伝える演技と伝わる演技であればどちらが良いですか?

それはもちろん「伝わる演技」の方が良いですよね。

今回は伝わる演技についてお話しいたします。

まず、簡単に説明すると演技表現は「セリフ」と「動作」という二つのことがあります。

二つを分けて考えるのは少し変かもしれませんが、この方が説明が分かりやすいので(笑)

セリフで演技表現すると「伝える」という演技になりやすく、動作で演技表現をすると「伝わる」という演技になりやすい。

これは何故かというと、観客側の立場から考えれば分かります。

セリフ表現からくる情報は、想像の余地がないので、聞けた時点で理解が出来て判断できます。

しかし、動作表現からくる情報は、しっかりとその動作を見ても確実に判断できる情報ではないため、想像の余地がたくさん出てきます。

この想像の余地が膨らむと観客からすると「多分こういうことなんだろうな」という見方になるわけで、なんとなく理解までは出来ますが断定まではできない。

人はストーリーを理解して判断するとそれ以上は聞かなくなるということがあり、それ以降はいくら伝えても届かなかったりするのです。

けども、「ストーリーはたぶんこうなんだろうな~」という想像の余地が残っている場合は理解し判断するまではお客様は注意深くその筋を追うのです。

こういう風に想像をしていただけるか否かで「伝える演技」になっているのか「伝わる演技」になってくるのかが変わるのです。

「伝わる」というのはお客様のコンディションが受信したいモードの時。

「伝える」というのはお客様のコンディションが受信しないモードの時。

このように、伝わる演技をするためには、お客様が物語を見てより想像できるようにすることが肝心なのです。

そのため、台詞よりも動作の方がより想像を掻き立てる表現方法になるので、

お芝居は台詞よりも動作の方が重要だと言えるのですね。

ただ、セリフも想像の余地を持たせるような話し方だとそれも「伝わる演技」として成立しやすくなります。

つまり、お客様に想像していただける環境を作ることが何より大切なのです。

良いお芝居は「あっという間に時間が過ぎた」と良く表現されますよね。

この間、色々と想像を巡られていたから、あっという間に時間が過ぎ去ってしまったわけです。

想像の余地がなく、ただ目の前のことを見せられたら…

それはたとえ10分でも長く感じることでしょう。

ストーリーを分かってもらえなければ、いけないのはよく分かります。しかし、そうだからと言って分かりやすく分かりやすく芝居を作っていくと、

この話ってお芝居にする必要があったの?

という様に本末転倒な作品になってしまうこともあるのです。

演技は表現技術だけではなく、お客様とのコミュニケーションを図るのも演技の技術なのです。

この舞台と客席のコミュニケーションを図る技術をもっともっと多くの方に知ってもらえればと思います。

おさらいをすると、動作表現の方が「伝わる演技」となります。

手の動きで、心情を表現したり

目の動き方で、自信を表したり

足の運び方で、気持ちを表したり

姿勢でどういう身分の人かも表現できます。

椅子の座り方で、奥ゆかしさを表現したり

話す時の息で、相手に対しての敬意を表したりしていくと

そのように一人の人物の振る舞いが何層も何層も重なって

厚みのある人物像が浮かび上がってくるのです。

いきなり出てきて、台詞で「私はここの大会社の社長です」と言われても厚みは出ません(笑)

そういう風にたくさんのレイアーを作って、お客様に想像の余地をたくさん作ることが俳優のお仕事なのです。

このようにして演技を構築していく技術を身につけることが今の演劇の世界には必要なことではないかと思っております。

最後までご覧くださいましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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