ゲシュタルトという言葉をお聞きしたことはありますでしょうか?
これはゲシュタルト心理学でご存知の方も多いかと思われますが、
簡単に言うと、一つにまとまった全体的な構造をもったもの
とでも言いましょうか。
例えば、木で説明すると、私たちは一つひとつの葉や枝が合わさって「木」だと認識しているわけではなく、そういう全体的なものをみて「一つの木」と認識しているという意味合いですね。
「葉」や「枝」、「幹」といった、一つひとつの情報があるのにもかかわらず、ひとくくりに『木』としているもの。これがゲシュタルトです。
私たちの役の人物のイメージに必要なのは、この役の人物のゲシュタルトが必要なわけです。
ですので、役のイメージが曖昧であったり、方向性がないというのであれば、この役の人物というゲシュタルトを明確に構築すれば良いのです。
例えば、ここの情報で「赤」と「車」があったとします。これは以前のブログでも紹介しましたが、この情報を結びつけると……
フェラーリ
という人がいます。
これがその人の赤と車の情報を一つのものに構築したゲシュタルトなのです。
ですが、これは人によって、違うゲシュタルトになったりします。
消防車
という人も中に入るでしょう。
真っ赤なポルシェというイメージから
緑の中を走り抜けている真っ赤なポルシェというゲシュタルトの構築をされる人だっています(笑)
そうすると、如何でしょう。
最初、「赤」と「車」という情報しかなかったのが、緑の中を颯爽と走っている赤いポルシェという、より具体的なイメージを膨らませることに成功していることに気がつくはずです。
これがゲシュタルトの構築によって生まれた、より具体的なイメージなのです。
この「より具体的なイメージ」を表現することによって、役作りをしていくと、これが意外に作品の中でも辻褄があったり、また、そういうゲシュタルトからイメージされたものから、
重要なセリフが見つかる
といった、
役の人物への確信のついた情報が目に飛び込んでくるようにもなる
のです。
これを「役の人物から教わる」と言います。
台本には、役の人物の情報がたくさん書いてあります。その情報一つひとつを拾い上げて、ゲシュタルトを構築すると、思いもよらぬアイデアが必ず出ます。
そしてそのアイデアを、台本と照らし合わせてみて、そのアイデアで辻褄が合うかどうかを検証するのです。
辻褄が合わない場合は、一つひとつの情報量が少ない場合もありますので、もっと拾い上げてみるのです。台本のセリフには書いてはいないけれど、このシーンの前にはいったいどんなやり取りをしていたのか、はたまた、周りとどんな人間関係なのかも想像するのです。そうすると、段々と辻褄があってくるようになるのです。
さらに、芝居の魅せ方、セオリーをしっかりと理解している熟練の俳優ですと、そういう台本から拾い上げる情報は凄まじく、
端的にこのセリフが重要、このシーンが重要
と直ぐに応えられるレベルにまでなるのです。
これはその物語で生きる人間一人ひとりの交差する情景がしっかりと見えているからなのです。
これが熟練の演技プランを構築する技術なのです。
役者は役の人物の感情を表すのではなく生き様を表現すると言われるのはこのことです。
そういう表現がしっかりと出来ている俳優は、台本に書かれていない人間性が滲み出てきている。
その人間性を突き詰める作業は、実はとても楽しい作業なのです。
人間性を突き詰める作業をこなし、演技の戦略を立てる技術を身につけることが俳優としての最高の楽しみなのです
このことを若い俳優志望の方々に知っていただければと願っております。
真剣に取り組める技術です。
一生懸命に生きることは実はそんなに簡単なことではありません。一生懸命の出し方をむしろ知らない人の方が殆どなのです。
「やりたい」で動ける人になれば、一生懸命に生きる術を身につけることが出来るでしょう。ですが、もしそうでなければ、人から無理を強いられる環境を自らで作ってしまっていることにいち早く気がつかなければなりません。
どんなことであっても、目の前の事を楽しむの能力を身につけること。それがどうしても出来なければ、あなたにとってその道は進むべき道ではないのかもしれません。
しかし、もしも自分都合で出来ないのであれば、例え、どの道を選ぼうとも、また途中で立ち止まることになるでしょう。
これはとてもシンプルな道理のように思えます。
今、目の前にあるものは私に何を学ばせようとしてるのか……?それを是非楽しめるようにしたいですね。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。