感情を入れて表現することが演技だと思っている人は多い。

しかし演技は冷静にしなければ絶対に出来ないものであります。

なぜならば、私たちの情動は無意識に動いている部分が殆どだからです。

自分が考えている感情の動きとリアルに感情が動いている時とは全く違うからです。

感情を入れて芝居するということは、感情を出して表現しようとする行為ですが、この考え方自体がそもそも間違っていて、

感情というのは、本来、湧き上がるもので、それを踏まえた表現が求められるのです。

このことは過去のブログでも何回も申し上げておりますが、これが本当に大切なことなので何回もお伝えさせていただきます(笑)

しかし、昨今の演劇を観るとプロの俳優でも「感情を出して」演技をしている演技者が多い。

ですので、湧き起る演技法をここでご紹介いたします。

感情が湧き起るような演技をするには、まず、感情が湧き起るメカニズムを知ることからがまず第一歩です。

簡単に言いますと、感情が湧き起る時に共通するのは、息を吸うという動作があります。

この息を吸う動作をするだけで、周りの人は「心が動いた」と無意識に感じるのですね。

この息を吸うという動作は、「驚き」の動作でもあります。人は驚く時に息を吸います。

ですので、何かが起こって驚きがあって感情が誘発されるという感覚をまず養わなければいけません。

この感覚は日々の練習が必要で、この練習の重要性が分からないとリアルな感情の表現の体得は難しいのです。

では、どうして日々の練習が大切かということですが、

普段私たちの情動は、無意識に行われており、無意識に感情が作られて出力しているのです。この感覚は普段自分の心身で体現しているのですが、動作からどのようにして感情が誘発されているかは、無意識なので当然分からないのです。ですので、その無意識を意識化した練習をしていくのです。感情の前に息を吸うという動作。これも無意識です。この無意識の動作を何回も何回もしていくうちに身体から感情を教えてもらえるような感覚を養う。そのために、日々反復練習をするのです。こうして感情を誘発させる練習をしているのです。

私たちは普段から、人の感情を察することが無意識に出来るようになっています。(もちろん個人差はありますが)

ですので、感情を出そうとする演技を見ていると無意識に違和感を感じる人は多いのです。

どういう違和感かというと役の人物ではなく、役者自身の動機で動いているように見えてしまっているのです。

役の人物は感情を出そうとして生きてはいません。俳優がその役の人物の心境になりたいのだけれど、作品の世界は当然リアルな世界ではないので俳優自身がどうしても作品に入っていけてないから、感情を出そうとする。その出そうとする役者の動機が観客にバレてしまっているというわけなのです。

こうなると観客は、その感情を出そうとしている演技者にどのような印象を持つかというと

のです。

これでは当然ですが、お客様を味方に出来る役者にはなれません。

一方、感情を湧き上がられせた、しっかりとリアルに表現している演技は、当然ですが、臨場感が出てくるので、自然とその世界に入っていけます。まるで目の前で生きている人物として捉えるようになるので、感情移入の的になる。このようになると、役の人物と観客はまるで運命共同体のようになって、次々起こる出来事に共に立ち向かうような感覚がお客様自身の中で生まれてくるのです。こういう状態を

お客様が味方に付いた状態

ということなのです。

私たち俳優は筋書きのある世界で如何にリアルに生きるかが求められます。

しかし、俳優は台本がある以上はもう自分の与えられた役の運命は分かっているわけですね。

このような状態で感情の赴くままに演技をしようとしても無理があるのです。

相手の言葉も分かり自分の言葉も分かっているのだから、まず新鮮に驚くことなんてできないのです。

この驚く感覚がないから、どうしても感情を誘発させる動作が作動しないのです。そして当然ですが、出ないのであれば出そうとなるわけです。

ですので、実は稽古では一工夫がどうしても必要になるのですね。

まず、

もうみんなこの話が分かっている状態なのですから、そこで生きるということはまず無理だと諦めることが必要なのです。

この話の上で、

相手の言うことが分かってるんだから、その感情の動かし方も冷静に準備しておけば良い。

と開き直るのです(笑)

つまり、

「相手は自分にここで驚くことを言うから、ここで驚くことをする。驚くという無意識の動作は『息を吸う』だよな。ここではかなりの驚きなので、口から一気に吸ってみたらどうなるだろう……?」

こういう風に練習している時に何回も何回もそのセリフが来た時にその息を吸う練習をするのです。

とってもバカバカしい話ですが(笑)

しかし、これは驚くことに素晴らしいことにやがてつながってきます。

それは、

のです。

とっても不思議なことですが、これは本当にそうなるのです。

そうするともう一つ気がつくことがあるのです。それは、

相手の言っている台詞の動機が役の人物の言葉としてすっと入ってくるようになる

つまりこれはどういうことかというと、

聞いている自分自身も役の人物の動機として聞けてくるようになっている

ということになっていくのです。

普通に台詞を回しても感情は動きませんが、こういう無意識の感情を誘発させる動作を入れて練習すると、

本当に臨場感のある世界に自らが入っていけるのです。

如何でしょうか。

冷静に演技をするとこういうことに繋がると分かりいただけましたでしょうか。

お芝居って面白いでしょ(笑)

演技の練習をすればするほど、

人間って凄いことを無意識でしているんだなといつも感じます

素晴らしい体験です。

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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