29,560 ビュー

写真撮影:soichiro kishimoto さん

私たちの演技は「伝える演技」ではなく、「伝わる演技」を目指しております。

これは、

私たち俳優は自分たちの表現でお客様がどのようにお感じになられるかまで責任を持つ

という考え方です。

「お客様一人一人捉え方が違うのだから、そんなところに責任を持てない。」

それではいけないのです。

しっかりと意図をもって、演技をして、物語を意図通りに誘うことが私たちの使命です。

そして、演技というのは、

お客様が意図通りに感じて下さる表現技術であり、

その表現技術を知らない人は意外に俳優の中でも多いのです。

理由は以前のブログでも記したことがありますが、

素晴らしい演技というのは、意識して見ないと見えないもので、

もし見えていたならばそれは演技とは言えないものなのです。

お客様に作品の中へ入っていただくためには、目の前で臨場感のある空間を提供しなければいけません。

その時に、演技していると思われた時点で、俳優として舞台に立っているという意識でお客様に観られてしまって、臨場感がなくなり、役の人物への感情移入が出来なくなるのです。

難しい言い方にどうしてもなってしまうのですが、このことが分かっていないと、いつまで経っても、素晴らしい舞台を作り上げることは出来ないでしょう。

勘違いしてはいけないのは、素晴らしい表現をするから、良い舞台になるのでなく、お客様と共に舞台を作り上げるから素晴らしい舞台になるのです。

劇場全体で育む作品

であるからこそ、心の浄化作用が働いて、感動の時間を共有できるようになるのです。

ですから、客席と舞台とが一つになるためには、お客様にも作品世界に入っていただくことが大前提であり、その作品に誘う俳優は、今まさに舞台で生きているという臨場感を持っていただくための演技を披露しなければいけないのです。

では、どうして、この臨場感(リアリティ)がいるのかというと、

私たちは想像する時に漠然としたものではなかなか集中して、その想像世界に入り込むことが出来ません。

しかし、想像する時に具体的なモノが想像できたならば、その一つ一つに思い入れが出来るようになり、自然とそこに情動が働くようになるのです。

この想像する時により具体的なモノというのが、臨場感のあるモノで、その一つ一つリアルに見えるモノで思いを馳せ情動が起こる「感情移入」が出来るのだと考えております。

臨場感のないものは具体性に欠けるので、その想像世界に入ることは難しい。ましてや、それが俳優の「私、演じてます!」という動機が現れていたら、想像世界に誘うことを邪魔する行為になることは容易に想像できるかと思います。

それだけ、細心の注意を払って思いを馳せてもらう臨場感を提供しないといけないのですね。

恋人とのデートと一緒ですね(笑)

デリカシーのない演技は絶対に避けましょう(笑)

さて、話を続けますと、

臨場感のある演技が、作品の話に誘う方法だと申し上げましたが、

ではどういう演技が臨場感のある演技だというのか…?

ここですよね。

今回はこれをご説明します。

この話は、演技者もそうなのですが、これから演出をされる方にも是非知っていただきたい内容です。

表現しない

俳優は演技をする時に、どうしても、表現しようとします。

まぁ、これは当たり前ですよね(笑)

ただここが難しいのです。

表現しようとすれば、そう思った時点で、

「俳優の動機が無意識に表れる」

ことになってしまうのです。

リアリティで言うと、普段、私たちは誰かに表現しようとして行動している訳ではありませんよね(笑)

ですから、舞台に立つ時は表現しようと思ってしまっては、当然その動機が無意識に表れてしまうのでよくありません。

飽くまでも、舞台で生きる役の人物の動機を表さないといけないのです。

この時にキーワードになるのが、

「表現しないこと」

なのです。

面白いでしょ(笑)

舞台に立って表現しないってどういうことなんだと思いますよね(笑)

これには、上記の理由があるがゆえに、そういう風に意識することが大切なのです。

ここから少し、テクニカルな話になります。

では、表現しないようにする演技とはどういうものかというと、

それが、無意識で行っている動作を出力するいうことなのです。

『表現』ではなく『出力』なのです。

つまりただ単に動作をするということです。

実は、伝わりやすい演技というのは、無意識に行っている動作がによるものが殆どなのです。

これはとってもお得情報ですよ(笑)

もう一度言います‼

無意識に行っている動作は見ている人に伝わりやすいのです。

では無意識に行っている動作とは具体的に言うと何かというと、

一番の代表例は、

『息』

です。

これは以前からブログをご覧いただいている方であれば、もうご存知かと思われます。

息は、意識して吸ったり吐いたりしていません。無意識で呼吸しています。

この無意識の動作を意識して動かすこと

をするのです。

息でどのような表現になって、どうしてその動作が伝わりやすいのかをご説明します。

まず、

人間は感情が動く時、『息』を吸います。

正確に言うと、感情が動く前に、驚くという動作が入るのですが、この驚くという動作が『息』を吸い込むという動作になるのです。

例えば、相手の人の言動にあなたが感情的になったとします。この際、相手の言動に感情が働くのではなく、相手の言動をあなたがどう感じたかによって感情が働くのですね。

つまり、あなたがどう感じたのかと受け止めた時に息を吸うのですが、この息を吸う動作が、実はとても相手にとって心が伝わる動作になっているのです。

しかし、ここで面白いのが、相手には伝わってはいるのですが、伝わっている相手も実はその息を吸う動作を見て無意識に感じ取っているのですね。

今度は相手側の視点で考えてみますね。

ですから、相手の中では、あなたに対して「なんとなくそう見える」「なんとなくそう感じる」という感覚が無意識に芽生えている状態なのです。

ただ、それは確実な情報ではないので、飽くまでも、相手自身がそう感じただけで、本当にあなたの感情が動いたかどうかは分からないのです。ですからそれを確かめるために、あなたの動向に意識を向けるようになるのです。

こうして、無意識に感じ取ることで、そうではないかという憶測が出てきてそれを確かめる動作に発展していくのですね。

これは相手自身から情報を取ろうとする行為になりますので、あなたを受け入れる態勢になっているのです。だから、あなたの言動は伝わりやすくなるのですね。

つまりお相手が、情報を受け入れ万全態勢の場合は、どんなボールを投げても受け取ってくれるので、この状態になれば、伝わりやすくなるということなのです。

少しややこしくなりましたが(笑)

お芝居の説明は自分と相手の説明を色んな方向で話をしないと成立しないので、なかなか、聞く方も大変だと思います(笑)

これで、無意識の動作を伝わりやすいということはお分かりいただけたと思うのですが、さらに例を出すと、

例えば、

飲み物を飲んでいる時に、相手の言葉で、その飲もうとしたコップの手が止まる

これも無意識の動作ですよね。この場合は無意識に飲もうとする意識から相手の話に意識が行ったということが容易に伝わりますよね。

歩いていたのが、急にふと立ち止まる。

これも、何かを思い出したのか、それとも忘れ物をしたのかというような、歩いていることから自分の考え事に意識が移ったということが伝わります。

このように、無意識の動作をたくさん取り入れれば伝わりやすく、よりお客様を物語に入っていただけるようになるのです。

ですから、演技の中ではとても重要なので、この動きをしっかりと意識して模倣して、何回も反復しましょう。

無意識の動作を意識化してその動きを練習する

こうすることで、伝わりやすい演技をたくさん習得できることでしょう。

そしてこの動きが習得できれば、

感情の切欠がきた時に、その動作を出力させるだけで良いのです。

その動きだけで十分に表現になっている

から、表現しようとしなくても良いのです。

こうすることによって、俳優の動機を消し込む作業がいるのですね。

演技は一筋縄ではいかないのですよ(笑)

これを知れば、演技がかなり奥の深いものだということがお分かりいただけたかと思います。

俳優の仕事はそれだけ難しいということが分かれば、これから舞台に立つ時に、

果たして自分は舞台に立ってお客様を魅了できるほどの実力があるのだろうかと自問してみて下さい。

演技の知識、技術はとても奥深いものです。

果てしない道です。

ですから、日々練習を。

やりたい芝居から魅せたい芝居へ。

毎日の積み重ねが演技の厚みとして必ず現れますから、

それを信じて自己研鑽されるあなたを応援します。

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

LINEで送る
Pocket
このエントリーを Google ブックマーク に追加
LinkedIn にシェア

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です