身体全体を使って演技表現をするのは、思っている以上に難しい。

この写真はどのようなシーンに見えるでしょうか? おそらく、メガネの男の子が女の子に告白をするようなシーンに見える???とは思うのですが……(笑) 実際は友達の女の子が引っ越しするというお話で、男の子が最後に別れの挨拶をしようとしているシーンなのです。ただ、男の子はまともにお別れがなかなか言えないので、この後、この二人はケンカしたりそれで仲直りしたりとドタバタするような内容ですが(笑) 淡い初恋の話です。

上記の「男の子が女の子に告白をするようなシーン」に見えるのは、どうしてそのように見えるのかということですが、この時に目に飛び込んでくる情報が・・・

メガネの男の子が真剣な眼差しで女の子を見ているということと、女の子が肩をすくめていること

この二つの情報を繋ぎ合わせて「告白シーン」だなと想像できるかと思うのです。

この時に、男の子の方は顔がみえるので、心境は何となく想像しうることが出来ますが、女の子の方は顔が完全に後ろに向いているので、顔で表す表現は無理になります。そこで、後ろを向いてても感情を表現できるのが「背中」というわけになるのです。

思いっきり肩をすくめているのが分かるかと思います。自然に怖がっているようにも見えますが、実はこの体の動き、

全然自然ではないのです(笑)

本人曰く、

「肩がつるくらい」無理して肩を引き上げている

というのです。これはどういうことかというと、意識して肩をすくめてみると

怖がっている時に肩をすくめるのは、こんなに力が入っているんだ‼

ということに気がつくのですね。つまり、このような動作は無意識にしているもので、無理をしている動きをしているにもかかわらず、怖がるという感情でそこまでの動きをしているとは気がついていないということなのです。人間の普段の無意識の動作は実はもの凄く大きく動いていることが多いのですが、動いている本人は全く気がついていないので、

意識的に動くとオーバーな表現と感じてしまってどうしても演技になると小さくなってしまうのです

このように、自分の中にオーバーな表現だと感じるリミッターがあって、十分な表現が出来ていないということが結構あるのですね。これを解決させる魔法の言葉が・・・・・

気持ち悪いが丁度良い

というものです。先ほども少し申しましたが、身体動作の表現は自分が思っている以上に普段は動いているのですがその動きはほぼ無意識に反応している動作です。無意識に動かしているものだから、本人にとってはそんなに大きく動かしているという認識がないので、その感覚のずれを修正していくことが動作演技の習得には不可欠なのです。このことを踏まえると、演技というものは・・・

気持ちを入れるだけでは絶対に出来ない

ということがお分かりいただけると思います。自分の普段の身体がどういう風に動いているのか、そのメカニズムを十分理解した上で、その動きを反復練習させて、無意識下に落とし込むのです。要するに、普段の動きを演技バージョンの動きに修正して、再び無意識にインストールし直すといった感じでしょうか(笑)

何故、こんな面倒なことが必要なのかというと、

火事場の馬鹿力は土壇場だから発揮する

のであって、結末の見えている芝居の世界で生きる俳優は、絶対にそのような状況にはならないので自分自身を追い込むことは無理なのでそのような全力での馬鹿力はでないのです。ですから、信じられないくらいの力が発揮するのだということだけを認識して、あらかじめ大きく動くように演技表現として準備しておくことが必要なのです。

最後の方お話は少し難しいかも知れませんが、もし、このことを理解して演技表現ができていなければ、自分はしっかりと演技表現していると思っていても

やってるつもりの演技表現にとどまってしまう

のです。この「つもり芝居」が実は多いのです。どうして多いのかというと、先ほども申し上げましたが、「演技は気持ちを入れれば出来る」と考えている俳優が多いからかもしれません。

厳しいことを言うようですが、演技を扱う俳優は技術職ですので、気持ちを入れただけでは出来ません。ですので、まずその技術を知ることが本当は求められます。しかし、技術の理解のないままに舞台に上がられている俳優が多いように思います。

偉そうなことを申し上げて大変申し訳ございません。ただ、今の演劇をもっとより良くするのであれば、まず演技術の認識を広く知っていただけることが必要なのかと思っております。そうでなければ、演劇は・・・・・

芝居したい人がやりたいだけのもの

となってしまって、観たいものとはならないのだと思います。そのような思いから、私たちの講座やワークショップでお教えしている技術をこのブログで発信しております。大変おこがましいことは重々承知ですが、知識を広くお伝えすることはこれからの演劇の発展に絶対に必要だと感じておりますので、どこの馬の骨かも分からない一演劇人が偉そうに申し上げて甚だ恐縮ではございますが、何卒この意図を組んでいただければと願っております。

私も、まだまだ勉強中の身でございます。ですので、これを受けて色々なご意見はあるかと存じますが、そこは個の意見としてご覧くだされば、有難く思います。演劇の道をと思われてる有志の方にご覧いただけることを切に願っており、少しでもお役立ていただければ幸いです。素晴らしい俳優になられることを応援しております。

また普段でも、コミュニケーションの表現として生かしていただけば、とても有り難く思います。演劇をより身近に感じていただく活動が私の本懐であります。これからもそういう想いで発信させていただきます。

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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