私たち俳優は、お客様に、どのようにしてお芝居をご覧いただくということを考え、

「このようにご覧になっていただきたい」

という意図を持った演技プランを基に、演技表現に努めております。

この時に、

「こうすればこのようにご覧いただける」

という演技技術が実はたくさんあり、この技術を使ってお客様に作品の世界に誘うことをしているのですが、

この演技技術が実際に俳優をされている方の中でもあまり知られていないようにお見受けします。

確かに、このような実践的な演技術は演劇学校でもなかなかお教えできる人は少なく、かなりの経験値のある方でないとその技術はお教え出来ないものだということはよく分かっておりますが。

ですから、まず演技を知るということからなのですね。

先ほど申し上げた「こうすればこのようにご覧いただける」という演技表現を数例あげますと、

・舞台のどの位置にいるかで表現することができます。

・舞台上の立ち方だけで表現できることができます。

・歩き方で表現することができます。

・どちらの足から歩みだすかで表現することができます。

と、まだまだたくさん細かい表現方法があるのですが、

それを演技者は感覚で知り、反復を重ね体得していくことが求められます。

そして、これらの演技術は

毎日練習を積み重ねたとしても普通は数年はかかるもの

なのです。

ですので、私のお教えしている講座や、ワークショップでは毎日の練習が不可欠だということを常に申しており、公演の稽古の演技練習だけでは到底満足にお客様にご覧いただけるものを提供出来ないとお伝えしております。

とても、厳しいことを申し上げて大変恐縮ではありますが、今の演劇事情を考えるとやはり演劇の世界全体のクオリティを上げていくことが必要だと思うので、俳優個々人の演技術の向上意識を切に願っているのであります。

そこで、俳優を志される方に、これだけは特に知っていただきたいことがありまして、今回このお話をさせて頂こうと思っております。

それは、

演技術というものはそもそも見えないもの

なのです。

演技というのは、その技術が見えてしまえば、それはもう演技ではないということなのです。

ですので、演技を習得する際は「これが演技だ‼」ということを見極められる目がいるということを知っていただきたいのです。

しかし、この見極められる目というのは、お教えできるものではなく、自分で体得する気持ちがなければなかなか得られないものです。

昔は『技術は盗むもの』と言われていましたが、これは欲しくて欲しくてたまらないから、何か手掛かりはないものかという意識で見ていられたのですね。

そうして何回もその先人方の演技を見ているうちに「これかも!」という糸口が見え、そこから自分で真似をして体得に励んでいたのです。

この「これかも‼」と見つけられるのも感覚によるもので、この感覚は人それぞれ当然違ってきますので、お教えできるものではないのです。

自分のあこがれの人、尊敬する先輩方の演技表現を穴が開くほど見て、自分の研究心で自分なりの答えを見つけることが求められるのです。

私は、公演に向けての時は俳優の方々に、『こうすれば、こう見ていただける』という実際の演技手法をお教えしていますが、このような動作手法は無数にあり、それを一つ一つお教えすることはかなりの時間を要します。それにその一つ一つの演技表現の動きを体得するのにもかなりの時間を要します。

ですので、やはり自分でいち早く見つけられるようになって、自分で表現研究をする元来の『演技は盗んで覚えるもの』という心構えがどうしても必要なのです。

こうした飽くなき探求心が、常に演技のことを考えることに繋がって、日々の練習を促進させることに繋がります。

教えてもらうスタンスでは、毎日練習することはできませんので、素晴らしい俳優になるためには、毎日練習できる環境を自分で作るこの探求心がとても大切だということを申し上げます。

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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