共感を得た者が舞台を制す

本を読むとき、この話はどんな話なのだろうと思って次々とページをめくっていきますよね。

これと同じで、お芝居を観るお客様も次の展開がどうなるのだろうと思って劇を見ているのです。

どんな話なのだろう?

こういう風に関心を寄せていただくために私たちは見せ方を工夫するのですが、この見せ方があまり分かっていない人が多く見受けられます。

例えば、セリフの言い方…

これは皆さん見せ方を踏まえてお考えになられている人は多いです。

では次に動作…

ここになると、雰囲気で動いてる方が多くなり、意図的な動作をもって表現している人の数はグーンと下がります。

次に立ち位置…

どこに立てば、より効果的にお客様に伝わるのかを考えて表現している人の数はさらに下がります。

次に照明の当たり方や音楽への合わせ方…

こうなるとさらにさらにそれを意識して表現している人の数は下がります。

立ち位置や、照明音響を意識して芝居するのは雰囲気でされる方が圧倒的に多いのです。

ですので、今回の台本の読み方をマスターできると、かなりのアドバンテージになることは間違いありません。

ただこう思われる方もおられるかもしれませんね・・・

台本を読むだけでそこまでのことが考えられるの?……出来たとしてもなんだか大変そう‼

しかし、それは心配ご無用です。

では、いよいよ、ブルア流の台本の読み方をお教えします。

まず、ノートと鉛筆を用意します。そして一番最初に読む時に、どんなに細かくても、自分が思ったことがあったことは書き留めると決意して読み始めて下さい

俳優養成講座テキスト「自己研鑽」より

これだけで初見の本読みはOKです。

ええ‼たったこれだけ❓❓❓

と思われるかもしれませんがこれだけでもう周りの俳優陣からアドバンテージが取れますよ(笑)

ただこれを実際にやってみて下さい。

普通の台本を読む時とおそらく2,3倍は時間がかかると思います(笑)

これはこういうことなのです。

台本の初見が一番大切

ということ。

一番最初に読んだ感覚が全てなのです‼

これがお客様と我々作り手の唯一の共感できる点なのです。

だから、初めに読んだ時に、どう感じたかを書き留めることはとても重要なのですよ。

これが重要だと気がついていないとお客様と作り手の感覚は乖離していくのです。

だから初見で思ったことは書き留める。そして、それをもとに演技を練ることがとてもとてもとてもとても重要なのです。

これは間違いありません‼ですので、これは是が非でもお試しいただきたいのです(笑)

紙と鉛筆を持って、読んでて自分がふと思ったことを書く。

この時、台本でも良いのではと思われる方もいらっしゃると思いますが、ここは自由なのですが、

ものを書くと連想することがあります。その連想したことも書き記して欲しいので、台本に書くと台詞が見えなくなるくらいになったりするかもしれませんね(笑)

それでも良ければ…(笑)

では具体的にどう書くか…ですが、簡単な例えを。

ト書きを読んで舞台セットの説明が書いてある。説明文を読んだ時に、分かり難ければ「分かり難い」と書く。

分かりやすければ、セットの色とかも書き記す。「この何ページの何処何処の文を読んで赤い椅子を想像した」と記す。

台詞の一声目で、「誰に話してるんだろう?」と思ったらそれを記す。

ト書きで人が現れると誰だろうとなりますが、そのままスルーしたならば、スルーと書く。登場人物の一覧のページを見たならば、「何ページの何処何処で、この人誰って登場人物一覧を見た」と記す。

この台詞意味が分からないところがあれば、「どういうこと?」と記す。その答えが後に書いていればそこで「さっきの疑問はここで解消」と記す。

如何でしたか?2、3倍どころじゃないかもしれませんね(笑)

これは自分が素直にどう思ったかを書けば書くほど、それがのちに演技の戦略に活かせるのです。

例えばです。上記の初めて出てくる登場人物でスルーするかしないかでこのように解釈できます。

まず、スルー出来る登場人物ということは、その時のその人の存在がそれほど重要でないか、セリフ内で既にその存在が現われているかのどちらかの可能性があるということです。

つまり、スルー出来る登場人物は、そこで出てくるのが想像できるか、はたまたストーリーの展開上重要ではないとお客様が判断しているであろうということが見えるわけなのです。

これが分かっていると一番最初の登場の仕方は自分はスルー出来る役の人物だから、ここではそれほど自分を主張するような芝居をしなくても良いということが分かります。ここが分からずに普通に主張するような演技をしてしまうと「説明臭い」演技に見えてしまう訳なのですね。

普段でもそうですが、第一印象はとても肝心で、一番最初に登場する時に「説明臭い」「空気読まない人」だという悪い印象に感じられると、お客様を味方につけるのは難しいので随分と損をすることになるのです。

お客様を味方につける方法は「共感」

この共感を一つ一つ重ねるとお客様と演じ手の信頼関係が出来て、感情移入しやすい俳優になれるのです。

話は少し逸れましたが、この共感をいただくために、初見で思ったことを書き記して、出来るだけお客様の目線で物事を考えることが重要なのです。

如何ですか?これでも難しいでしょうか?(笑)

もし難しいなとお感じなられましたら、このお話を最後に致します。

答えは台本にはない

というお話。

答えを台本にあると考えていたならば、

答えを台本から探さなければいけません。本をペラペラめくって、探し出す作業が必要になります。

しかし、台本には答えがないのです。

答えは自分の心の中にあるのです。

先ほどの自分の思ったことを書き出してみたこと、あれが実は見せ方の答えに繋がるのです。

まずは実際に先ほどのことをお試しください。思ったことを書く。そうすれば、「こういうか!」と一瞬で分かります。

自分の思ったことを文字に現わすと、そこから色んな想像が膨らむのです。

この想像はなかなか面白いので、想像はどんどんと膨らみます。こういう風にして答えを見つけようとすると、面白いので負担がないのです。

この話は恋愛の話かな?この話はサクセスストーリーなのかな…

台本を読んでいる時に、そういうイメージが頭によぎったら、その過った時点の台詞にチェックを入れるのです。そして、お客様もこのあたりでこういう風に想いを馳せるんだと考えて、演技を構築すれば、今まで見えていなかった台詞の意味が見えてくるのです。

これは視点を変えることで台詞の本来の意味が分かるという方法です。

そしてここからがとても興味深い話ですが、本来の意味で話をすると不思議なことが起きるのです。

台詞がとても話しやすくなる

自然と感情が湧き上がってくる

という怪現象が起きるのです。

つまり、セリフが詰まったり、言いにくいなというようなことがあるということは、どこか違和感のあるものになってやしないかと疑うことが出来るのですね。

違和感は自分で無意識に感じています。つまりこれは心の中で「そうではないよ!そうではないよ!」というサインを言い難さで出しているのに、そのサインに気がつかず、滑舌の問題として言いやすく練習したりするといった間違った方法でセリフを話している場合が実に多いのです。

それを滑舌の問題というならば、普段もそうですかと言われれば違うでしょ(笑)

自分の言葉になっていないから、嚙んだり、詰まったりするんだという方がいらっしゃいます。それは正しいことです。しかし、この自分の言葉にする方法を間違えてしている人は本当に多いのです。

言い難い台詞はですね。本来そういう話し方ではないというサインなのです。ですから上記のように本来の意図で話すことを見つけることが大切なのです。

自分の心の中で連想してこういう言い方をありうるよな?これなのかな!!

残念ながらそれが正解ではありません。

アイデアが生まれても他の所と話の辻褄があっていなければだめなのです(笑)

でも、こう考えれば簡単ですよね。自分の想像したアイデアは辻褄が合っていなければそれはすぐに間違いだと気づくわけですから。

これは講座でもお教えしてしていますが、最初は自分の想像から得たひらめきの殆どは辻褄が合いません。しかし経験を積んでいくと3回に一回、2回に一回と必ず精度が上がってきます。熟練になると、一回の想像したことが全ての辻褄が合うということもあるのですよ。

つまり、俳優の台本の読み方には、

技術

が要るのです。

この読み方を多くの方に是非マスターしていただければと願っております。

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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