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役の人物を演じる場合、その演技者の心の中には二つの動機が存在することになります。

一つは、役の人物の動機、そしてもう一つが自分自身である演技者の動機。

舞台俳優の仕事は「舞台上で登場人物の生き様をご披露する」ということ。

この時に必要なのは「迫真」であります。

迫真とは真に迫るということですよね。

つまり真である「リアリティー」がとても大切になってくるのです。

舞台上でリアルに生きている登場人物があたかも自分のような感覚でご覧いただくためには、お客様の臨場感を上げることで、舞台の世界に入っていただくのですが、その時にリアリティーのある表現によって作品世界に誘うということなのです。

そしてこのリアリティーを上げる表現にするためには、物語の中で生きている登場人物の動機を表わすということが大切になってきます。

つまり

感情を表現するのではなく動機を表現する

ということが正しいのです。

実際のところ・・・・・・

普段の私たちのコミュニケーションの中で、感情を表そうとしている人はいますでしょうか?

私たちは会話の中で、色々な意図、つまり動機で相手と対峙してて、その動機によって自分の感情をコントロールしているのです。

例えば、真剣なところで面白いことがあった時、絶対に笑ってはいけない状況だったら、だからぐっとこらえますよね。

怒ってはいけないけれど、怒ってしまうこともあるでしょう。

これは、感情というものは出しているのではなく、自然に湧き起こっているということなのです。

ですので意図して出しているより、思わず出てしまっているものということです。

この点で、何故感情を表現しようとしてはいけないのかが何となくお分かりいただけるかと思います。

このことを踏まえると、感情を湧き起こらせる技術が必要になるのです。

感情については少し置いといて、次に動機の説明に入ります。

動機というのは、自分の意図するモノであるものです。

つまり、相手をコントロールしたい時であったり、衝動に駆られることも動機になります。

演技において重要なのはこの動機を表わすということですが、ここで一番最初にあげたことが壁になることもあるのです。

それはなにかというと、演技者の中には二つの動機があるということ。

前述通り、演技者は物語の役の人物の動機を表現することが求められます。

ですが、ここでもしも、

と思った場合、これが実はダメなのです。

何故かというと、ここでこういう表現をしようというのは、役の人物ではなく、演技者、つまり自分自身の動機になるからです。

何回も舞台作品をされてらっしゃる方でしたら、ご存知かと思われますが、稽古の時に演出の方から、「表現しようとするな」と言われるのはこの部分を指しているのです。

つまり「役の人物ではなくて自分が現れているぞ!」ということです。

これですと、物語の世界には誘えません。

ですので、役の人物の動機を表わすことに徹することが求められるのです。

では

どうやって役の人物の動機を表わすのか?

これがポイントですよね。

ここで重要なヒントになるのが、

動機ってどうすれば伝わるの?

ということです。

また普段の話になりますが、会話中に自分の動機を伝える人はいませんよね。

まぁ、敢えて動機を見せる人はいますが・・・・・・

大抵は自分の考えている大元は言いません。

つまり、動機というのは伝わるものという認識でここでは思ってもらって大丈夫です。

動機はどうすれば伝わる?・・・・・・

それは身体動作です。

身体動作を駆使すれば、動機は伝わるのです。

少し余談になりますが、伝える演技は実は存在しません。

それは演技ではなく伝えてるだけ。

つまり演じているだけなのです。

技ではないのです。

本来は、

というのが、俳優の仕事ですので、演技は伝わるものでなければなりません。

話を戻しますが、動機は伝わるもの。

つまりここを表現すれば「伝わる演技」を習得できるということになるのです。

さて、どうするか。

それはですね。

動機を表わす身体動作は無意識の動作だということをまず理解しなければなりません。

そして、ここがポイントですが、

ということなのです。

ですので、この無意識の行われている身体動作をすれば、自然に動機が現れるということなのです。

このことを私たちの演技メソッドであるブルアメソッドでは

と言い、そのような練習を行っているのです。

今ではこういった基礎練習をしているところが少なくなっているように思います。

そして、実はこういった伝わる演技の動作の所作は本当は数々あるのですが、それも、今ではお教えしているところがどれだけあるのでしょう?

こういった練習が大切だという認識がもっともっと増えれば、演劇の世界ももっと元気になるかなと思うのであります。

話を戻しますが、その所作の一つが、このBlogでも何度かご紹介している「息」です。

この動作は、動かそうとして動かしている人はいませんよね。

そろそろ苦しいから息をしようという人はおそらくいないでしょう(笑)

そして、この息は感情を誘発させるためにとても重要な役割を果たしていて、人は感情が誘発される時の前に息を吸うという傾向があるのです。

この理由はこうです。

人は思考により感情が誘発されます。

その思考とはある種の驚きから生まれるものです。

例えば、サプライズのプレゼントを受け取った人は、プレゼントを見た瞬間、驚いてそれから喜んでいる訳ですよね。

つまり、プレゼントを見て条件反射的に喜んでいる訳ではないのです。

また、そのプレゼントを見て自分がどう認識したかによって驚きの度合いも変わるので、当然のことながら、驚きの弱い人もいるのです。

そして、人は驚く時、どうなっているかというと

ということなのです。

ですので、整理すると、何かの事象を認知した時に、その度合いで息を吸いその後に感情が生まれるということになるのです。

そしてその誘発された感情を自分がどのようにコントロールするのか、これが動機になるわけです。

これは、例えば涙を流しているシーンがあるとします。

その時に泣こうとしているのは論外ですが、

この涙を必死になって止めようとしている

これが動機になるわけです。

このままだと涙が出てしまう時、人はどうするか、

天を仰ぐ人もいるでしょう。そうすれば涙が零れ落ちないから。

ハンカチで涙を拭う人もいます。

悲しみが込み上げてこないように途中で絶句する人もいます。

こういった表現が実は演技で、感情を表すことが演技ではないのです。

感情を表現しようとすればするほど、演技者自身の動機が出てくる。

ここが演技の深いところでもあるのです。

このことを早くから分かって演技研鑽をして下さる若き役者が増えることを願っております。

こういう主張は難しいのですが、一個人の意見としてそういう意見もあるとご覧いただければ幸いです。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。さらに、自身のBlog『さいとうつかさの演技力会話力Blog』は1000万PVを超え、多くの方々から支持を得ております。

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「【一問一答】どうして感情を表現しようとしてはダメなの?」への1件の返信

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