写真撮影:soichiro kishimoto さん

私の場合ですが、演劇の練習と稽古では実は全然違ったお教え方をしています。

簡単に言いますと、練習では、違う人になっても良いので自由な発想で取り組むことを提案し、稽古では、役の人物を介して自分を表現するといった自分を表現することを求めます。

ただ、役の人物を介してというのは、役の人物の心情の表れを自分の身体で表現することになるのですが、自分の身体で表現するためには、色々な経験は必要で、今までしたことがないような経験を表現しようとする場合はどうしても、実際にそれを経験した人を模倣し、そこから自分の感覚にまで落とし込むことが必要なのです。

ですので、まずは、経験した人の真似をすることは非常に大切なのです。これは言ってみれば、違う人になろうとする行為ですので、自分を表現している訳ではありませんよね。モデルになる人を徹底的にコピーして自分の感覚にまで落とし込めるようになれば、その時初めて自分のものとなり、それは自分を表現していることになります。ですので段階的に言えば、練習では、違う人をモデルにしてそれをコピーする。何回も模倣して自分の感覚にまで落とし込む。そうするとその動作が自分のオリジナリティとなり、自分を表現しているということに繋げていくということですね。

そのようにして演技表現をお教えしております。

練習では私が実践して、これを真似てみて下さいという練習を細かくご指導をしています。この時によく申し上げることが、

「私がやると伝わるけども、あなたがしても伝わらないことはあるのですよ」

ということ。これはどういうことかというと、

実際にそっくり真似てみても、自分がしっくりこなければ伝わる演技とはならない

つまり私が実演している演技は全て自分でしっくりきている演技なので意図通り伝わるのですが、それを教わった側の人はお教えした演技をそっくり模倣したとしても、それが自分にしっくりこないものでしたら、観ている人に意図通りには伝わらないということが起きてしまうのです。何故なら、しっくりこないということが無意識に身体のどこかで表れてしまっているのからなのですね。

それは、例えば『息』とか『目』とか『手の動きに若干のブレ』に表れたりするものなのです。俳優の動機からくる演技は、例えどんなに細かなことであっても、その作品の場に合わない違和感をお客様は感じてしまうのです。しかし、この違和感は本当に軽微なものなので、見過ごしがちになることが多いのです。

「今、おかしく感じたのは気のせいかな?」
「私の思い違いかな?」

というようにスルーしてしまうことが殆どなのです。

しかし俳優はこの感覚を実はとても大切にしなければならず、この軽微な感覚、つまり違和感を起こさせないでお客様を無意識的に物語に誘うことが求められるのです。俳優の動機ではなく、限りなく役の人物の動機を表していると、お客様はその空間に違和感を感じることがありません。どんどんどんどん物語に入っていただいて、

「気がついたらあっという間に終演だった‼」

というようなご感想を頂けるようになるのです。嬉しいですよね。ですので、自分の感覚を信じて、常に自分にしっくりくるような演技を追究したいものです。

では、どうすれば自分の演技表現にしっくりときやすくなるのでしょう?それは、

自らの演技は人の心を動かすだけではなく自分の心も動かすようなものであってほしい

ということです。自分の演技は見ている人だけではなく、自分も情動も働くようにさせることがとても大切なのです。これの一つが、身体動作を使って感情を誘発させるという方法です。人間の感情が湧き起こるメカニズムをしっかりと模倣して、それを反復させること。その反復をした時に感情が湧き起る感覚が芽生える。

その感覚を信じて出力すれば自分の心は動くようになる

のですね。このような「自分の心を動かす練習」をすることがとても重要なのです。人の心を動かす前に自分の心を動かしてみませんか?自分の心が動いていないのに、人の心を動かそうとすると嘘になりますよ。自分の表現がしっくりくることが、本当に本当に大切なことなのです。

自分の気持ちを置き去りにしないで‼

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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