この理由は私の周りにいる方も知っている人は少ないかと思います。
知っても大したことではありませんが……(笑)
ですが、この話は今後の演劇の未来に関わる話だと思います。
と同時に、この話は色々な方々からお叱りを受けそうで、とても恐縮なのですが、個人ブログでの一意見だとして、受け取っていただければ幸いです。
私が演技を教えるようになったキッカケは当にこのことがあってのことでした。
今から20年ほど前に、あるプロの演出家の先生とお話させていただいた時です。
当時私が所属していた劇団のお師匠さんの話になったのです。
私のお芝居のお師匠さんは演劇界では有名な俳優で、ここではお名前を伏せますが、日本だけではなく海外でも賞を取られている、俗にいう「凄い演劇人」なのです(笑)
そのお師匠さんの話題にふとなったことがありました。
その時、演出の先生は私の師匠といつも近くにおられるのに、一緒に芝居をされたのを見たことがなく、いつも疑問に思っていたので話の流れで、私から聞いてみたのです。
「どうして、私の師匠とお芝居ご一緒されないんですか?」と勇気を振り絞って(笑)
すると、その演出の先生が驚くべきことを仰ったのです。
それが……
「あの人、芝居上手すぎるやろ」
なんじゃその理由?(笑)
私は驚きました。
それからも、延々と先生は言葉を続けました。
「どんな作品をしても、全部持っていかれる。私はそれが問題だと思うんですよ」と。
そして極めつけが、最後に「私はね、こんなこと言うのもなんやけど、さいとうさんにはそうなってもらいたくないんですよ。これは私の今の演劇に対する想いです」と。
この時、私は正直、先生の言葉を疑いました。
私の一番尊敬申し上げる先生が、なんと変なことを……
ですが、今となってはその言葉が何よりも私の心に響いている言葉になっているのです。
当時の私は、その先生のお言葉をこのように受け取りました。
ではみんなが上手くなれば良いじゃないか。先生が私たち若手をもっと指導して、そこのレベルにまで引き上げて下されば!
と正直思ったのです。
ですが、そう思うと同時に、こうも感じたのです。
私はいつも師匠と舞台に立たせてもらっているのですが、本当にそれで良いのだろうか
師匠はあまりに周りと次元が違い過ぎる。
これはどの俳優も思っていたことだったのです。
「同じ舞台に立っていても違う世界に生きている」
私たちは羨望の眼差しで師匠の芝居を側で見てきた。
その方と同じ土俵で戦えるのかと言われれば、その当時は明らかにNOだったのです。
私が所属していた劇団は、その師匠を観に来るお客様が圧倒的に多かったと思うので、それで成立していたのかもしれません。
しかし、作品を重視している創作者からすれば、この問題はかなり大きな壁になる。
この一見、大したことのない問題が、今の演劇の現状に反映されているのは、50を過ぎた歳になってから段々と分かるようになりました。
芝居は教えてもらったら上手くなるとかそういう問題ではない。
今の演劇事情で技術を身につけるということは、至難の業なのです。
中には、どんな環境下でも技術を身につけられる人はおられます。
しかし、そういう方は本当に稀なのです。
同じ芝居歴でも、次元が違うことは普通にあります。
経験値が同じでもそうです。
同じ高次元で戦っている人と出会える環境が東京にはあっても、地方にはなかなかないのかもしれません。
海外のあるところでは、しっかりとした演劇の教育機関があり、狭き門ではあるがそこで学べば、素晴らしい舞台環境が保証されているのも見てきた。
明らかに違うのです。そこを見てきた。
また、外国で公演を行った時は通常、歓迎パーティーを開いていただくことがよくあるのですが、当時、私が20歳前半くらいの時に訪問したある国でのパーティーで、同じ年齢の女優とお会いした時に一番感じたのは、演劇人として品位があまりに違うということでした。
向こうはパーティードレス。
こちらはTシャツにジーパンでしたから(笑)
プロ野球のドラフト会議の会場みたいなところでスピーチもするのですが、そこでも本当に惚れ惚れするくらい堂々としてて、こちらが芝居をしきに来ているのに、この女優の舞台がみたい!とその場で思ったくらいです(笑)
そうして色々と世界を見た時に、私は本当に心底、今自分のいる現状がおかしいと感じたのです。
長々とお話しましたが、結局のところ、演出の先生は、今ある現状でしっかりと勝負されて素晴らしい作品作りをされていた。
ですが、理想だけでは芝居は出来ないということを教えてもらったのですね。
ですが、
ですが!
それでも、そうだからと言っても、
芝居の次元が高い方が良いじゃない!
そういう人間に自分にはなれなくても、お師匠さんや自分が今まで見てきた海外の俳優のような高次元の俳優や女優を育てる環境を作ることならできるかもしれないと、10年くらい前からずっと構想を練っていたのです。
その間、積極的に芝居に出ることはなく、裏方に徹していました。
たまに出演することがありましたが、近年ではほぼ緊急登板で舞台に上がる程度です。
主役が飛んだからお願いしますと10日前に仕事を受けたこともある
勿論セリフは入っていませんが、今までで一番良かったとその当時は評価されたので、結果は出せたのではないかと思います。
10日間で2時間の出ずっぱりの芝居を仕上げるというのは、普通に考えれば難しく、そこで舞台に上がるのは恐怖でしかありません(笑)
それはもう技術でしかなく、今まで培ってきたものだけで勝負したという感じでした。
この話はもう10数年前の話ではありますが、未だにこの話は関係者の中では知られています。
よく、どうしたらそんなことが出来るのですか?
と聞かれますが、正直なところ自分では分かりませんと答えています。
このブログ記事の内容を実践すると出来るようになるんですよといったところで、変人扱いになりますから(笑)
ですから、ここまでご覧いただいて下さっている方の中でも分かる人にしか分からない内容だと思います(笑)
まぁ、殆どが一ヶ月以内で仕上げないといけない緊急登板。しかも、主役級ばかりですから、じっくりと温めて芝居が出来る環境ではないのです。
これらが今ある現状でしっかりと勝負するというやり方で、以前教わったその教えは忠実に守っています。
またシェイクスピアの作品も主役でひと月で仕上げるというのもありました。
自慢話みたいに聞こえたらすみません。
でも、ここからが本当に言いたいことですが、そんな普通ではない経験を沢山しても私自身、芝居が上手いとは一回も思ったことがないということなのです。
これは断言します。
ただ、演技の技術を知って身につければ、誰でもここまでは出来る!
これが言いたいことなのです。
確かに私は意識が少し高いのかも知れません。
しかし、一度だって、芝居が上手いと思ったことはないんです。
普段の練習から思ったことの7割くらいが出来てよくやったなって自分自身で労っているくらい役者なのですよ(笑)
それよりも、私は、今の若者を見て、自分よりも遥かに優れたものを持っているのを感じます。
勿論全員ではありませんが(笑)
この人たちが演技を覚えたらどうなるのだろう?
そう思って、期待に胸膨らませてながらワクワクしている自分が今いるのです。
これは本当のことです。
私には出来なかったことが、もしかしたら今の若人に将来を託すことができるのではないかと確信めいたものがあるのです。
そしてその成果なるものが見てみたいのです。
勿論、ぶっちゃけを言いますと、私も俳優ですから舞台には立ちたい。
ですが、今したいことはそれよりも勝ることなのです。
まずは素晴らしい演技術があることを多くの方々に知って欲しい。
この一点なのです。
それを知り、身につければ、
必ずや凄い化学反応が起きるような気がしてならない
のです。
ですが、これは残念なことに誰でもという訳ではありません。
この話を聞いても胡散臭いなと感じる人にはここでは無理ですし、この話が理解できたとしても志が高い人でなければなりません。
ですから、この長文を読んでも、さらに情熱がある人にしか響かない世界だと思います。
つまりこの長文は私の演技メソッドを覚えるための登竜門みたいなものです(笑)
まぁ、それは冗談ですが、今でも沢山の希望の星と出会っております。
その方々とは今後、私たちのところで一緒に活動できるかは分かりませんが、それは私の目的ではありません。
勿論、私たちブルアと共に演劇活動していただけたならそれは至福の喜びです。
ですが私の芝居を教える目的は
芝居をして本当に良かったと思える活動をサポートすること
これに尽きます。
ですので、私たちは直接の劇団員の募集は行っておりません。
もしも価値観が私たちとあえば、ご一緒しませんかというスタンスで、こちらから劇団に勧誘することはありません。
仮に劇団ブルアの俳優養成講座に入っても、そういった変な勧誘は一切ありませんので、どうぞご安心下さい(笑)
最後に、ご案内だけさせていただきます。
俳優養成講座ってどういうことをしているのか、2日間だけの体験演劇ワークショップを行います。
開催日は2025年2月1日(土)/2日(日)で、場所は兵庫県の西宮で行います。
詳細は下記の劇団公式ホームページをご覧いただければ幸いです。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。さらに、自身のBlog『さいとうつかさの演技力会話力Blog』は1000万PVを超え、多くの方々から支持を得ております。