今から約30年ほど前、私が演劇を始めたてころの話です。当時所属していた劇団のお師匠さんからこういうことを言われました。

知らないのは恥だと思え

というお言葉。歴史モノをしてたお芝居で、余りに無知だった私に仰られた言葉。

調べてくるのが当たり前じゃ‼

そう強く叱咤されたのは今でもよく覚えている。いつも、

俳優としての意識が低すぎる‼お前は芝居を舐めとる‼

というような内容で、稽古のダメ出し以前のダメ出しをされていました(笑)

言われなくても、そうするのが普通とお教えいただいてからは、台本を頂くたびに、本屋や図書館へ行って調べていました。今のように、ググったら出てくるという便利な世の中ではありませんでした。と言って、本を買えるほどの裕福さもなかった(笑)

ですので、いつも本屋では立ち読み、図書館でノートに取りながら勉強させていただきました。学生の頃なんて、ノートをつけたこともなかったのに……(笑)

ジャンルも様々です。演劇論や演技書については、当時、贔屓にしてくださった評論家の先生や大学の先生に古い書物を頂いたりして学び、戯曲はじっくりと読める図書館。歴史書やその他、簡単な調べ物と最新の戯曲は本屋と使い分けていました。心理学の本はあまりに難しかったので、とても高価でしたが購入して家に帰って辞書で調べながら読んだりもしました。

役の人物になるにはというその一心で、毎日研究してましたが暗中模索で、一向に答えは出ませんでした。

しかし、ある日のこと。

稽古をしていた時に、お師匠さんに褒められたことがありました。直接的な感じではなかったのですが、こんな感じで……(笑)

共演者の一人に、

違う‼ さいとうみたいにやらんかい‼ お前はその時代のことが全く分かってない‼

とダメ出しされたんです。その方には気の毒でしたが、私にとっては嬉しかったな~(笑)

私のやり方で良かったんだ…と思えた瞬間でした。私はその時こう思ったんです。暗中模索だと思っていたけど、今までの勉強が少しでも身についているんだと。歩みはゆっくりだったけど、少しずつ前進しているのが不意の出来事で知ることが出来たのです。それからでした。色々と前もって準備して稽古に臨むのが楽しくなったのは。

今までは、

芝居をやらされていた

のですが、その日から、

芝居をするんだ

に変わったのです。ちょっとした切欠で、気づかされたのです。

人間って手を抜くと面白くないようになってるんだな~

ということを。手を抜いている訳ではないのですが、何から手を付けて良いかも分からず、誰にもその方法を聞かずで、結局行動に移せなかった今までは本気になれていなかったのですね。それを私のお師匠さんが、意識が低すぎると指摘していた訳です。

芝居が楽しめていないのは自分の俳優に対しての意識が低すぎたのが原因

だったのです。色々と演技の探求をしていくうちに

俳優って実はすごいことをしている人なんだな

と知ることが出来るようになったのです。それからは、私もそういう人に近づきたいと思う一心で励みました。準備してきたものを出すようになってくると、演出のダメ出しも変わってきます。いやもう、ダメ出しではないのです。

「それをするんであれば、こうした方が良い」という

これは何が言いたいのかというと、意識の低い人の演技はダメ出しになっても、

意識の高い人の演技はダメ出しではなくなる

ということなのです。つまり、意識が低いとダメ出しを受けやすくなっているのです。ただ、私自身、ダメ出しはあまり推奨はしません(笑)

私のお教えしている教室や団体では『褒め出し』を推奨してます(笑)

ですが、これは褒めて相手を喜ばせるといった意味だけではなく、人の良い部分の芝居を見る練習をしましょうという意味合いなのですね。人間は悪い方へ目が行くようになっています。だから巷では、ダメ出しが多いのです。

やれ政治がどうだとか、会社がどうだとか、家がどうだとか…(笑)

そうではなくて、色んな良い部分を見つけて、褒める習慣をつければ、自分の良い部分もたくさん見つけられるようになる。

つまり、

このために『褒め出し推奨』をしている訳です。ですので、表現者の場合はダメ出しを出来るだけ受けないようにする工夫も求められます。悪いことがあるにもかかわらず、それを指摘しないのも、それはそれで問題です(笑) 

表現者には、前もって準備が出来る俳優としての意識はやはり必要だと感じております。じっくりと策を練って考えてきたものは、見ていて分かるものです。プランがなく、分からないから適当にやろうというもの分かります。もし、適当な考えで稽古に取り組んでいたら演出や他の共演者はどう思うと思いますか?当然、良い風には思いません。だから当然ダメ出しが入るのです。このようなダメ出しを受けると、自分が気分を害するだけの問題だけではなく、演出や見てくれている他の共演者に対しても、悪影響を与えているのです。

もし、俳優としての意識が高ければ、このことは重々承知の訳ですから、分からないだけでは済まされません。稽古までに、しっかり調べて自主練して形に持ってくることをしなければ、稽古も楽しくならないのも分かっています。自分が配役された以上は、誰もが責任を持ってやられるとは思いますが、その責任だけを背負うような考えになってしまっているので、当然それではしんどくなるだけなのも分かってます。

要は、つまらなくさせているのは自分だと諦めて、役に対しての時間を割くことが必要なのです。簡単に出来ると思っていなくても、行動がそうなっているということです。だから、自主練習は必ず要ります。練習は嘘をつかない!!

いや、

練習は嘘をつかないと言いますが、嘘をつく練習はあります(笑)

嘘をつかない練習は、自分でこうだと思ってやってきたものがあるかどうかです。

嫌々やっている練習は、簡単に嘘をつきますよ(笑)

それならばやらない方がましです。他人からやらされるようでは甘い。だから、高い意識を持てというのです。これが、稽古を楽しくする唯一の方法なのです。因みに、今の私は結構歴史好きにもなりましたし、心理学も大好きになりました。

最初は辛い思いもしましたが、この練習や勉強の辛さが、やってて良かったという実感をもたらし、やりたい、知りたいに変わることを知りました。

心に刃物を押し当てる「忍」という言葉。この言葉の深さを感じます。

好きだからではかえっていけない境地

自分のレベルが上がっていけば自然と楽しくなる。自分のレベルが変わらないから面白くないというだけのことです。

最後までご覧くださいましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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