普段の私たちの動作は複数のことを同時に行っています。
例えば、家族で食卓を囲んでご飯を食べている時、
ご飯を食べながら談笑したり、またテレビをつけていたらそれを見てと複数のことを同時にしていますよね。
それら殆どは、ほぼ無意識に動作が動いているのですが、
これらの動きを模倣してみて下さいと言われたら、大抵は出来ないものです。
無意識の動作を意識的にすると、
「あれ?どうしてたんだっけ?」となることは結構よくあることなのです。
ご飯を食べる時も、お茶を飲む時も、
「こんな感じ」
としか捉えていないので、実際にやっている動きと全く違ったりもするのです。
つまり、無意識の動作は実際にやってみて時に意識的に模倣することがとても重要で、これが成されなければ、リアリティのある演技とはならず、俳優の「やってるつもり」という動機が動作に表れてしまうのですね。
例えば、実際にお茶を飲む時に、湯飲みはどうやって持つのか、湯飲みを取った時にお茶の熱がどれ位の熱さなのか、また、口に持っていくときに、どのような態勢になっているのか、そしてどの角度で茶が口元についてすすれるのか。
この感覚をしっかりと覚えて、何回も模倣するのですね。この練習をしていると、いざお茶を飲む芝居になった時に、この動きを踏襲すれば、実際にお茶を飲んでいるように見えるリアリティのある演技が出来るのです。
しかし人の動作は、先ほども言ったように複数のことを同時に行っている場合が殆どなので、お茶を飲むだけとはいかないのですね。
お茶を飲みながら、誰かと話をしたり、物思いに更けたり、他にも同時に複数のことをしていると思うのです。
この時にお茶を飲む動作を意識的にマスターしてたとしても、その動作を意識的に動かすとなると、お茶を飲むという表現が見ている人に伝わってしまいます。
これでは未だ俳優の動機で動いている段階で、このお茶の飲む動作表現を再び無意識下に戻すために、身体に覚え込ますことが必要になるのです。
こうしてお茶を飲む動作表現を無意識に出来るようにすれば、他の動作にも容易に対応できるようになるので、複数の動作芝居が出来るようになるのです。
このような考えでお芝居を組み立てると、
例えば、お茶を飲みながら物思いにふける時、
「この状態で物思いに更けたらいいだろうか?」
と考えるようになるのです。
因みに、ものを考える時の基本動作は、
『息を止めること』と『動作が止まる』
になりますので、
お茶を飲んでいる時に、どこで息を止め、湯飲みを持つ手を止めれば良いのだろうと考えるようになるのです。
この場合ですと、湯飲みを口元までもっていこうとした時に、手が止まり、息を止めて、湯飲みが自然に口元から離れ、しばらくして止まる。ということが理想だよねとなるのですね(笑)
つまり、何か動作している時に、丁度ここでもう一つ表現を入れたら良いというタイミングが、自分の中で分かってくるようになるのです。
この時に表現しないといけないのは、もちろんですがお茶を飲むことを表現したいのではなくて、お茶を飲んでいる動作で物思いに更けてしまうという表現になれば、役の人物の動機で動いているリアリティのある表現になるのですね。
こうして芝居を考えるようになると、何かふと気になったことが出てきたというような芝居をする時は、敢えて色んな動作を入れて『止まる』というようにアクセントの利いた演技を求めるようにもなります。
このように演技動作を組み立てるとより意図的にお客様に伝わる表現が出来るようになるのですよ。
こだわる俳優でしたら、「食べ物にむせる」演技や、「咳き込む」演技、後は「くしゃみをする」演技まで計算して効果的な表現にしていくのです。
しっかりとタイミングを計って冷静に演技する。
このようなお芝居の仕方を下記のように言います。
台詞が切欠でしたら「セリフを盗んで芝居する」と言いますし、
動きが切欠でしたら「動きを盗んで芝居する」と言います。
しっかりと計算して、タイミングを計る芝居は冷静さが求められますので、
かなり慣れていないと難しく、
この計算が見えてしまうと作為的に見える…つまり俳優の動機がありありと見えてしまって興ざめになってしまうのですね(笑)
ですから、お客様の目を盗んで、芝居することが大切なのです。
お芝居を冷静にしなければいけない理由はこういうところにもあるのですよ。
お芝居は感情を入れれば出来るという安易な考え方で臨んではいけません。
感情をどのようにお見せするのかも俳優の仕事です。
ですから、素晴らしい俳優であるならば、色々な技術を駆使して舞台に上がられることを切に願います。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。