初めて良いものが出来るのではないでしょうか。お客さんに、
『ここでこの言葉が欲しいというところにスッと出す』
考えてみれば、名優と言われる方々はみんなそれを見事にされていた。お客様の期待を裏切らない俳優だからこそ、味方になっていただけるのです。舞台の話の展開中にお客様に一つ一つ信頼を構築していく演技をふんだんに入れている。初めてみるお客様も、贔屓のお客様も見方は変わるが、期待は同じなのです。
初めてみる人は「この人の芝居をずっと見てしまって期待して見てしまっている」と感じるし、贔屓のお客様であれば「この人ならば絶対に何かしてくれるはず」と感じてみているのです。そういう風にお芝居を何回も何回も作っているとまた観に行きたいという気持ちが芽生えますよね。
このように、お客様にお芝居を観に来てもらうためには、まず知ってもらうことが大切で、知ってもらった時に確固たる技術でお迎え出来るかが理想のなのですが、それはかなりのハードルなので、まずは応援していただけるような存在にならないといけないのですよね。
どんな人を応援したいですかと聞かれたら、皆様はどうでしょう?
私でしたら、仲の良い人をまず応援したいと思います。
だから、仲の良い人をたくさん増やせれば、それだけ応援しれくれる人も増えるかもしれないのです。
ではどうすればたくさんの人と仲良くなれるのかですが、ここで「良いものを作れば観に来てもらえる」という考えであれば、「受け入れて下さい」と言ってるようなもので、これを仲の良い人には私としてはあまり言いたくない(笑) そうではなくて「お相手が観に行きたいと言っていただける」関係性の構築の方が重要ではないでしょうか。
そのためには、まず自分が世の中の方々に与えられる人にならないといけないなと勝手ながらそのように思うのであります。
まずは自分から。
生意気なことを申し上げて誠に恐縮です。
最後までご覧いただきましてありがとうございました。