
前回の記事で演技というのは観客にお見せる表現だけでなく自分の心を動かす技術でもあると述べました。
これは自分が本当の気持ちにならなければ、お客様にその真心は伝わらないですよという意味なのですが、これは臨場感がある演技とも言えるのですね。
観客のお一人おひとりが何だか分からないけれど、目の前に起きていることがリアリティーあるものに感じて登場人物の心情を汲み取るようになるのですね。
ですので、自分の心に嘘偽りのない感覚を出力することが演技者には求められるのです。
ですが、実際のところ役の人物の世界にいるわけでも、ましてや、そこを経験をしたわけでもありませんので、それはどこまでいっても実際に経験している訳ではないから無理じゃないかと思われる方もいるかもしれません。
そういう理論で言うと、私もそこは否定はしません。
しかし、演劇という舞台表現は作り物であっても、臨場感を得られるのは何故かと言いますと、そこには芸術の素晴らしい力が働いているからなのです。
例えば、
音楽に感化される人はそのひと時において、自分の思いと重ね合わせ、その上質な空間を味わっているのです。
絵画にしてもそうです。目の前の情景を浮かべて思いを馳せることもあれば、その絵画を描いてる情景を思い起こし、一人ひとり違った世界を観ながらもその上の精神世界を共有してる人もいるでしょう。
つまり作者の想いを重ね合わせることによって、上質の『今』を体験しているのです。
演劇が何故総合芸術と言われているのか?
それは、音楽的要素も、絵画的要素も、美術的な要素も全て兼ね備わっているからです。
音楽は舞台前に今では馴染みがありませんが、以前はオーケストラピットがありそこで音楽を奏でて、劇が進行しておりましたし、劇場の枠の部分は「プロセニアム・アーチ」と言って、『額縁』という役割を果たしているのです。
今では、それらを、オケピと言ったり、プロセと言ったりしていますが、実際にそれがどういう役割を果たしているのかということは、知らない演劇人も増えました。
しかし、そこにはしっかりと意味があり、簡単に言いますと、例えば、オーケストラピットであれば、その演技者の息づかいをみて奏でるということ。
プロセニアム・アーチは絵画のように、一つひとつの演技者の表現が印象に残る額縁の中の絵になるようにという思いが込められているのです。
他にも美術、照明など様々な芸術が演劇舞台にはあります。
そこをよく考えた上で演技者はお芝居をしないといけないのですね。
「自分の心情がこうだからここにいたい」
という頭だけで自分の立ち位置を決めてはいけないのです(笑)
実はですね。俳優はここをしっかりと認識した上で、働かないとダメなのです。
そうしないと、一役割を果たせない人に見えてしまうので気をつけないといけないのです(笑)
話が少しそれてしまいましたが、どうしてこのような演劇は総合芸術なのかというお話をしたかと申しますと、先ほどもお伝えした
「演技者の求められるものは自分の心に嘘偽りのない感覚を出力すること」これは、自分の感情表現を芸術的に昇華する
ということで自分の中で誠の心を作り上げていくということなのです。
ですから、そのような演技を探究するというのが私さいとうつかさの根底にある演劇活動なのです。
感情は出すものではなく湧き起こるもの。その湧き起ったものが観ているお客様の心に響く。やがてそれが芸術的な表現としてお客様ご自身で確立なさる。
ですから、そこに表現者の嘘偽りがあれば、観客の心に響こうはずもないので、共感を得られないのです。
一つとして同じ表現は生まれない。それが生で感じる芸術なのです。
自分の心に嘘偽りのない感覚を出力することが演技者にとってとても大事だということがこれでお分かりいただけたかと思います。
最後に、ではその心に嘘偽りのない感覚を出力するにはどうすれば良いのかという話をさせていただきます。
私たち「ブルアメソッド」でお教えする最も大切な演技法です。
ですがこれは、頭で理解しても体得できない技でありますので、実践を目的にしてお読みいただければと思います。
それが
『身体動作から感情を誘発させる』
という演技法なのです。
動作から感情を湧き起こらせるのです。
ここでは簡単にできる一つをご紹介します。
呼吸を使った動作で感情を湧き起こらせる方法です。
ですが、これも一回二回ではその感覚は掴めません。
何回も反復練習をして掴むものなので、必ず実践してお試し頂ければと思います。
まず、感情がどのように湧き起こるのかという説明をします。
感情が湧き起こる前には、必ず驚くという動作が入ります。
その驚くという動作を入れることがまずポイントなのです。
人間は驚く時に「息を吸う」動作を無意識に行っています。
この息を吸う動作を反復練習すれば良いのです。
喜怒哀楽、様々な感情を湧き起こらせるには、例えば、怒っている時はどのように息を吸うのかをイメージしてみてください。
もし分からなければ、普段自分が怒っている時にどのように息を吸っているかを自己観察するのも良いでしょう。
一番良い例は、相手との言い争いの時を想像してみて下さい。相手のあまりに理不尽な言動を浴びせられたとします。
その時に、その理不尽言動は自分の想像をはるかに超えた驚きでもって迎えるのです。
すると、身体の中に痺れるような感覚が広がって、頭の中までじんじんくるような感覚が芽生えるでしょう。
そういうイメージをまずもってみてください。
すると、鼻から息を吸った方が良いのか、口から息を吸った方が良いのか自分自身の中で分かってくると思います。
このように自分でスクリーニング(内観)してみるのです。
イメージが膨らむと、吸わされたくない息を無理に吸わされたような感覚であったり、一気に吸った息が脳天にまで入るような感覚を覚え頭がフリーズしてしまったりといった、色々なイメージが湧き起こるかと思います。
これは、個人差があるので、口から吸う、鼻から吸うというのはご自身で決められた方が良いのです。
ただ、怒り方によっては、こっちの方が分かりやすいですよというのはありますので、それは人に合わせた指導になるのですね。
普段口呼吸の人が鼻から吸うとなると、ぎこちなかったりしますのでね。そこは臨機応変が求められるのです。
これを何回も何回も練習していけば、本当に驚くくらいに怒りが芽生えてきます(笑)
そしてこれが本当に本当に最後になりますが(笑)
これは普段でもお試し頂けることなので是非ともやっていただきたいです‼
それは、喜びの表現です。
喜びの表現は、このようにイメージしてみてください。
喜びの表現も自分の思っていた以上のものが相手から送られてきたと思えば、驚くという動作が要るので、ここでも息が有効です。
ではどのように息を吸うのか……?
息を吸いながらゆっくり口角を上げて笑顔になる
これだけで良いのです。
イメージは、今自分のいる空間の空気を全部吸い込むくらいの気持ちで吸うとより効果的です(笑)
そうするとどうなると思いますか?
目が生き生き輝くようになるでしょう。
目が死んでるよってよく人から言われている人に是非やっていただきたいワークですね(笑)
目がキラキラ輝くと高エネルギーを沢山放出するので、陽のエネルギーの人が増えます。
こういうのは伝染するのですね。
これはいわば、
自分の感情が周りの物理空間や情報空間にまで作用するのです
これを知れば、明日から暗い顔はもう出来ませんよ(笑)
暗い顔をすれば低エネルギーを放出することになって、暗い顔の人ばかりが集まって、その人たちの中でコンフォートゾーンを作ってしまいますのでね。
コンフォートゾーンというのは、居心地の良い空間という意味。
つまり暗い顔の人は暗い顔の人同士でいるのが一番落ち着いたりするのかもしれませんね。
逆に暗い中に、明るい人が入ってきたら排斥行動をとることもあるでしょう(笑)
誰も、エネルギーの違う人と一緒にいたくないのです。
問題はあなたが高エネルギーにいたいか低エネルギーにいたいかというだけの問題です。
このことを理解したら、自分の言葉に気をつけないといけないことがよく分かります。
たまには愚痴を言った方が良いと言われる方もいらっしゃますが、それは必ずしも自分にとって良いものかどうかは見極める必要がありそうですね。
少なくとも演技者は高低のエネルギーを使い分けられる人でなければ、色んな人を表現することは出来ません。
でも面白いことに、低エネルギーは誰でも簡単に出せるんですね。
高エネルギーは少し訓練がいるのです
いつもニコニコしてるって結構大変ですよね。
だから無理してるってなるのですが、それはまだ甘いのです。
反復練習すればいつの間にかニコニコがデフォルトになるのです(笑)
もし高エネルギーを放ちたいとお考えであれば、このニコニコ修業はかなり有効です。
その効果は一目瞭然です。周りにニコニコが増えれば、高エネルギーを放っているという証拠です。
身体動作から感情を誘発する。大事だということがこれでお分かりになりましたよね。では、絶対に実践してみてくださいね(笑)

さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。さらに、自身のBlog『さいとうつかさの演技力会話力Blog』は1000万PVを超え、多くの方々から支持を得ております。