演劇の教室を含めるともう10年以上、後進の方々に演劇をお教えしてますが、
この台本の読み方をお教えするのが一番難しいと思っています。
特に台本の読み方をお教えするとなると、数回程度の授業ではお教えでいないので、ワークショップ等でお教えするのはかなり無理があると思っています。
ではどのくらいのスパーンであればマスターできるか?
5年くらいではないでしょうか?
いや実は年数は個人差や経験数によって異なりますが、私の場合は今の台本の読み方をするのに、
10年はかかりました。
いやそれかかり過ぎでしょ(笑)
そうかもしれません……そこは否定しません(笑)
ただですね。私が今までお教えしえている、ワークショップ、養成講座、演劇教室の門下生の中でこの台本を読み方をマスターされた方は
誰一人いません。
それって、教え方が悪いのじゃない???
…そうかもしれません(笑)
出来るだけ、寄り添ってお教えしているつもりではありますが(笑)
それでも難しいのです。
難しい理由はただ一つ。
想像力が必要だから
です。
しかし、こういうと「想像力は誰にでもあると思うからそんなに難しいことではないように思うんだけど…」
とこのように思われる方もおられるかもしれませんね。
ということで、今回は台本には想像力がいるというお話を致します。
私の講座を受けている人は、この言葉を耳にタコができるほど聞いていると思います(笑)
台本を読むには技術がいるのです。
台本ってただたんに読んでは出来ないのですね。
何故かって言うと、台本を読む作業って
段々と暗記作業になってませんか?
ということなのです。
そうではなくて、台本を読むときに、
考える作業が毎回必要になるのです。
舞台の戯曲は、通常普段では起こりえないことが起きたりするものです。
「今日は朝起きて、ご飯を食べて、公園を散歩して、帰ってきてからお昼寝をしてそれからお昼を抜いたから夕方にご飯を食べて、ネットを見てからお風呂に入って寝ました」
というような私の日記みたいな作品はまずありません(笑)
「苦しい日々を送ってたら突然チャンスがあらわれてそれをモノにした」というサクセスストーリーであったり、「順風満帆から一つの出来事で破滅してしまう」悲劇的なストーリーであったりするのですね。
つまり、
戯曲は通常では起こりえない出来事が起きている話が殆どなのです。
しかし、台本を普通に読むとですね、
もうどんな話になっているかがみんな分かっているものですから、
無意識に、先の分かるような読み方をして、表現してしまいがちになるのです。
そしてこの表現をしてしまうと、観客が「次はこうなるんだろうな…」と無意識に伝わってしまって
展開の読める説明的で退屈な作品になってしまうのです。
ですから、そうならないように工夫をして、先の展開が分からないようにみせることが必要になるのです。
この工夫がなされていないと間違いなく、
段取りの見えてしまうので、つまらない演技になってしまいます。
あなたのセリフは次に何を言うのかが見えてしまっている
これは、役の人物の動機から発したセリフであるならば、面白いのですが、
俳優の動機から発したセリフであったならば、間違いなく作為的に取られて決められたセリフで話しているんだろうなとバレてしまうのです。
普段、私たちの会話は、次に何を喋ろうかなんて一言一句決めて話している人はいません。臨機応変に話すものですよね。ですから、その臨機応変を表現するためには、相手が話している時に、ちょっと理解してもらえていないかなと思えば、より理解できるように努力もするだろうし、言っても無駄だとあきらめたりするパターンもあるわけですよね。
ただ、台詞が決まってしまうと、相手の顔色を見ずに、
台詞をこうして言うんだ‼
と決めちゃっている人が結構多いので、そういうセリフの話し方だと、お客様に無意識に伝わてしまい、段取り芝居が見えてしまうのです。
では、どのように台本を読めば、それが解消されるのかというと、
台本を後ろから読むということ
で解消されるようになります。
どうしてかというと……
後ろに答えがあるのだからどうしてそうなったのかということが考えられるようになる
からです。
どうしてそうなったのかというのは、その展開の前に絶対に書いてますから、それを探すということになるのです。
こういう作業をしていると次にこういうことに気がつきます。
「この台詞ってこういう意味があるのか‼」
つまり、視点を変えることで、新たな気づきを得られるようになることにも繋がっていくのです。
それと後ろから見るともう一つ不思議なことが起きます。それは、
周りの人のセリフがとても重要だということにも気がつくのです。
台本を前から読むだけになると、暗記作業になり、考える作業がなくなってきて、おかしなことが起きているにもかかわらず、おかしいと思わずにそのまま流してしまうことが結構多いのです。
そして、もっと言えば、それを俳優が、さも当然のようにやってのけると、稽古を見ている演出や周りの共演者も、気になってはいても、それで良いんだとなって、いつの間にかそれが当たり前のようになってしまうのです。
初めてその練習を見る人もその違和感を感じるはずなのですが、その違和感の原因は、
「自分の話の取り方が違っているんだろうな」と
自分の間違いでそのように違和感を感じてしまったと見てしまうこともあるので、おかしいと指摘できないものなのです。
どうしてそんなことが起きるのかというと、
同調圧力です。
同調圧力で当然のように周りが演じていたら、おかしいのは自分の方だと思ってしまうからなのです。
しかし、そういう稽古は歯車が嚙み合わなくなり、どうも気持ちが動かず空回りしたりしてしまうものなのです。
俳優も一生懸命取り組みますが、感情が思うように湧き上がってこないので、
エネルギーを使っている割には響き合わない稽古がしんどく感じてしまう
ようになるのです。
こうなると、稽古は本当につまらなくなります。
つまらない稽古をしている作品は、公演が成功することはありません。
エネルギーの伝わらない作品になるので、お客様の心を響かせられないからです。
このように、台本を前から読むだけだと、おかしなことが起きてもそれに気がつかないことは、普通に起きてしまうのです。
だから、台本の読み方をしっかりと理解していれば、仮にどこかおかしなことが起きたとしても直ぐに修正が出来るので、そのあたりは演出任せにしないで、俳優陣もしっかりと心得ておきたいところであります。
大事なのでもう一度言います。
台本は後ろから読むと答えが書いているので、その答えがなぜそうなったかを見つければ、大事な台詞がたくさん見つけられるということです。そうして大事な台詞を見つけたら、そのセリフはどうしてそう言ってるのか、何故ここで言ってるのかと想像が膨らみやすくなるのです。
素晴らしい俳優の方と共演すると、すっとセリフが自分の心に入ってきます。
それは、素晴らしい俳優の方が、
「相手にこうすれば伝わるだろう」
という、素晴らしい技術でもってセリフを渡しているからなのです。
そのためには、自分のセリフだけではなく、相手のセリフもしっかりと考慮しているから出来る芸当なのです。
そして、相手のセリフもしっかりと考える理由はまだまだありまして、その重要な一つに、
自分の演技で共演者を表現をする
ということも当然あるからなのです。
「アイツの味を引き立てたのは俺の芝居があったから」
ということです(笑)
こうして、芝居を作っていくと、間違いなく
稽古は楽しくなってくるのです。
台本の読み方で稽古が楽しくなるのです。
今回は台本の読み方の技術の一つ『台本は後ろから読む』というお話をしました。
台本を前から読むだけだとですね。
多くの人が考える作業にはならず、暗記する作業になってしまうのです。
こんなことを言えば作者に本当に失礼な話なのかもしれませんが、作者の作品の本意を知りたいのであれば、
疑って読んでみた方が分かりやすいのです。
この本意書かれていることが当たり前だとなると、考えることをしなくなってしまうのです。
これは普段私たちのことでもそうではないでしょうか?
これが当たり前だとか、常識だとか言われたら、言われた通りするしかありません。考えることもなくなりますよね。しかしそのような常識を疑うことをしなければ、新たな発見などありはしないのです。
それに、そのことに気がついていない人も世の中にはおられます。
情報量が少ないと考えることも出来ません。
ですから、こういう方法もあるよという情報をこれからもたくさん発信していき、その中で、取捨選択できるようになれば、きっと演劇の世界は面白くなると思います。
考えるということ。想像力を膨らませて、仲間と共有できる活動は、本当に楽しく素晴らしいものですよ。
まだまだ台本の読み方の技術は沢山あります。
何せ、10年分の蓄積からの読み方ですから、情報は膨大です(笑)
ですので、少しずつご紹介できればと思います。
最後までご覧いただきましてありがとうございました。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。