
「私の俳優養成講座や演技のワークショップの長所はどこですか?」と、
参加されている方にお聞きすれば、おそらく殆どの方が
『褒め出し』
を挙げていただけるのかなと思います。
これにはとっても深い理由がありまして、その理由を簡単に申し上げると、
褒め合う環境の中でいると『自発的に自分の意見を言うようになる』から
ということが一番大きいのだと思っております。
この自分の意見を言うことは本当に本当に大事で、これが演技の向上に繋がっていると言っても過言ではありません。
それはどうしてかというと、
意見を言うことで想像することがより頭の中で鮮明になりシンプルな考えに行きつくから
です。
私たちは、どうも具体的でしかもシンプルな命令がないとなかなかうまく動けないようで、
「今日はこれとこれをやります」
と決めた方が、すぐに行動に移しやすいのです。
でも決め事ってタスクになってしまってあまり面白くないんですよね。
例えば、私たちの俳優養成講座の練習前の準備ワークを言いますと

このように楽な態勢で各々が自由に立って、深呼吸を使った心のスクリーニングをしています。
これは心の中にある考えをふるいにかけて、出来るだけ一つのことを考えるように精神を集中させる練習を行っているのですが、
これをタスクでやってしまうと本当に面白くなくてですね。
みんな同じスクリーニングでも各々が違う意識でやってみてはどうかなという趣向でやっているのです。
例えば、肩が凝っているなと感じていたならば、
深呼吸の時に全意識をその凝りの部分にフォーカスして息を吸い
吐く時はそこの部分に息を吹きかけるようなイメージで「治れ!治れ!」と念じながら息を吐く
ような、精神を集中させている練習プラスαを入れるとその集中練習に自分なりの意義が出て面白いのですよね。
身体に痛みがない場合は、アファメーションをして潜在意識に思いを刻み込む人もいます。
このアファメーションの場合は、吸っている時に良い感情のイメージを思い浮かべて、吐く時にその感情が湧き起る感覚を確かめる。
良い感情が湧き上がらない時は、口角を上げて笑顔で息を吐くとより良い感情の感覚が掴みやすくなる。
というように、工夫をして練習をしているのです。
こうすると普段の練習の準備段階でも自分の意義で出来る。しかも、一番の利点は、
みんなでこの練習をやるという機会を設けているから継続的に出来る
ということでしょう。
この『行動』と『継続』の両方できるということがこの精神統一の練習の最大の魅力なのです。
では、どうしてこの精神統一が演技にとって重要なのか?
それが
具体的且つシンプルなタスクにするための重要な心構えだから
なのです。
頭の中で考えていることがゴチャゴチャあれば「今日はこれとこれをする」ということは困難ですよね。
だから、割り切って技術を習得して、自分の演技のレイアーを作っていくことをするのが、私たちの思う演技上達の方法であるのです。
よく精神統一と聞くと、心を無にしてと言われますが、修行賢者ならともかく私たちが心を無にするのはなかなか難しいですよね。
ですから、何か一つのことを考えれば、余計なことを考えずに済むという意味で一点に集中させる方法を取っているのですね。
なにせ、人は一日6万回思いを巡らせていると言います。
1.5秒に1回は何かを考えている
しかも無意識にです。
気がついたらこんなこと考えていた。
しかも同時にいろんなことをしながら考えているんですよ。
これは本当に凄いですよね。
だから、まずは一つのことに集中するってことでも、実はもの凄く大変なことなのです。
その練習をして意識を集中させる訓練を行えば、
一つの一つの演技練習を理解して限りなく物の道理、つまり演技の本質的な部分を考えることが出来るようになる。
と考えているのです。
これを自分なりに解釈して練習するわけですが、自分なりの解釈するとは面白いもので、本質を捉えていない演技であれば、それは見る人に共感を得られないものであるために、本質を捉えているかどうかは非常に分かりやすいものなのです。
ですから自分なりに一生懸命取り組んで本質なのではないかと思っても、見る人に共感を与えていないものであるならば、それは本質とは異なったものと分かるのです。
これを「つもり芝居」といいます。
自分ではやってるつもりでも共感を得られないものは演技とは言わず、ただ演じているだけなのです。
すみません。偉そうなことを言いました。
また不思議なことを言いますが、本質に近づいていくにつれて、どうもこれは自分だけの力では導けないものなのかもしれないと感じてくるのですね。
……説明がとても難しいのですが、
本質を完全に捉えるということは途方もない作業で、演技一つ一つでも、本当にこだわりが出てくるのです。
こうでも行ける。こうでも伝わる。
本質は捉えているが何通りも出来てしまう。
でもベストは何故か見aつからない
こういう風に演技を取り組んでいると、
やがて自分の力以外のところからアイデア、ヒント、気づきが出てくるのです
そして、
そういう外からの働きを使ったものの方が圧倒的に良い演技となっている
のです。
私の演技の作り方を分かりやすく説明すると、全て感情を表現するためには、まず一つ一つ感情を誘発させるためのスイッチを作ることが私の演技の基本的な考え方で、その感情スイッチは身体動作であると考えております。
そして、まず一つの情動を表現する演技を考える時に、
例えば、息、例えば、姿勢、例えば、顔の位置、例えば、視線、例えば、手の動き、例えば、足の運び……
などと一つ一つの動作を確認して、これが一番情動を動かす身体の動きだなという感覚を掴めれば、次にその体の動く順番を模索してみるのです。そして自分の中でしっくりきた流れが出来ると、徐々に感情が湧き起る感覚が薄っすらながらも分かってくるので、その動きを無意識に落とし込むために反復の練習をする。
機械的な練習をしていますでしょ(笑)
何故、ここまでするかというと、
それだけ無意識でしている身体の動作が多いから‼
ということなのです。
無意識でやってますから、意識してやってみたら、
え!!!普段私ってこういうことしてたの!!!
と本当に驚きますよ(笑)
それくらい、普段の私たちって色んなたくさんの無意識の動作で感情を誘発させているのです。
これを知れば、そこまでしたら、そりゃ感情は動くわな…となります(笑)
だから、一つ一つの無意識な身体の動きを意識的に模倣して練習することが重要なのです!
ただです。
こういうと、芝居って難しいもんなんだなと思われるかもしれませんのでこの言葉を付け加えます。
説明するのが難しいだけでやって見たらそんなに大したことではない(笑)
やってることは極シンプルで、人間観察している時に、「手はこうなってるよね。」「身体の動きはこうだよね。」「顔はこういう風に向けている。」「息は…ああ…ここで吸うんだ。」と部分的に見てそれを何回も反復して真似れば、やがて身体の動き方、メカニズムが理解できるようになるのです。
そうすると、今度は見なくても、「こういう時はこう身体が動くから」と応用が効いてきます。
そしてこういう動きをたくさん身につけ、考えなくても自然に動くところまでになれば、思っただけで表現出来るようになるのです。
それが、臨機応変の演技に活かせるようになるのです。
そして、この臨機応変の演技を体得できるところが、
稽古であったり本番でのお客様とのやり取り
なのです。
よく、舞台では、お客様から教えてもらうという言葉があります。
お客様の反応で、自分の演技が勝手に変わることがあるのですが、おそらくこういうことなのだと思うのです。
これは自分が「こうなったからこうしよう」とかそういうものではなく、
自然にお客様の反応でそういう風に動かせていただいている
ような感覚ですかね…このあたりがなかなか上手く言えない……(汗)
要するに(笑)
自分の実力で動いている感覚ではないのですね。
終演後に、「私、なんでああいう風に動いたんだろ??」という不思議なことが起きるのです。
これはおそらくですが、お客様の反応を無意識に受けとり無意識に心の反応し思ったことがそのまま表現されたということですね。
そしてこういう時のお芝居の時の方が、良い芝居になります。
変な言い方をすると、
不完全だからこそ見つけられる演技
というものかもしれません。
演者とお客様の間にある不確定要素があるからこそ、お互いに歩み寄りフィットした時の喜びがあるような感覚が演者とお客様とで分かち合えるのです。
バカなお話で何の説得力もありませんが、私は、こういう経験を本当によくさせてもらってて、舞台は常に奇跡が起きる場所なんだなと感じているのです。
自分がばっちりだと思ってても、上手くはいかないのです。
また自分がばっちりだと思って見る世界とお客様はどういう風に見てくれるのだろうと思って見る世界は全く違います。
ですので、自分の慢心は見誤る結果に繋がりかねないのですね。
お客様と共に舞台を育てるから、どうしてもお客様のお力が必要と考える理由はそこにあります。
このように、普段の練習から公演までの流れをしっかりとイメージして作品づくりしていくことをしております。
こういう練習を重ねていくと、お客様との距離が近くなるので、本当の演劇の面白さが分かってくると思います。
また、多くの方々に本当に面白いものだと感じていただいて、素晴らしい俳優になられることを願っております。

さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。さらに、自身のBlog『さいとうつかさの演技力会話力Blog』は1000万PVを超え、多くの方々から支持を得ております。