演技のスキルを上げるために大切なことをお話しします。
それが今回の表題にも書いてあります『息の使い方』。
これ、滅茶苦茶重要です‼
しかもこの話は、出来るだけ早くに知っておいた方がお得です(笑)
それくらい、演技を探究するするにおいても重要な鍵になるものなのです。
私たちは、普段息をしている時、意識して息を吸ったり吐いたりはしていません。
深呼吸しようとかそういう時くらいしかないですよね。
実はこの息が感情のトリガーになっていることはあまり知られていないように思います。
でもそう言われてみればということはいくつかあると思います。
例えば、景色の良い山の頂上で思いっきり深呼吸をしたらどうなると思いますか?
想像だけでも、晴れ晴れとした気分の良い状態になりますよね。
新鮮な空気を体に取り入れることによって、清々しい感情が湧き起っているわけです。
また、緊張している時、息は浅くなります。酷い方ならば、息をしていない場合もあったりします。
そうすると、段々と苦しくなって、まともな考えができなくなったり、不安を引き起こしたり負の感情を出しやすくすることに繋がります。
ため息はどうでしょう。息のない中で、少ない息を吸い、大きく息を吐きだしてますよね。つまり、身体の中には新鮮な空気が入ったのではなく、不満といった負の感情が外に吐き出されたようになっています。
このように普段の生活だけを見ても、この息の重要性が見てとれます。
では、この息を意識的にしてコントロールして感情を変えることは出来ますか?とうことですが、この答えは、イエスです。
楽しい息をすれば、気分も自然と楽しくなります。重苦しい息をすれば、気分も自然と重苦しいものとなります。
ここで重要なのは、身体の動作をすることで自然とそういう感情にシフトするということです。
これ、凄くないですか。
これをマスターすると、
感情のコントロールが出来るようになる
という訳です。
これは、演技だけではなく、普段の生活にも使える技なのです。
しかし、これは飽くまでも技がいるのです。
普段私たちは、感覚をあまり大切にはしていません。どちらかというと自分の感覚は信じられないと思う方も多いのではないでしょうか。
例えば、物の長さを測る時、大体こんなものとして、感覚だけで測る人はいませんよね(笑)。物差しやスケールを使って図るのだと思います。
しかし、毎日のように同じ仕事をしている職人で、そこまで正確性を求めない場合であれば、大体の長さや重さは間違わないのと同じで、感情の湧き出し方も、訓練で容易になるのです。
これは自分を信じるという行為になるので、やがては寸分違わずの術になるのです。
息を使って感情を誘発させるのも、実は反復練習が必要なのです。
例えば、高い山の頂上に登った時の感情を思い浮かべて下さい。もし分からなければ、どこか高い所に登って、思いっきり深呼吸するのもいいかもしれません。(注意:頭がくらくらしない程度に)
そうすると、気分が良くなりますよね。
この時に、もし気分が良くならないのであれば、その感覚から自分がだいぶ離れているんだということ。
なので、出来れば何回も繰り返し、気分が良くなるまで続けて見ることです。思い込みでも構いません。こうすれば気分が晴れるという風に自分で言い聞かせて、取り組むと早くその感覚が分かるのかもしれません。
感覚を研ぎ澄ます練習はとてもデリケートで、個人によっても色々なアプローチが必要なので、こうすると良いよという答えはありません。
また、一度晴れ晴れした気分を呼吸から得られたとしても注意が必要で、晴れ晴れとした気分になりたいからと過度に期待すれば、得られなく事も普通にあります。
自分を中庸に置くことがとても大事で、楽しくても、どこか冷静な自分がいる。辛くても、どこか大丈夫と思える自分を作ることも必要なのです。
しかし、この自分を中庸に置く技術が、当にこのことであって、ちょっと気分が落ちているなと感じれば、気分を上げる息をする。その気分が良くなれば、その事だけに感謝することで、自分冷静に保つことがしやすいのです。
世の中には喜怒哀楽をアピールのために使う人もいます。こうして自分だけでなく周りの調和を図ることのできる人は、影響力のある人間に自然となるのです。
さて、最後に演技について何故息が重要かという話を具体的にします。
ことセリフに関してだけを言うと分かりやすいと思うので、分かりやすく例を申し上げます。
演技で重要なのは、セリフを話している時ではありません。セリフを聞いている時が実は一番重要なのです。
何故重要かということですが、感情というものは、自分が話している時よりも相手の話している時に動きやすいものだからです。
さらに言えば、相手の言葉で感情が動いている訳ではないということです。
相手の言葉に対して、自分がどう思うかによって感情が湧き起るのです
このことはとても重要ですから是非覚えておいてください。
自分がどう思うかというところが非常に大きなポイントです!
つまり、自分がどう思うかというところにフォーカスするとこうなります。
相手の話の一部分で、自分がその言葉に引っかかった。つまりちょっとした驚きがあるわけです。その驚きから、自分が率直に思うことが頭に浮かぶ。その頭に浮かんだものに対して、感情が湧き起ってくるということです。
流れで言うとこういう感じになるのです。
感情のメカニズムを言うと、まず、驚きがあり、その後、感情が誘発されるというわけです。
では、息と感情の繋がりの話はどこに行ったの?ということですが、こういうことです。
人は驚いた時、無意識に息を吸っている
つまり、驚いて、無意識に息を吸う。その息から感情が誘発されているという訳なのです。
昔、ドッキリ番組とかありましたよね。あれを思い返していただきたいのですが、思いっきり驚いて、仕掛け人に色んな感情をぶつける方がいらっしゃいますよね。
安心からくる喜びや、騙されたと思って怒る人もいます。
この時、被験者がドッキリの看板を見た瞬間、思わず息を吸ってしまってるんです。そして、その息を吸った後に、現状で自分がどう解釈したかによって感情の出方が変わるのです。
もう分かりましたよね。
相手のセリフを聞くことの重要性はこれで分かっていただけましたでしょうか。
ここを分からず、自分のセリフに重きを置いてしまうと、相手のセリフに応えられていないばかりか、独り善がりで表現しようとする意図的なものに見えてしまうということに繋がりかねないのです。
ですから、ここを理解していないと、なかなか俳優としては認めてもらえないのではないでしょうか。
相手のセリフで驚くところを見つけて、そこで息を吸う。台本ですから、感情の方向性も決まっている場合が殆どですね。
例えばその感情の方向性が怒っているのであれば、そこで息を吸って、どのように怒ることができるのかを自分でイメージして試行錯誤してみれば、今まで見えてこなかったものがたくさん見えてくるようになります。そして自分にしかできない表現に繋がっていくのです。
その後からの相手の聞き方のイメージであったり、身体の動き方であったりと、どこで聞いた方が効果的なのかとか、本当に色んなアイデアが次々と出てくるものです。
こういう演技が出来るようになってからが本当に面白いのですね。
しかし、この話も通り一辺倒ではありません。色んな作用が働けば、違ったアプローチが必要になることも当然あります。そういう実践のテクニックをもっと多くの若い方々に知って欲しいと願っております。
年に2,3回の公演では、中々そこまでの境地には辿り着けないので、場数を踏むことも勧めています。
このような活動が、いつか実ることを願って。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。