実は私たちは普段のコミュニケーションにおいて、相手の動機を無意識に感じ取っています。例えば、相手が何だか嫌味っぽいな~とあなたが感じた場合、
間違いなく相手は嫌味で言っています(笑)
勿論相手が天然さんの場合は、意図して言ってはいないかもしれませんが…(笑) 相手の話している事や言い方はとても丁寧であっても、何故か「いやだな~」と感じる。このようなご経験は皆さんあるかと思われます。でもそれが、何故そう感じるのかまでは分からない。
何だか分からないけど嫌な感じはした
これは何故そう感じるかというと、結論から言えば、相手の身体動作から嫌な感じが伝わっているのです。言い方をそのまま見よう見まねで真似して嫌味返しすると分かります(笑)
つまり、「こういう風に言うと嫌味だよね」ってことはおそらく皆様、お分かりになることでしょう。というように、言っている内容とは別の感情をいつも聞き手は感じ取っています。
ただ、コミュニケーションの場合は、自分の話すことにも意識しないといけません。ですから、ほぼ冷静に相手の動機を感じ取ることは難しいので、このあたりがあやふやになったりもします。
一方、舞台でのコミュニケーションでは、話し手と聞き手が完全に分かれています。つまり、話し手は舞台の演者で、聞き手は客席のお客様となるわけですね。これですと、かなり状況が変わりまして、聞き手のお客様は冷静に話し手の動機を感じることが出来るのですね。こうなると、
自分の思っていることは透けて見えている
と考えても良いでしょう(笑) 自分が『ちょっとでも、しまった‼️』と思っただけでも、
お客様が分からないと思ったら大間違い
しっかりと伝わってしまうのです。
重要ですからもう一度言います。
自分の思っていることは動機として現れる
だから、腹に思っていることは分からないと、舞台で思って立っていると全然いけてない演者になるのです。何故なら、演技とは裏腹な演者の動機ばかりが見えてしまって、作品の世界に入っていけなくなるからです。
俳優の仕事は、お客様に物語の世界へ誘うことが一番の仕事。ですから、演者の動機が伝わってしまえば「興ざめ」となるのです。しかし、お客様の中にはそこを汲み取って下さった上で良かったよという方もおられます。これはこれで「お客様を味方につけることが出来ている」訳ですから良いのですが、作品の世界に純粋に入っていただけていないのであれば、俳優の技術としてはまだまだだと考えることの方が良いでしょう。
このように、俳優の思っていることは伝わるので、演技は「表現しようとしないことが肝心だ」ということがお分かりいただけましたでしょうか。
さて、ここで少し難しいことを言いますが(笑) 表現しようとしないで演技すると考えてもダメなのです。
思わじと 思ふ心も思ひなり 思わざりせば 思わざるなり
昔の偉人の言葉
つまり、思わないようにしようと思ってることが現われてしまうのです(笑) このようにならないようにしっかりと演技の練習で、
こういう気持ちになればこういう動作から気持ちを誘発させる
というものを何回も練習して身体に覚え込ませ、その時が来たらそれを
成すだけにするのです
今風で言うと、出力するだけで良いのです。そして、そのことが出来るようになると、不思議な体験をすることになります。
身体動作から自然と感情が誘発される
自然に動かした動作により感情が誘発されて、自動的に自分の心が動くようになるのです。これが演技の本質という訳なのです。これを出来るように私たちは日々演技練習をしています。
いざ、公演が始まりました。そして「よし!感情を入れて演じてみせるぞ!」というような、気合を入れたら出来るというような演技ではいけないのです(笑)
演技しようと思う心がある限り、演者の動機が消えることはありません。そうすると役の人物の動機は現れることは絶対にありません。
舞台が始まればその世界を生きる
しっかりとその世界を生きるための準備、つまり演技練習では役の人物の動機で動くことを想像しそれを模倣する練習を重ね、
稽古で作品世界を疑似体験する
ことにより観ている人の臨場感をあげていくことが大切なのです。こういう稽古が出来るようになると、場が締まりますし楽しくなりますよ。稽古で、「演技をしよう」「表現しよう」とすることは、無理に自分がそうでもない感情を強引に出そうとする行為になるのです。
ここで頑張ろうとする人が多い
そんなところで頑張ってもダメなのです。このことを是非頭に入れて稽古に励んでいただければ、きっと素晴らしい俳優になると確信します。
上から目線のような言い方になり、誠に恐縮ですが、今まで何百ステージ出演した経験をもとにお話しして、その話に共感をいただければと思います。これから俳優を目指される方の一助になれば幸いです。
あまりに多い、昨今の「私は演じてます」という演技。これが今の演劇事情を作っているようにも思えます。そのような「つもり芝居」から脱却して、素晴らしい俳優が育つことを切に願います。
最後までご覧いただきましてありがとうございました。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。