伝わる演技とは

伝わる演技とは

『観客がどのようにお感じになられるかまで責任を持つ』演技

ということです。つまり、自分が演技をすると「このように感じていただける」というところで勝負するのです。ここを自分の演じたことで「このように思ってもらいたい」という演技ではいけないのです。それは『伝える演技』というのです。勿論、感じ方は人それぞれだからご覧なられてどのように思われるかってところまでは分からないと言われる方もおられると思いますが、それでは、演技の精度が上がらず、演技を磨くところにまで行くことが出来ません。それに、どうお感じになられるかは分からないというスタンスでは、「面白いから是非観に来てください!」とは言い難いですよね(笑) ですから、お客様はこういう表現をすればこう見て下さるという明確な意図でもって演技を作ると「是非ご覧ください!」と自信をもって言えることが出来るわけでもあるのです。

しかし、この明確な意図でもって『伝わる演技』を練習するには、前提として「どのようにすれば伝わるのか?」という原理を理解しておかなければいけません。その原理とはどういうものかということですが、簡単に言いますと、

観客が苦労して手に入れた情報にすると結果的に伝わりやすくなる

ということです。少し分かり難いですかね(笑) しかしこれが原理なのです。

例えば、高額商品を買いにお求めのお店に入るとします。すると、いきなり『この商品は良いですから是非買ってください‼』という売る気満々の店員さんが来られたら、おそらく皆さんドン引きされて聞く耳持たないとなるのではないでしょうか(笑) 一方、高額商品を買う時に予め、商品を調べ店に行き、実際に商品を見て、それから店員さんに逆に聞くようなことがあればどうでしょう。店員さんの言うことは当たり前ですけど、しっかりと聞けますよね。

つまり、お客様の情報が欲しいという時に情報を出すことが必要で、これが原理原則なのです。

因みに、一番最初の話で言いますと、前者の「思いっきり売る気満々の店員さん」は「伝える演技」をしている人と一緒なのです(笑)

このように、お客様の需要があって、それを供給するということを演技の上でもするのですね。

原理はこれでご理解いただけたかと思います。では次に実際にどうやってそのようなニーズに応えることをするのかということですが、それは、

観客の欲しいという情報を作り、その情報を元に答えをお客様ご自身に導いていただく

ということです。少し説明が難しくなりましたが、具体的に言いますと、お芝居が始まって「こうだ!」というような表現にせず、「何をしているんだろう?」というような表現に留めるということなのです。これは、普段の話でもそうですが、順を追っての説明的な話をされると途中で言わんとすることが分かった場合、最後まで話が聞けないという状態と同じで、演じ手の演技の中にお客様が想像できる余地がなければ、最後までしっかりと話が聞けないのです。

つまり、お客様には演技を見ていただいて分かってもらうのではなく、想像していただいて答えを見つけてもらうことがとっても重要なのです。

これを私たちは、「想像していただける演技」と言っております。

この『想像していただける演技』こそが『伝わる演技』の正体なのです‼

これは時に『垣間見せる演技』とも言います。このように言いますと何となくお分かりになられると思いますが、これはお客様が苦労をして情報を得るということに繋がっているのですね。開けっ広げで見るよりも、隙間から覗き見た方が、情報量が少なくより見たいとなるわけです。

このことが分かって初めて『伝わる演技』というのが出来るようになります。

では、実際にどういうものが『想像していただける演技』になるのかというご説明を簡単にします。それは・・・

「台詞」表現よりも「動作」表現の方が伝わりやすい

ということです。そしてこのことが今回の一番のポイントなのです。覚えておいて下さいね。

百聞は一見に如かず

です。

台詞での表現では伝わらないと言っているわけではありません。動作の方が圧倒的に伝わりやすいということなのです。

このことについての説明はこちら(簡単演劇講座⑥アマの世界では分からない演技)でしておりますので、今回は省きます。ただ、これは間違いありません。ですので、『伝わる演技』をマスターしたいのであれば、

『台詞をどう話すか?』よりも『どう動こうか?』という演技の練習をした方が圧倒的に良いのです。

極端な言い方をすれば、セリフは棒読みでも通じるということ。

いいえ、

台詞を棒読みで話すくらいの気持ちで勝負する方が実は重要なのです。

これはどうしてそのように言うかということですが、演劇は一人で作っている訳ではありません。たくさんの作り手が集まった総合芸術なのです。

そこで、頭に入れなければいけないのは、

セリフにはそれだけで力がある

ということ。

戯曲作家は作品に魂を入れています。そこに余計な装飾は不要なのです。それよりも一番最初に読んだ時に感動した感覚をそのままに出力した方が、相乗効果となって作者との一体化された作品に仕上がるのです。私たち演技者はその作品に傷をつけないようにそっとそっと磨いていかなければいけないのです。

それともう一つ重要なことがあります。

台詞よりも、動作の方が演技者にとっても観客にとっても感情が誘発されやすいという点です。

私たちは、無意識に色々なことを感じ取っています。そして、視覚に訴えるものは無意識に伝わるものが多いのです。

ですから、セリフを重点にした演技練習よりも動作を重点にした演技練習をしていただきたればと、このように思っております。

そして、動作の練習をしていくと分かってくることがあります。それは、演技していくうちに、自然に動くことが出来ることが増えるということなのです。

例えば、セリフの中で言い難い台詞があるとします。恐らく多くの方がそこで考えるのは、滑舌の練習をすればということを考えられるかもしれません。

しかし、考えてみれば、普段私たちが話している時に言葉を頻繁に嚙んでしまうことはありますでしょうか?

そんなことはありませんよね。そこには無理な話し方をしているからということが殆どなのです。もちろん滑舌の練習をしっかりして、演技に磨きをかけることも重要です。しかし、それよりももっと大切なことは、如何に自然に表現できるかということ。台詞を噛むということは、自然な流れになっていないからだと考える方が先なのです。

しかし、動作の練習をすればどうでしょう。ここが不思議なのですが、しっかりと考えられた動作をすれば、その動作から自然な感情が生まれて、自然に言葉を発することが可能になるのです。つまり、適切な動作をしていないからこそ、セリフが言い難かったり、噛んだりしてしまっているだけのです。そしてその動作は、本当は自分が一番よく分かっているのです。自分でおかしいなと思っているからこそ、セリフにそれが表れているに過ぎないのです。

このように、結局は台詞を話すことにおいても、まず動作が重要だということがお分かりいただけたかと思います。

私自身も外部で色々と舞台に携わっておりますが、セリフメインでお稽古されているところはやはり多いのです。俳優さんの意識も、セリフをきっちり話さないというような意識の方が圧倒的に多いのです。「それよりも動きをしっかりしないと」言われた方はおられません。つまり、セリフは間違ってしまうと明確にミスだと分かりますが、動きだとある程度、誤魔化しがきくという認識なのです。ただ、そのような意識では、本来は動きの方が重要なのですが、蔑ろになってしまっているということが言えるのですね。

~これから俳優を目指される方へ~

このことをしっかりと認識していただければと切に願います。幾分偉そうな説教染みたお話になったかもしれませんが、このことを是非知っていただければという一念で、僭越ながら書き記した次第でございます。また、今までお芝居をされておられる方で、これをお読みになると、何を偉そうに書いているのだというお気持ちになられることもあるかもしれません。そのことで気分を害されてしまうようなことがもしあれば、それは私にとってもとても残念なことで、申し訳なく思います。ただ、誰かを傷つけようとする意図は毛頭ないことはお読みいただければ、お分かりいただけると信じて、発信させていただきました。

未来の希望ある俳優の方々に読んでいただけることを願っております。

最後までご覧いただきまして、誠に有難うございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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