場の空気を息で変えることが出来ると言えば、あなたはそれを信じますでしょうか?

例えば、張り詰めた緊張感のある空気にすることが出来るのか?

答えは、あなたがリーダーならできます。

その場の影響力のある人であるならば、場の空気は息で簡単に場の空気を変えることが出来るのです。

では具体的にどうすれば緊張感のある空気が作れるのか?

その答えは、

『息を止めること』

です。

例えばあなたがリーダーでグループの中で話をしているとします。

この時、あなた自身が話す前は息を吸いますが、話し終わる時には全部息を全部吐き出します。

この時です。グループの顔を見渡す時に息を止めてみると、

見渡されたグループのメンバーも息が止まる

この時に緊張感は走るのですね。

これは、お芝居の演技をする時によく使う手法なのですが、

舞台の上で話し手が話し終えて息を止め聞き手の様子を伺い、聞き手も息を止めてじっとしているというシーンがあるとします。この時、実は客席に座っているお客様も無意識に息を止めて、無意識に場の緊張感を作っているのです。この時、物音は一切聞こえず、「シーン」とした張り詰めた感じになるのですね。

次にどう出るのかをみんなが様子を伺っているかんじですね。

実際にこの通りしてもらえればもっとお分かりになると思うのですが、息を止めるという動作は、

緊張感を生む

物事を考えている

何かに集中している

という時に使えるのです。

でもこの表現、ちょっと面白いと思いませんか?

これらの表現は、全部台詞のない時にする表現なのです。

演劇をしている人は、演技は台詞があるところを重点的にされる方が多いのですが、

台詞でその場の空気を変えることは、実はリスクが大きいのです。

例えば、大きな声を出して相手を黙らせるシーンがあるとします。

この時に「黙りなさい!」と怒鳴ってやめさせるためには、大抵の人が声量を大きくして怒鳴る芝居をするのですが、それですと用意された息で話していると見られて、『大きな声を出そうとする計算』が無意識に見えてしまうのです。

こうなると、

『ああ、ここはビシッと止めたかったんだろうな…』

と逆にお客様に冷静に判断されることに繋がりかねないのです。

そうではなく、相手の言葉を黙らせる時に、重要なのは、寧ろ、

止めようと思った時にどれだけ思い切って息を吸うのか

ということの方が重要なのです。

この分かりやすい例を言いますと、

例えば、誰かと会話しているとしますね。相手が話している時に、こちら側が息をすると、

相手は言葉を止める可能性があるのです。

相手からすると、自分が話している時に、息を吸われたら、

「何か言いたいのかな?」

と話すのをやめてこちら側に「どうぞ何かありましたら、言ってください」というように話す番を譲ってくれたり、

「何かおかしなことがあったかな?」

と自分の話に予期しないリアクションをされたと思ったりするのです。

こういう経験は誰もがされていると思います。

つまり、自分が話している時に、相手が息を吸えば、

自分の話を止めるくらいに気になってしまうのですね。

だから例えば、口論になっている時に、自分が喋っている時に相手が息を吸って応戦しようとすると、

その息を吸った情報が目に飛び込んできて余計に自分の話を邪魔されたと無意識に感じ、より感情的になりやすくなるのです。

「私の話を聞くつもりないでしょ!」という感じに見えるのですね。

つまり、話の途中に思いっきり息を吸われると、それだけ色んな妨害要素があって、結果黙ってしまうという原理が働いているというのが自然なのです。ただ、いろんなケースがありますので、一概にはいませんが、それでも相手を黙らせる時は、相手を驚かせることはかなり効果的で、大きく怒鳴って驚かせるのではなく、思いっきり息を吸って、驚かせてから大声で怒鳴り、その時に全部吸った息を吐き切る。そして息を止めて様子を伺うという風なことをすると、より効果的に黙る確率が上がるというわけなのです。

人間ってビックリすると、急に無防備な状態になって、その後の現象を素直に受け入れたりするのですね。

海外のデモとかで機動隊が銃で空に向かって警告射撃をするのもその狙いがあるのだと思います。「パン!」と乾いた音が鳴り響くと、威勢のある人でも急いで逃げていくのはそういうことなのかもしれませんね。

つまり、人間の行動する原理をしっかりと守らなければ、観ている人は無意識にそれが嘘だと見破ってしまうのです。

見破るというのも変な言い方ですが、こういう感じですかね。

「なんかあのシーン違和感があったな…」というような感じに捉えられてしまうのです。

こうなると、お客様が作品の中に入っていけてないことになるので、演技としてはやはりよろしくないのですね。

このことをよく理解した上で、演技をしている人は………実は少なかったりします。

是非改善すべき点なのですが、演劇に対する意識の問題が壁になっているのも現状にあるのかなと思います。

この背景には、

「演劇では食べていけないから…」

という意識が働いているからかもしれませんね。

しかし、お金をいただく以上は、お金を貰える以上のクオリティを求めたいですよね。

ですので、こんなところで意識の問題はあまり語りたくはありません。

ただ、向上心を持って、まずは演劇の知識を先人から学んでいただければと切に願います。

最後に心に響く話し方を。

自分の言葉で説明しようとしてはいけません。棒読みでも良いです。

限りなく棒読みで良いのです。余計な色を付けるから役者の動機が見えてしまうのです。

話し方(抑揚、強弱、高低)にこだわればこだわるほど役者の動機が現れます。

これが演劇アレルギーの原因の一つです。

演者ご本人は気持ちいいかも知れませんが、これではカラオケで歌っている人と変わりありません。

それよりも、観ているお客様に嘘偽りがないと思えるなら、

棒読みで勝負すること

が必要なのです。

重要なのは、

その言葉がお客様の心にスッと入っていける状態に持っていけたかどうかだけなのです。

小手先の演技ではなく、心から動く演技でなければ、お客様の心の窓は開きません。

そのためには、演技の奥に深みを感じさせるものが必要で、

「相当込められているな」という作り手の丁寧さが伝わらないといけません。

その丁寧さが一番伝わりやすいのが、

『場の空気』なのです。

その場の空気は、俳優の息で表現できるのです。

そうして人をその気にさせるムードを作るのです。

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

LINEで送る
Pocket
このエントリーを Google ブックマーク に追加
LinkedIn にシェア

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です