2月に演技力会話力Blogが100万PVを超えましたので、新たな動画企画をYouTubeで開設しました。
今回はこの動画で説明している補足を当Blog【さいとうつかさ演劇相談室】でも説明したいと思います。
今回取り上げる動画はこちら
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この動画のお話は、あまり日本では知られていない内容かもしれません。
何故ならば、このことを分からずに舞台に立ってらっしゃる方が多くお見受けされるからです。
これは基本的な知識だとは思うのですが、なかなか知られていないところに問題があるように思います。
偉そうなことを言いまして大変恐縮ですが、今回のことは、やはり多くの方々に知っていただければと願っておりまして、届く方にだけでもお届けできればと思い発信して参ります。
まず、動機についてYouTubeでは話していますが、おさらいすると、
人の心の動きのことを動機と言います。
よく犯罪の争点で、動機という言葉が出てきますが、こちらの考えとほぼ同じで、犯罪が「結果」とするならば、その犯行動機は「原因」といったところでしょうか。
俳優はこの動機を表わすのがお仕事なのですね。
では、俳優がどのように動機を表現するのかということなのですが、これが少しややこしいのです(笑)
動画の中で、劇団員井出美空と寺川美代も「?????」ってなっていましたよね(笑)
ですので、一つずつご説明します。
まず、演劇作品の中にいる役の人物の動機を正確に表すのが役者の仕事です。
ですが、演じる時に、役の人物の動機はこうだろうからこういうふうに動こうとすると……
これはダメなのです。
これでは役の人物の動機を正確に表現しているとは言えません。
役の人物の動機はこうだろうから「こう動く」という考えは役者の動機なのです
人間の動作は、ほぼ無意識に動作しているものが殆どで、意識的に動くということの方が実は少ないのです。
ですから、役の人物の動機がこうだから、結果的にこのような動作に至ったという考え方の方が自然なのです。
結果的にこのような動作に至ったというものは意識的に動かそうとしてモノではなく、無意識に体が勝手に動いたということです。
つまり無意識に動いたという動作を表現すれば、意識的に動かしたようには見えず、その結果、「こう動く」という意識的な動作には見えないという理屈なのです。
では、無意識に動いたというふうにするにはどうすれば良いのか?
ここで、この動画は次回に続くとなっています。
ですが、このBlogで先に、前情報お伝えします(笑)
無意識に動いたという動作にするには、まず、普段私たちがどのような時に、無意識に動いているのかを知る必要があります。
無意識の動作の代表として挙げられる動作が『息』
この息は、息を吸おうとか吐こうと思って呼吸をしている訳ではありません。
いつの間にか吸ってるし。いつの間にか吐いている。
ですからこの息の動作を意識的にコントロールすれば、無意識に動く動作をマスターすることができるという訳です。
では、どういう時に人間は息を吸うのか。または吐くのか。
ここでは感情が動くメカニズムを少し説明します。
感情は、何かの事象で、働くものと思っている方が多いのですが、これは少し違いまして、
何かの事象に対して、自分の受け取り方で感情が働くのです
ですから、ある事象に対して、感情が大きく動く人もいれば全く動かない人もいるわけです。
自分の受け取り方次第なのです。
で、大きく感情が動くということはどういうことかというと、それは自分の想像からかけ離れた事象であれば、その分その反動も大きくなるといった具合に、その事象に対して、驚けば驚くほど、感情は大きく動きやすくなるのです。
そこで先ほどの息の登場です。
人間は驚いた時、必ず息を吸っているということしています
つまり、感情が働く前に必ず息を吸うという動作が働くのです。
この動作を表現に入れれば、無意識の動作として観客に伝わり、役の人物の動機として受け止めていただける確立が上がるということなのです。
少し分かり難いですよね。ではこういう見方で説明すれば分かりやすいかと思います。
役の人物はこういう感情だから、感情大きく動かそう……これは役者の動機ですね。
ですが、役に人物はこの時、息を大きく吸う……これですと役の人物の動機になりやすいのです。
ただ、息を吸うだけで、感情が表現できるのかと言われれば、それは違います。
ここで、演技という技が登場するのです。
この技の名前は、
身体動作から感情を誘発させる技術
という素晴らしい技術です。
感情のメカニズムをまず理解して、動作を何回も反復練習し、そういう感情を呼び起こす練習をするのです。
人間は、例えば怒っている時、相手の言動がキッカケで怒りが湧き起るということもありますが、自分の怒りの言葉でさらに激高することはありますよね。
これは、身体動作から怒りを誘発させていることがあるということなのです。
ですので、怒りでも、出し入れをしっかりしたプランでやれば、怒りの表現はよりリアリティーのあるものへとなりやすいのです。
例えば、怒りを一本調子でまくしたてるのではなく、譲歩することも入れ、「優しく伝わりやすいような表現」を入れたとします。しかし、相手の反応を見た時に、「僕はこれだけ譲歩してるのになんだその態度は!」となったりしやすいですし、相手も反省の色が見えるならば、話の落とし所を見て、怒るのをやめることだってあるのです。
つまり、怒りの中でも、様々な感情がうごめき合えば、感情のエネルギーは大きくなるので、こういう感情表現が理想的なのですが。これを意図してするのは至難の業で、とてつもなく難しいのです。
ですが、先ほど申しました技術、
「身体動作から感情を誘発させる技術」を使うと、自動的にそういう複雑な表現にシフトできる
のです。
これを私たちの演劇メソッドである「ブルアメソッド」では、
感情のスイッチ
と言っています。
つまり、この感情のスイッチを押すだけで、後は自動的に役の人物の感情を誘発させることに繋がるという訳です。
にわかに信じがたいお話ですよね。
しかし本当のお話です。
人間は嘘偽りのない感情が出た時に、初めてその時を生きる体験をします。
その時を生きるという体験は、「ゾーン」とも似てはいますが、もっと分かりやすく言いますと、その時の状況に限りなくフィットできる対応能力が備わるのです。
感情に支配されている人がどこに注目しているのか、五感で感じ、その五感を信じた反応が出来るようになるのです。
こういう感覚は、実は台本には答えはなく、自分の心の中にあるものなのです。
その心の中にあるものを役の人物が引き出してくれているという感覚なので、
役の人物から教わる
ということを言われています。
つまり、じぶんがその感情スイッチを押せば、後はオートマチックに感情が作動するから、表現しようとする役者の動機も要らないということなのです。
この感情のスイッチは「無意識に動かしている動作にする」ということ。
この無意識に動かす動作は、息であったり、目の瞬きであったり、身体の震えであったりと色々とあります。
このような身体の動きを意識化して、動かす。そして感情を誘発させるイメージを持つ練習をする。
この反復練習をしていると、不思議なことに段々と、感情が誘発される感覚が芽生えてきます。
そしてこの感覚がしっかりと芽生えた時、「体現できた」ということです。
この「体現した」ものを、稽古や本番で「再現する」
これが演技の基本なのです。
息を吸えば、自動的に感情が誘発される。
この状態は、当に役の人物の動機で動いたものであると言えるのです。
演技って奥が深いでしょ(笑)
そうです。誰もが出来る訳ではありません。
しかしここの理屈が分かれば、誰でも出来るものなのです。
問題は、このことを素晴らしいと思えるか否かの違いだけです。
ただ、この技術、何も演劇だけに留まる技術ではありません。
自分の感情をコントロールする技術でもあるのです
このことを本当は多くの方々に知っていただきたいのです。
今、心の状態が苦しい方も大勢いらっしゃいます。
いきなり、この技術の導入は難しいかも知れませんが、
身体動作から感情を誘発させる技術を使えば、心が和らぐことも出来ます。
ですから、この技術が多くの方々のお目にとまり、色々なところで使えることを知っていただければと願うのです。
以前私が個人でしていた演劇教室でも、このような活動で、多くの方々が快活になり、自立して人生を謳歌する人も増えました。
演劇が社会にとってより身近な存在になることを切に願っております。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。