この答えは実に簡単です。
演劇は生の人間を限りなく冷静に見ることが出来るから
です。
静観して入力だけに留まるので、観察できる環境となるのです。生の人間を観察するということが人間関係の感覚を養う最大の方法で、演劇はこれ以上にないコンテンツだと言えます。
これに、臨場感も出てきます。俳優の言葉遣いだけではなく、その息づかいも分かるわけですね。ただ…それでは、
映画やテレビドラマでも良いんじゃないですか?
と思われる方も多いかも知れません。
しかし、映画やテレビドラマにはないものが実はあるのです。それは…
自分自身で自由に視点を変えること
映画やテレビは、当たり前ですが、ここを見て下さいというところしか見せていません。
例えば時代劇をしているのに後ろにビルが建っていたらおかしいですものね(笑)
だから、ビルが見えないアングルにカメラを構えます(笑)
映像ドラマは画面の枠の中には極めて緻密な方法で見せているのだと思います。
演劇は目の前に広がる作品空間を自由にいつでも観ることが出来ます。
つまり大抵は話している人を見るものですが、自由なタイミングで聞いている人を見ることも出来るのです。
映像では、ここは話す人を見てもらう。ここは聞いている人を見てもらうとしっかり場面が分けられているので、自分の感覚で見ているとはなかなかならないのですね。
つまり、作り手側の意図から視点が限られている状態なのです。
しかし演劇は、作り手側の意図から視点を限らせるということはできません。
つまり見たいところに目を向けられるのが演劇の最大のメリットなのです。
しかし、これは少し面白い話なのですが、目を向けたところが作り手側の意図とは違うところばかりに行くと
全く話が分からない
ということになるのです(笑)
だから、演劇はお金を払って観て下さっている訳ではありますが、アトラクションと同じ、参加型で見なければなかなか楽しむのが難しかったりするのです。
そう言う意味で演劇を初めてご覧になるという方は、こういうところが少し難しかったりするので、作り手はここを踏まえてお芝居を作ることが重要なのです。
つまり、お客様に参加していただいて、ある程度の方向性をもってもらうことが重要なのですね。
方向を示したうえでご自由にご覧いただくことが演劇では求められるのです。
ここでお客様を参加型になっていただくテクニックを一つご紹介すると、
お客様に考えてもらう見せ方
という方法があるのです。
簡単に言うと、分かりやすい問題は直ぐに解けますが、少し分かり難くすれば、お客様は考えることに自動的に切り替わります。こうすることでお客様を無意識に参加型で見てもらうようにエスコートするのです。
これをすれば、話の展開中、お客様はずっと色んなことに想いを巡らせているので、時間の流れを早く感じるとっても集中した時間になるのですね。こうして自分から参加して獲得された情報は、とても大切なものとなり、より役の人物に親近感を持っていただけるようになるのです。
苦労して手に入れたものほど味わい深い
のです。
そしてここからが重要なお話ですが、考えれば考えるほど、次々に目の前に飛び込んでくる情報が重要になってくるのですね。これらの情報は冷静に考えて判断するのではなく、ほぼ感覚のみで判断する場合が殆どなのです。
まぁ少し難しい変なお話ですね(笑)
さて話を戻しますと、自分の感覚を研ぎ澄ませるためには、どうすれば良いのかということですが、共感力を増すことが感覚を研ぎ澄ますことに繋がると考えております。
共感力は殆どの人がこういう感覚であろうということと自分の感覚が近ければ強くなりますね。
自分の感覚が周りから共感を得られることほど、幸せなことはありません。
例えば、お芝居が終わったカーテンコールの時に頂く拍手。これは明らかに共感を得て下さったお陰なのですね。
仮に拍手を得られなかった場合、意図的に素晴らしい物を作ったと思う自分の感覚と周りの感覚がずれているということですから、それはとっても辛いことですよね(笑)
このように、人は一人では生きられないだけではなく、
共感を得ることで幸せを感じているのです。
よく感覚は人それぞれ違うということを言われますが、そう思われることも勿論自然な考え方ではありますが、
周りの人と同じ感覚になり共感を得ることで調和を図ることを知っている人は最高に幸せな人だと言えるでしょう
感覚を研ぎ澄ますこととは当にそういうことなのです。
良い作品が必ずしも世の中のニーズではありません。共感を得るものを届けられる作品こそが真のニーズと言えるのではないでしょうか。
多くの方に受け入れられるものは調和を図ることが出来ますが、周りから受け入れられないものでは調和を図ることはなかなか難しいことだと思います。
これは自分自身を受け入れているかどうかでも同じことが言えると思います。
自分を受け入れる。つまり、短所を個性と考え自信をつけることが私たちの修業です。今の自分をありのまま受け入れて、この自分でどう勝負するかで向き合うと調和が図れますが、足りないところに目を向けている自信のない人では世の中との調和を図ることはなかなか出来ません。
自信のある人こそが調和を図る。そして調和を図ることが出来るから自分の存在を感じることが出来る。
あなたがいなくてはと言われる世の中を作るから、人生は面白くなるのですね。
あなた自身が調和を図るためには常に世の中に必要な人であるということを忘れてはいけないのです。
こうあるべき姿のあなたでは調和は図れません。こうなりたい姿のあなたでしか調和は図れないのです。
心の中に「こうあるべき」があれば、それは自信のなさの表われで、心の中に「こうなりたい」は自信の表われだということ
演劇は常に自分がこうなりたいという理想を追い求めて作っています。だから演劇をすると自信が湧くのです。
演劇は観る側も、演じる側も人生を楽しく生きられるコンテンツだということがお分かりいただければ幸いです。
最後までご覧くださいまして、ありがとうございました。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。