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台本は一番最初に見た時が実は一番大切なのです。

理由は簡単で、最初に台本を読んだ時と、その台本作品を観客が最初にご覧になった時の感覚がとても似ているからです。

台本を読んでいく内に、台本を読み進めていく内にこの話はどういう展開になっていくのだろうかと思う感覚があるとします。

それはその台本作品の上演をご覧になったお客様も同じように思うということです。これは当たり前のことを言っているように思いますが、演劇作品を作っていく上で、実は一番忘れてしまう部分でもあるのです。

最初に台本を読んだ感覚をしっかりと反映させて作品作りが意外に出来ていないということです。

どうしてこういうことが言えるのか…?

それは、

台本を何回も何回も読んでいく内にスコトーマが出来てしまう

からです。

スコトーマとは盲点ということです。

どういう盲点が出来てしまうのかというと最初に読んだ時感覚が段々と忘れ去られてしまって、新鮮な見方が出来なくなってしまうということなのです。

演劇作品というのは、簡単に言うと劇的な要素のある作品であります。

つまり普通の話ではないということです。

演劇作品では起きないことが起きてしまって登場人物たちの葛藤が起きてしまうというのが殆どなのですね。

ですが、台本を読み続けていく内に、展開が既に頭の中に入ってしまって、劇的な展開が用意されているのにもかかわらず、その展開を普通になるものと捉えるようになってしまって、劇的な作品作りにならないことが往々にしてあるのです。

台本を読んでいく内に盲点がいっぱい出てくると、次の展開が分かってしまっている解釈で作品作りをしてしまうようになるのです。

ですので、台本を初見で読み進めていく内にその都度その都度「自分はどう思ったか」という情報をたくさん覚えている方が、次の展開が読みにくい戦略が立てられるようになるというわけです。

「自分はこの時の話まではこう思ってた」というものがあれば、この台本作品の上演をご覧になられるお客様も「この時まではこのようにして思ってもらう」という戦略が立てられるのです。

また「この話の展開はここで段々と見えてきた」と初見で見えてきたならば「ここの見せ方はアクセントをつけるべきだけれど、説明し過ぎないようにお客様に想像の余地はしっかり残しておこう」などと、作品のキーとなる場所をしっかりと認識して演技プランを作ることも可能になるのです。

このように、初見の自分の感じたことをしっかりと覚えておくことがとてもとても重要になってくるのですね。

ですが、残念なことにこれは頭の中だけに留めているだけだと、いつの間にか情報が上書きされて、最初に読んだ感覚は見事に忘れ去られてしまうのです。

ですから、私は初見の時にノートを取るということをお薦めしています。

出来るだけ初見に読んだ感想を書きとめて、「最初に読んでいた時に私はこう思っていたんだ」というように、後で振り返ってみた時に、驚くほどの感覚を読み覚ましてくれることになるからです。

私は、若い時に台本を読む時、いつも一作品に1週間ほど時間をかけていた時もありました。

中には3週間ほどかかったものもあります。

ですがこの台本の読み方をするようになってから驚くほど俳優としての演技プランの確立が出来るようになり、今では俳優養成講座や演劇ワークショップでもそのノウハウをお教えしています。

最初は話の筋だけ分かれば良いやって読んでいると、その一回で実はもう既に新鮮さを失う場合があるんです。

ですから、最初に出来るだけ時間をかけて読み、読んだ時の自分の感覚を指針にして、演技プランの戦略を立てることをお薦めしている訳なのです。

人間の脳は、一度内容を知ってしまうと、その知ってしまった一方向でしか物事が見れなくなり、そこから見た視点からの死角が盲点となるわけです。

変な話ですが、次の展開が分かるような演技プランを作っている人が本当に多いのです。

ですからそういう意味でも、最初に読んだ自分の感覚を大切にして、台本作品に反映されることを願っております。

最後にこのことをお伝えさせてください。

演技の答えは台本にはありません。自分の心の中にあると心得て下さい。

台本の読み方4回シリーズの一回目は「初見が一番大事」よく覚えておいていただければと思います。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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