今回の話は、俳優養成講座でお教えしている有料級の内容です(笑)
台本を読むときに、押さえておきたい事柄が何点かあります。
今回はその話をさせていただきます。
まず最初にこれが一番最も基本的なことなのですが、台本には必ず劇的要素があるということです。
演劇は人間の葛藤を描くものが殆どで、分かりやすく言えば一人の主人公がある出来事を境に急激に変化するという風に考えてもらえれば良いかと思います。
この急激に変化するところを「劇的」と言います。
世の中に劇薬というものもありますが、そういうイメージなのですね。
ですので、台本というのは必ず劇的なものをがあるという前提で、お読みいただけると明確にどういう演技プランを立てれば良いのかが見えてくるでしょう。
このことを何故一番最初にお話しさせていただいたか……?
実はこれが結構重要でして、この概念で台本を読まないと、普通には有り得ない話なのにもかかわらず、普通に有り得てしまうようなイメージで演技プランを作るようになってしまう恐れがでてくるからです
演劇台本(戯曲)は先ほども申し上げた通り、普通には起きないことが起きるといった劇的な要素があります。
小学生のような日記のようなストーリーはまずありません。
普通なら、こう話の展開が進むのに、ある出来事で一変してしまうということが演劇台本では「普通」なことなのですね。
ですが、この概念が抜けてしまうと、ただ単に「この話はこういう話なのだ」というさっくりとしたイメージしか残らず、その作品の展開に何の疑問も持たずに、ただ進めてしまうということになりかねないのです。
例えば、悲劇なら最後は悲しい結末になりますよね。
そういう悲劇の場合は、劇的な要素が起こるまでの最初の方は絶対に「幸せな」或いは「明るい」様相を作るという意識が必要になるのです。
喜劇の場合は逆に、ハッピーエンドになるわけですので、最初はアンハッピーな展開で作るんだという意識で台本を読まなければなりません。
このように読んでいくと、ある劇的な場所で、何かに気がつくかと思います。それは何かと言いますと、
最初の展開から何があっても絶対に流れを変えようとしないと考えた方が面白い
ということ。
ここに気がつくかと思います。
これはどういうことかと言いますと、
例えば、悲劇ですと、先ほど申し上げたように、最初は、絶対に「幸せに」或いは「明るい」ように作ります。
そして、劇的な部分に差し掛かった時、不幸になる展開になっていくのですが、その作品の意図とは逆らって、悪い方向に絶対に行かないように抵抗するかのように演技プランを作っていくのです。
そうすると、どうしても逃れられない「運命」のようなものがより明確に表現されるようになります。
運命には自分にはどうすることもできない「天命」と、自分の在り方で変えられる「宿命」というのがあります。
「例え悲劇であっても絶対に悪い方向へ行くものか!」という気概で演技に臨むことが出来ればできるほど、天命のような『避けられない運命』のような表現が作れるようになるのです。
こういう視点で台本を読む事がとっても大切なのです。
面白いでしょ。
台本というのは一度読んでしまうと、結末が分かった状態で、稽古練習をすることになります。
結末が分かった状態で稽古を重ねていくと、スコトーマ(盲点)がたくさん出来てきて、普通に考えればおかしなことでも、おかしく思わなくなる場合も相当多く出てくるようになるのです。
そうならないためにも、前回の初見の感覚を大切にすること。そして今回の台本の特性を良き理解した上で、演技プランを作らなければならないということなのです。
これを踏まえなければ、台本をただ単にセリフの感情を説明するだけの表現にしかならないのです。
「セリフではこう言っているが本当のところはこう思っているのではなかろうか?」
……このような登場人物を垣間見るような表現を作るためには、必ず、今回お話しさせていただいたことが必要になるのです。
これは読解力とか、行間を読むとかそういうレベルの話ではありません。
俳優の台本を読む技術なのです。
ここを間違えないようにしていただければと思います。
最後に、劇的な話の展開にさせるために具体的にどのように台本を読めば良いのかというお話をさせていただきます。
先ほども言いました演劇台本は「劇的な要素を作ること」に意識してみてください。
そうすれば、登場人物の置かれている状況が急激に変化させるアイデア、つまりそれを表現する演技プランをたくさん見つけることが出来るようになります。
この演技についての答えは、台本には当然ありません。
自分の心の中にあるので、自分の中で見つける作業をします。
ただ、劇的な要素は普通に読んでもなかなか見つけられないものです。
そこで、このことを是非お試し頂きたいのです。
それは、
台本は逆さから読む
ということ。
これを是非実践してみてください。
これはどういうことか……。
それは、台本の結末には登場人物がどうなったかという結果が書かれているからです。
そうすると、その結果に至るまでの原因というものが見えてくるのです。
つまり、「どうしてそういうことになってしまったのか」という問題提起が出来るようになると、キーになるセリフや動作が、いとも簡単に見つけられるようになるのです。
このキーになるセリフや動作をどのように表現するのかということが、お芝居を作る上で最も重要で、最も面白い謂わば見せ所になるわけです。
これは、順を追って台本を読んでいるとそのポイントはなかなか見つけられませんが、後ろの章から読んでいくとそのポイントは必ず前の章でしっかりと見えるようになっています。
まるで、どのように演技をして見せ場を作るかというヒントが浮かんでくるかのようなのです。
この体験をしますと台本を読むのが楽しくなってきますよ。
最後の章から読んで、前の章へ、前の章へ。結末からその原因を遡って見ること。
そうすると、明確に因縁果が見えてくる。
このように読んでいくことで、少しずつ少しずつ、台本を読むテクニックを身に着けていくのです。
台本を読むテクニックというのは、自分の心の中にあるものを形にするということです。
そうすれば、自分がどういう芝居をしたいのかが見えてきます。
そういう風にして自分の自分にしかできない演技を確立するのです。
そういう意味で台本を読むということは俳優にとって死活問題とも言えるでしょう。
ですが、本当のところは、こういう台本を読むテクニックが身につくと、これほど俳優の楽しみはないなとも思えるような、そんな素敵なことでもあるのですね。
人の表現にはそれぞれ価値があります。
ですが、その表現をどのように魅せるか……。ここに俳優のこだわりがあれば、今よりも素晴らしい環境に誘ってくれることと思います。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。