私の台本の読み方の一つにとても面白いと言われるものがあります。

それは、

作品を逆さから読む

という読み方です。

上下逆さじゃないですよ(笑)

後ろから読むということです。

これは昔の演劇指南本にも書かれていたことがあるのでご存知の方も多いかも知れません。

ただ今は残念なことにこの読み方は演劇されている人の中でもあまり知られていないの現状でなのですが、とっても素晴らしい台本の読み方だと私は思っています。

私の場合は、この逆さから読む方法は途中から使っていて、とても明確に作品の意図を捉えられる素晴らしい方法です。

私は最初、台本を読む時は、普通に前から読みます。そして以前でもご紹介したように、その横にノートを置いて、話の進むごとに浮かび上がる疑問点を書き出していくのです。

「この人は誰だっけ?」とか「この人はさっき出てきた人とどういう関係?」とか「ここで話はなんとなく分かった」とか「いや、思ったのと違ってた」とか「これからどんな展開になるんだろう」とか、こういう風にふと心に浮かんだことを文字化するのです。

この意図はものすごく簡単で、戯曲を一番最初に読んだ時の感覚とお客様が観劇する時の感覚が似ているからです。お客様も上記のようにして見ていると考えてお芝居の構図を作っていくのですね。

次に、今回の表題の読み方。「逆さから読む」ということをします。

これはどういう作業かというと、物語の把握をより簡略化させる工程です。

物語は最後が答えですよね。「こうなりました!おわり!」ってことです。

つまりこれが一番言いたかったことでもあるのです。

これを明確にメッセージを出せると物語の意図に沿った解釈で進めやすくなるのです。

難しく言いましたが例を出すと非常に簡単です。

例えば、「最後は主人公が幸せに暮らしました」という内容が最後にあるならば、その前にどういう理由で幸せになったかが描かれている訳です。

このように答えから先に見れば、問題のシーンが自然と浮かび上がってくるように後ろから見ると見えてくるのです。

また、物語にはパターンというのがあって、そのパターンは色々あるのですが簡単なものをご紹介すると、

最後がハッピーエンドならば最初は絶対にアンハッピーな方が面白い

であったり

最後が悲しい結末であれば、最初は幸せな表現をした方が面白い

という簡単なパターンがあるのです。勿論他にもまだまだありますが、

この対比の間に人間の葛藤があり、そこを劇的と表現されるのですね。

こうしてお芝居は成立しているのです。

「最初、ハッピーでした。最後もハッピーでした」っていう作品はただの日記みたいなもので、「自慢話か!」ってなりますよね(笑)

こういった対比を作って劇的な要素があるから面白いという考え方ですね。

そうすると、一幕五場の作品であるならば、まず五場から見るようにしていくのです。五場、四場、三場、二場、一場と…。

こう読んでいくとどうなるかですが、簡単に言うとこう見えてきます。

「この人の役割はこの話をさせたいから出てきているんだな」

「あの人がいるからこの人が引き立つんだ」

と前から読むだけでは分からないことが見えてきたりするのです。

要は、ここで初めて役割という見方が出来るようになるのです。

この作品で言うと私の役割はこうです。

こういう役割分担が明確化されるので、とっても演じやすくなるわけですね。

でもこれを前から読んでいるだけだとそういう役割よりも、セリフから出てくる感情に支配されて、本来の役割が見えてこないということが結構出てくるのです。

「いや、君、そういう人ではないから」

という台詞の感情に捕らわれて役割を度外視した人格崩壊をされる読み方をする人は意外に多かったりするのです(笑)

それと、もう一つ。

お芝居って普通起こらないことが起きる世界なのです。

言い方を変えると、普通の出来事であるならばお芝居としては成立しなくなるのです。

しかし、作品を前から読むだけですと、どうしても有り得ない話であるにもかかわらず、

普通に話が進んでしまうということも起きがちなのです。

例えば、偶然にも不幸が訪れるシーンであっても、その偶然があたかも分かっているかのような前半の作り方をしてしまっているということが起きうるのです。

嘘みたいな話ですが……(笑)

これはなぜそうなるかというと、

作り手全員がこの話を最後まで知っているから(笑)

台本に書いてある通りにすると、「普通はこんなこと起きないよ」ということにも気がつかないことは本当によくあることなのです。

しかし、この問題も台本を逆さから読めば解決します。

何故かというと、後ろから読むと答えが先に分かっているので原因を突き詰めたくなるものだからです。

この時に、こういう原因があってこういう結果がもたらされたんだということが、本当にあっさり分かるようになるのです。

ですので、お芝居の作り方はやはり知っておいた方が良いのにもかかわらず、そういう作り方を知らないで作っている舞台はプロの舞台でも見受けられます。

まぁプロの舞台っていう言い方も変ですが…(笑)

演劇の世界を元気にさせるならば、まず品質を重視して、世間の皆様から「演劇って凄いよね」って言われないといけないのだと思います。

芸術ではありますが、お金をいただいている以上は、やはり満足させるものがないと二回目はないと思います。

こういうことを言うとすごく色々なところでご活躍されている演劇関係者の方が不愉快に思われるかもしれませんが、例えば、公共が運営する劇場の存続させようと運動をするということも大切なことかもしれません。ただ私はそれよりも今まで私たちがしてきたことがそういう現状を引き起こしてしまっているというのもあると思うのです。

文化を大切にするというお気持ちがあるのであれば、まずやることは私たちの技術の向上がまずとても大切なことだと思います。

演劇の技術の追究を切に願っております。

もう自分たちがやりたいだけの芝居と言われないように。

私自身まだまだ未熟者ではありますが、自分で経験したことは出来るだけ皆様に共有できればという思いで記しております。

台本の読み方には技術がいる

このことだけでもこれからの演劇を担う若い希望の星の方々に知っていただけれればと思います。

最後までご覧下さいましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

LINEで送る
Pocket
このエントリーを Google ブックマーク に追加
LinkedIn にシェア

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です