普段、私たちの生活の動きの殆どが無意識に行われています。例えば、そこを歩いてみて下さいと演技練習ですると、
普段どうやって歩いてるんだろ?
となって、歩けなくなったりすることもあるのですね。
普通歩く時は、手と足は左右反対に前に出しますが、ナンバ歩き(同じ側の足と手が同時に前に出てしまう歩き)になってしまう人も中にはいます。
普段の無意識の動作って本当に凄いのです。
ですので、私たち俳優は、普段の無意識の動きを意識化して、自分で動作をコントロールできるようにならないといけないのです。
ここではこう動く、次はあっちに動く。手はこう動かせる。ここで首を振る。
といった具合に。これが出来るようになると段々と高度にしていきます。
ここで手を震わせる。この話をしている時に足をゆする。何か閃いたら動いていた手を止める。さらに高度になると、ここで瞬きを2回する。息をゆっくりと吸う。振り向く時に、一度反対側に振ってから大きく見る。脈拍を上げる。言葉の意味合いで視線を変える。といったことをするのです。
どうしてそこまでするのかというとですね。それは、
動きで伝わる方法がたくさんあるから
なのです。
よく、お芝居は気持ちでやりなさいと言われるかもしれませんが、それは違います。
本当は冷静にお芝居をしないといけません。
お客さんに自分の意図通りにご覧いただくためには、常に冷静な演技が求められるのです。
確かに気持ちでする演技もありますが、それは、自分の最大限のものを出す時で、お芝居のクライマックスで勝負する時はありますが、それ以外は極めて冷静に演技をするのが大切なのです。
台本の世界に生きるということは、実はそんなに単純なことではなく、作られた世界に入るためには、そこで生きるための準備がとても重要なのですね。
例えば、相手の台詞はもう何を言うのかが分かっている中で、驚けるかと言われれば、普通の感覚であれば驚けないのが普通なのです。
相手の台詞が用意されているのであれば、台詞を聞く側の自分も聞き方を用意する必要があるのです。
これを用意していないと、どうなってしまうか…?
それは、このセリフが来たらこんな感じで返すんだという即興性が表れるのですね。
この即興性は一概に悪いとは言えないのですが、役の人物ではなくて、
役者の動機が表れるリスクが高くなるのです
役者の動機、つまり台詞の動機は、役の人物のものでなければならないのに、役を演じている演者の動機が表れてしまうのです。
これでは、物語に誘うことは出来ず、作品自体をダメにしてしまうのです。
また、「私は怒ってます」であったり「私は悲しくて泣いてます」であったりと、どうも役の人物の動機ではなく、役の人物を説明する演者の動機が見えてしまう場合もあります。
観客は、無意識に動機を感じるものですからこういう芝居を観ると大抵こういう感想になるのです。
役者は頑張ってたね
そして、こういう感想が来るということは、
物語に入れてなかった
ということなのです。ですので、役の人物の動機が表れるようにしっかりと準備しないといけないのです。
役の人物の動機を表すためには役の人物の動作をあらかじめ決めておくこと
これが『伝わる演技』で最も大切な考え方です。人は、話している内容よりも話している動作や間に表れる動機を見出そうとします。
つまり台詞よりも動作の方が重要な情報なのです
観客が動機を見出そうとするということは、言い方を変えれば、
気持ちを汲み取る作業
となるので、お客様自身が情報を取ろうとしてくださる。そして、これは、
よりお客様に伝わりやすくなる
ということに繋がるのです。
聞かない人に話をするよりも、しっかりと聞いている人に話をする方が理解度は上がります。
ですので、理解していただける環境を作るためには動作で見せることが何より重要なのです。
まぁ、難しい話になりましたが、最初は動作の方が『伝わりやすい』とだけ覚えていただければOKです(笑)後で「こう言うことね」と分かって頂けると思います(笑)
具体的な演技としましては、
例えば、相手の台詞を聞いている時に、途中で手を止めて息を止める。
こうすることで、この話に注意しているという表現が出来て、注目度が増す。
例えば、注意して聞いていた話の内容を理解した時に、顔を客席正面に向ける。
この表現は「この話はここで私は理解しましたよ」と分かって頂くためにしているのと、
ここの話はとっても重要ですよ
という裏メッセージも含んだ役の人物の動機が表せるようになるのです。
ですので、しっかりと意識して動作を見せることが演技という技なのです。この演技を自然に見せるためには普段の動作の練習はとても重要になります。なぜなら、自然に見えない演技は、どうしても役者の動機として現れてしまうからです。
「ご飯食べているということを今この役者は説明しているんだな」とみられるのです(笑) ご飯の食べ方でも。箸の使い方、茶碗の持ち方、お椀の持ち方、実際に持ってみて手に馴染ませる。すると、観客の中には「ああいう食べ方するよね」とか「そんな食べ方の人いるいる」となって、その人自身に関心を寄せることに繋がるのです。これは、「お客様を味方につける技術」でもあるので、実際に行っているのを模倣してしっかり練習すると良いでしょう。
この、無意識でしている動作の模倣…
これは、身体に覚え込ます練習ではなく、脳に覚え込ます練習なのですね。脳は意識下では、無意識の動作をあまり正確には把握していません。ですので、実際にやってみると・・・
こんな感じでしてるんだ・・・
普段していることにもかかわらず、不思議な発見が出来るものなのです。前にペットボトルの蓋をエアーで開けて下さいと言った時に、演技者が蓋を10回くらい回して開ける人がいました。実際に何回くらいで開けられるか、ペットボトルを持って開けて下さいというと
3回、4回、まわしただけで開きました(笑)
こういう勘違いは、他の動作でも山ほどあります。
それを一つずつ模倣して練習すれば、効果的な演技に繋がることがやがてできるようになるのです。
ですので、普段私たちが無意識で行っている動作の模倣練習は必ずしておいた方が良いでしょう。
素晴らしい演技が出来るのはこのことが分かってるかどうかといっても過言ではありません。
私たちは本物の動作と嘘の動作の見分けが実はできているのです。
無意識に感じ取る私たちの動機センサーは本当に素晴らしいのですよ。
だから「こんな感じ」というような演技では、事実に基づいていない演技として、無意識に認識され、自然な演技とは見られないのです。
そのような演技はどこまで言っても「お芝居しているな」としか見えないのです。
演技はとっても奥が深いですね。
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さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。さらに、自身のBlog『さいとうつかさの演技力会話力Blog』は1000万PVを超え、多くの方々から支持を得ております。
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