何かに意識がいっているという演技

今回は、俳優養成講座の切り抜き動画になります。現在、俳優養成講座では一つの台本を題材に、一日約1ページの進捗で進めています。

牛歩戦術

ですね。本当にゆっくり一行ずつ一行ずつ解説して、演技戦略から演技手法までを俳優養成講座で徹底的にお教えしています。この稽古をご覧になられる方は、

台詞一行でこんなに深堀して考えた演技をしているとは・・・!?

と殆どの方が言われます(笑) とっても緻密なので、そこは本当に驚かれるところであります。特に、立ち方や、歩み方、視線は本当に細かいので何回も練習してもらって漸く覚えられるという感じでしょうか。それもそのはず、演技は自分で形に出来るようになるのに、

10年はかかりました

かかりすぎかもしれませんが・・・・・(笑) それだけ深いものだと思っていただければ、救われます(笑) 何気ない動作でも、タスクを思いっきり出すので、最初からできる人は絶対にいません(笑) みんな最初は、

こんなに普通の動作が難しいものとは思わなかった

と言われます(笑) 私たちの動きはほぼ無意識に動いていますので、その無意識の動作を意識化して練習を始めるのですが…

人間って複数のことを同時に器用に動いているということが意識化されると本当によく分かります

これを知ると、おそらく誰もが、

私って普段凄いことしてるんだな‼(笑)

って自分をリスペクトしたくなりますよ(笑) そうなのです。人間って本当に無意識に凄いことを毎日しているのです。

例えば、車で話し込んでいる時に、「もうここまで来ていたか」ということありませんか? そこまで、色んな道を通ったと思うのですが、それを無意識に動かしているんですから凄いですよね。右に曲がろうとする時に、右の手を下に回し左の手を上に回し…なんて考えていないですよね(笑) アクセルとブレーキを右足で踏むことも器用に操作していると思います。「ちょっと、今話しかけないで!左に曲がるところだから!」と運転している人はいません(笑) 

実は、演技練習はこれをしっかりと意識して動かしてみて下さいという練習なのですね。つまり、右に曲がるなら右手で持っている手の位置はここからこういう風に動かして、左はこういう風に動かして、対向車と歩行者が着ていないのを確認して、アクセルを徐々に踏み込み、ゆるやかに加速して交差点を抜けるという風に一つ一つの動作を確認して動かすのです。これって意識すると結構難しいのですよ。全部無意識で行っている動作ですから、それを一つ一つ洗い出し、それを意識して動かす練習をすると、

えー、全然できない!

となるのですね。身体に覚え込ますと凄いことになるのですね。人間は。

この神秘的な力を感じると、普段の私たちはもっと自分自身を尊重してあげて欲しいと思うくらいです。こんなことも出来ないのかと思うこともあるかもしれませんが、既に私たちは沢山の凄いことをやってのけていることに気がつきしっかりと自分を労っていただいた方が良いと思います。だから身体が動くだけで、実は凄いことなのです。

こうして、無意識の動作を意識化してこういう風に動いているんだという認識をしっかりと持って、芝居をすることがとても重要なのです。どうして無意識の動作を意識化すれば良いのかというのは、前回のブログでお話ししていますが、簡単に言えば、

無意識の動作は見ている人に伝わりやすい表現になるから

です。俳優は伝える演技ではいけません。伝わる演技をしっかりとマスターしなければならないので、この演技を覚えることは必然なのですね。ですので、無意識に動いている動作を徹底的に調べてメカニズムを知ることから始めるのです。そこで、顔の表情となった時に、大きな舞台ではなかなか顔の表情を見ることが遠くて出来ない場合があるのですが、その時に、顔の表情に替わる身体動作の演技表現をするのです。

例えば、びっくりした時の芝居は、顔で驚いたという表情が遠くて見えないとき、ビックリするタイミングで、自分の居る場所から、後ろに一歩足を引くという動作を入れたりすると、遠くのお客様からでも、

驚いている

という風に見えるものなのです。この時に手を広げることも出来ますし、色々とあるのですけど、この動きには原則がありまして、

息を吸うに伴っている動きでないといけないのです

つまり、びっくりすると人間は息を吸い込みます。前に進んで息を吸うことよりも、下がって息を吸う方が簡単なのですね。また、前かがみになって息を吸うことはしないので、身体を後ろにそらすことで、びっくりした表現になります。要は・・・・・

息を大きく吸っているという表現が見えているとびっくりしたのだというのが伝わるのです

面白いでしょ。このように、顔の表情だけではなく身体で代用表現が出来るということなのです。ですから、小さな劇場ですと顔で芝居できますが、大きな劇場になりますと大きな動きで見せないとダメなのですね。これを踏まえると、もうお分かりだとは思うのですが、

「感情を入れれば芝居が出来る」という考えではいけないのです

演技は技術です。この技術を知ることが必要なのです。

次に、今回動画でご説明することですが、本人がどこに意識が行っているかという演技のワンシーン。どのような場面かを簡単に説明すると、画家が画商の店に来て画商に絵を売ろうとするシーンでの演技解説です。自分の絵がどのように見られているかは画家にとっては死活問題。

その時の、かなりさりげない短い動作ですからお見逃しなく(笑)

如何でしたでしょうか? あんなしょうもないこと…(笑)

そう思われる方もおられるかもしれませんね。ですが、ああいった一つ一つの細かな動き、つまり演技レイヤーをたくさん作って、重ねていくことが俳優のお仕事なのです。このレイヤーが増えると演技の厚みが増し、たくさん増えていけば素晴らしい表現となるのですね。厚みのある素晴らしい芝居は、素人の方には分かりません。あまりにも無意識に訴えているところが多すぎるからです。何だか分からないけど、あの人の存在感は凄かったね!というくらいだと思います。それは・・・

自然と見てもらえる技術をふんだんに演技の中に入れているから

なのですね。これが演技なのです。芝居は手品と逆のような感じで、

手品は見て貰いたくない方を隠すために見てもらうところを作りますが、芝居は見てもらいたいところを注目してもらいたいがためにわざと隠すような感じにするのです

どうして芝居は見てもらいたいところをわざと隠すのかというと、

見てもらいたいと思うことで、俳優の動機が無意識にお客様に伝わるから

なのです。これでは、物語の中に集中してはいることができません。それよりも、

舞台上で生き様をありのまま表し、お客様がそれをご覧になって、お客様自身が私たちの見せたい所を見つけてもらうことがとても重要なのです

この言い方は少し難しいかもしれませんが、

芝居はお客様に説明すれば理解だけに留まりますが、こうではなかろうかと自分で発見したものに関しては想像が働くのですね。

演技でその想像をお手伝いするのが私たち俳優の技術であって、演技で作品を分からせるものではないのです

お客様が想像して作り上げたものでなければ素晴らしい作品とはならないのです。ですから、私たち演劇人はお芝居をお客様と一緒に作品を育てているわけなのです。先ほどの、動画の演技はパズルのピースのようなもので、ピースをはめていくのはお客様なのですね。ですが、そのピースを円滑にはめていただけるように、工夫をしているのが俳優の演技をはじめとした舞台の様々な技術なのです。

自分たちの演技でお客様がどのようにお感じになられるかまで責任を持つ

とはそのような意味で、難しい問題であっても、最後には楽しんでいただけるというゴールを設定して、緻密に演技プランを立てるのです。これが一人で組み立てられるようになるには10年はかかるかもしれません。しかし、重要なことはその年数ではなく、そういう演技があるのだといち早く気がつくことなのでこの意識を持って、取り組んでいただければと。

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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