前回は私たちのワークショップのご紹介をいたしました。

※前回ブログ記事 ≪私たちの演劇ワークショップの話»

下記の7つのテーマ、

1. 「自分を成長させる」

2. 「自分をコントロールする」

3. 「稽古への取組み方」

4. 「演技プラン」

5. 「想像していただける演技とは」

6. 「心の声を聞く」

7. 「思えば伝わる」

演劇ワークショップテキスト「自己研鑽」より

に沿って演技の練習を行っておりますが、

前回、説明できなかった

3. 「稽古への取組み方」

について今回お話しさせていただきます。

稽古を楽しくするための環境づくり

前回のブログ記事では、

『稽古では自分の出番でない時は必ず前から見る』

ことを徹底していると記しました。

これは、まさに稽古を楽しくするための環境作りでして、

どうしてかと言いますと、

俳優は誰しも見られたい願望があるからですね(笑)

だから、稽古で出番以外の方が全員前から見られると、

かなり引き締まった稽古になるのです。

さらに、私たちはこれにプラス、

「私はあなたをしっかりと見てますよ‼」

というのも入れます。

こうすることで、例え少人数であっても、かなり本番に近い状態の緊張感が生まれるのです。

この緊張感の中ですることがとても大切なのです。

舞台では普通でいられないことが当たり前で、その中でどう冷静に演技が出来るかということが大切なのです。

舞台に上がっても全然平気と言われる方もいますが、それはお客様からの情報が受け取れていないという場合もあるので、それですとあまり宜しくありません。

感受性が豊かであることも俳優には必要なのです。

ちょっとしたお客様の変化にも敏感に気がつける人が劇場全体を一体化できる人になれるので、素晴らしい俳優は受信力のある人であるとも言えるのですね。

言いかえれば、何百人の観客の無言の圧力を受けていることを自覚して、そのエネルギーを協調しながら徐々に演技をして自分のエネルギーに変えていく。そうすることによって劇場全体を取り込んでいくのが理想だと思います。

いくら、素晴らしい表現力があっても、

お客様の観る態勢がばっちりのタイミングでみなければ観てはいただけない

これを分かって演じている俳優を

間の良い役者

と言います。

俳優自身の間ではなく、お客様の間で芝居をする

このことが、よりお客様を味方につけやすくする演技法であるのです。

俳優で、まず押さえておかないといけないことは、

自分が発信している表現をお客様は100%に受け取ってはいない

ということです。

例えば、2時間くらいの公演を観劇したとします。その中で全部を覚えている人は絶対にいません。

学校の勉強をしている時の授業もそうですよね。

「ここがテストに出ます!」

と先生が言うのは、まさに聞き漏らしがあるのが前提だからそういうことを言うのであって、

そう言われる先生は、生徒が分かっているかどうかを常に進めながら確認しているのだと思うのです。

ただ、演劇はお客様に「今の言っている意味、分かります?」って劇中には聞けませんので(笑)

こういう雰囲気になれば、お客様はこういう感じになってるというものをたくさん知っておくと良いのです。

そうすれば、原因と結果が分かるわけですから、演技の対策にもつながるのですね。

つまり、そういう雰囲気を作ったのは我々演者の方ですから、よりこちら側作り手の意図通りの表現の向上が図れるわけです。

ですから、私たち俳優のお仕事は、いかに効率よくお芝居を観ていただけるかが生命線で、

たっぷりてんこ盛りで演じてしまうとお客様はお腹いっぱいになるのです。

ですから、お客様の都合でお芝居が出来る俳優になるためには、

このような、稽古からしっかり観られている環境を作ればその感覚が養われるのです。

自分の出番出ない時に、次のシーンの台本を繰っていませんか?(笑)

出来れば、それをこれからはしないで、仲間の稽古になるための行動を取っていただければと願います。

共感空間は奇跡を生む

最後にこの話を。

稽古の時から、仲間が共感しあって物事を作っていると奇跡が起こります。

正確に言うと、

自分たちの力以上のことが起きるような感覚が芽生えます。

まぁ、芝居の神様という話ですが、これは他力本願の話だと思っております。

物事を一心に取り組むと他力が働く

他力とは阿弥陀如来のお力。

このお力が自分たちの力に加わるような感覚です。

お芝居では、憑依という言葉がよく言われますが、

私が申し上げるのはそれとは違い、

本来誰もが持っている自分の中にある大きな力が働くようなもののような感じと申しましょうか……(笑)

他力とは言っても自分の中から生まれているものなのですが、そのお力がある種を境にふっと現れて、その現象が周りにも作用されて共感しあうような感じとでもいうか……

それは時に、

本番中に、アクシデントが起きた時にとんでもないアイデアが生まれたり

稽古で、ふと「何でここに気がつかなかったのか」と急に視野が開けたり

自分の力では到底できないようなことを経験するのです。

知らない自分が演じている感覚が一番近いですかね。

こういう感覚でお芝居が出来た作品はいつも大成功しているのです。

ですから、願掛けではありませんが、この感覚で常に芝居がしたいという想いから今まで考えてきた方法が、

稽古では自分の出番でない時は必ず共演者の演技を前から見る

という方法なのです。

自分の出番ギリギリまで、自席で前から見て、出番が終わったら一目散に自席に戻ってまた真剣に前から見る。

これを繰り返しやってみたら、こういう風に変化していきます。

周りも同じようにする人が増えるのです。

おそらくお感じになられたのだと思うのです。

「前から見てもらえたら何だか丁寧に見てもらえているって感じられて良いな」とか

「演出だけではなくて、共演者にもこうして真剣に見てもらえるのは期待の裏返しかな」とか

緊張はするのですけど、見られたいという本来の欲求を満たしてくれる行動に繋がっているので、みんなが良い気分になるのです。

すると、

「私もそうしてあげたい」

となって、最初は稽古場の端っこで柔軟体操していたり、台本見てたり、違う段取りの話をしていたりしていた人が段々減っていき、

みんなが稽古を見守るようにようになるのです

そしてこの心地よい緊張感のある空間になった時に、いつも奇跡が起きます。

自分では発送も出来なかった演技が自動的に出てくる

という奇跡が。

こういう時、大抵誰かが、

「今日の○○さんの芝居めっちゃ痺れた」

とたたえる人が出てくるのです。

そしてそれは他の仲間も共感してて、一方、当の本人は大抵こんな感じなことを言われます。

「いや突然、□□さん(共演者)のお陰で、初めて気がついて、自然と出たんですよね」

というような、なんだかよく分からないけど、周りへの感謝の気持ちの言葉が出るようになるのです。

人は感謝している時って本当に幸せですよね

こういうことが分かったら、

幸せな気分を味わうなら率先して感謝したくなりますよね(笑)

そうなのです。

この他力が働くと誰もが幸せな気分になるのです!

感謝の言葉は誰の心にも幸せな気持ちにさせてくれます。

こういう集団になれば、幸せが広がっていくと思うのですね。

劇場を一体化させることが私たちの目的であるならば、客席舞台が共感し合うことがとても大切で、

この全体の共感こそが奇跡なのです。

みんなが作品の中に入り込み、その気にさせる。

この「その気にさせる」ことがもっとも重要なことで、

ワクワクした情動の始まりとなるのです。

ですから、その気にさせる一つの方法として、

『自分の出番でない時は、共演者の稽古を前から見る』

ということをやっているのです。

以外に深い話でしょ(笑)

世の中は調和の世界です。

一人で生きてやるって考えれば、それは遅かれ早かれ孤立を招きます。

それよりも、周りの人のお陰で今の自分があると考えれば、感謝したいことは山ほど出てきますよね。

感謝の言葉を受ければ、感謝された人も遣り甲斐を感じます。

変な言い方ですけど、欠陥だらけの私の方が周りへの感謝する割合が非常に高いので、それだけ幸せなのかもしれません(笑)

ただ、完璧を求められている人からすればイラつく人物かも知れませんね(笑)

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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