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前回では感情コントロールの重要性を演劇的視点で述べさせていただきました。

今回は、具体的に演技練習でどうやって感情を作るかというお話をさせていただきます。

前回の話のおさらいをしますと、演技で感情の表現をする時、感情を出すのではなく感情を誘発させるということをすると申し上げました。

そしてその誘発される原理は

という感情発生させる演技システムを使うのです。

人間はある感情が湧き上がる前に、一定の無意識による動作があります。

その無意識の動作を意識化して反復練習をすれば、同じ感情が誘発されますよというカラクリです。

そして、このカラクリにはイマジネーションも必要で、3つの無意識の動作を意識化して実際に動作を行い、その際に2つのイマジネーションも加えるという方法なのです。

実際に感情が起こる時のメカニズムは、何かの情報が入って、脳に刺激が行き、その刺激から自動的に動作が働くということです。

ここで言う脳に刺激が行くのは、自分の感じ方に大きく左右されて、ある情報を過敏に受けとれば当然、脳への刺激も強くなり、全く心が動じなければ、脳への刺激もないということも頭に入れておく必要があります。

つまり自分のものごとの捉え方によって脳への刺激が左右されるので、その刺激が小さければ、それに反応する身体動作も小さくなるということです。

この話はそれほど難しくはないですよね。

普段の人間の感情のメカニズムはこのようになっているとまず考えてみてください。

さて、ここからが演劇的な世界になるので面白い話になってきますよ。

上記のメカニズムは普段の私たちの感情の動き方ですが、演劇では決められたストーリーの中で生きている訳ですから、当然普段の感情の動き方にはなりません。

何故なら、役者は作品において次の展開も十分に分かっているし、結末も知っているからです(笑)

ですから、上記の普段の感情が働くメカニズムで一つないものがあるのです。

それは脳に刺激を与えるという「工程」です。

展開が分かっているので、目の前に起きた出来事も当然知っている訳ですから、実際には驚けませんよね。

こうなると脳への刺激もないわけです。

脳への刺激がないので、当然ですがその刺激による動作反応も起こらない。

お芝居の世界で生きるのはこの点が難しいわけですね。

そこを臨場感をもって、リアリティーのある表現にするために、今から言う演技法が必要になるのです。

それが前回でも申し上げた

という演技法です。

この演技法はバイクの押し掛け的な発想で、車輪を回した動力によってエンジンを動かすという方法です。

普通はセルスターターからエンジンを動かし、それからバイクの車輪が動くのですが、逆の動力原理でエンジンを動かすという方法です。

これがなんと人間の体でもできるというわけです。

ここが面白いのです。

つまり、身体動作から脳への刺激を起こさせて、自然で無意識な動作を自動的に起こさせるという技なのです。

余談ですが、実はプロの俳優でもこのことを知っている人は少ないのだと思います。

何故なら、感情を出して演技している人が多いからです。

感情は誘発されるもの。

ですから、表現の場であってもしっかりと感情を誘発させることをしなければ、

という実感が持てないはずなのです。

その実感が紛れもない表現者の自信としてお客様に伝わる。

逆に感情を出すという行為は、自分がその感情ではないから出すという行動になっているわけで、そのブレた表現がお客様に伝わり、作品の世界とは違うものを映し出してしまうのです。

というように、感情表現で一番大切なのは、本当の感情が舞台上で湧き上がっているかというところで俳優はそこで勝負しているのです。

では実際にどのようにして感情を誘発させるか。

良い感情を誘発させる身体動作のお話をします。

そんなに難しいことではありません。

ですが、ちょっとバカバカしく思えるかもしれません(笑)

ですが、このバカバカしいことが実はとってもとっても大切ので、絶対に実践した方がお得です(笑)

良い感情を作り出す動作は身体動作の「体」の動作は3つ

その前にイメージとして・・・良い感情を誘発させるには、まず物事に対し驚くという動作をしてみてください。

驚く時はどうなりますか、多くの方が目を大きくするという風に言う方がいますが、それも正解です。

でも一番大切の動作は

呼吸が全ての感情の源になっているということをまず知って下さい。

頭で知るのではありません。

体で知るということです。

その練習が必要なのです。

人間は驚く時、咄嗟に息を吸い込みます。ですから、まず、

① 驚いたという感じで息を吸ってみてください

そうすると脳に刺激が行き、体に緊張感が走るのです。

この感覚を何回も反復練習をして体に覚え込ますのです。

するとその緊張感を生み出す一連の感覚が分かるようになります。

この感覚は喜怒哀楽、どんな時でも起きる初期状態だと思って下さい。

息を吸ってこの感覚が分かれば、次に、

② 口角を上げて笑顔を作ってみて下さい

これも反復練習です。

息を吸って笑顔になるという意識で十分です。

この時に、背中の後ろからゾワーっと痺れるような感覚が出ると上出来です。私はこれをゾワゾワ感と言っています(笑)

③ ゾワゾワ感が出るまで反復練習をして下さい

不思議な話ですが、このゾワゾワ感が舞台上で出ている時に、一番客席のお客様と共感をしているという感覚になります。

どうして共感しているのが分かるのかというと、それは、

です。

つまり、劇場全体のエネルギーがそうさせているとしか言いようのないエネルギーが自分を導いてくれているような感じになっているのです。

これが当に俳優としての至福のひとときで、全体の中に自分もその一員に成れたような感覚で、これは当に快感なのです。

話を戻しますが、いままでの3つ、「息」「笑顔」「ゾワゾワ感」が出来たら、今度は、プラス、身体動作の「身」の動作を行います。

最高に美味しいステーキを食べた時であったり、好きな人の告白された時であったり、臨時収入が入ってきたりとか、試験の合格が知らされた時であったりとか、過去の体験を思い返し、その時の様子を先ほどの3つの「息」「笑顔」「ゾワゾワ感」と組み込むのです。

そうですね。感覚の鋭い人でしたら、5回ほどあれば、その実感が得られ体もそういう状態になりますが、そういう感覚をにわかに信じられない人であれば(笑)100回くらいしなければ得られないかもしれません(笑)

これは、

を育てる練習です。

私は、もう職業病なのか、もうすぐにその気になりますので、普段からとっても思い込みの激しい人として周りから怖れられいるのです(笑)

現実と虚構の見分けがつかないオヤジ

ですね。

そして、これが最後の練習工程です。

これが俳優としてとても大切のなのですが、自分が今までしたことがないことでも、あたかもしたことがあるかのようにイマジネーション出来るかということです。

私は今まで結婚をしたことがありませんが、家族のお父さん役をよくします。

私は自分の家族を持っていませんので、この役は出来ませんとは言えません。

そんなこと言えば、SF物なんかできなくなりますよね(笑)

ですので、自分がもしお父さんならとイマジネーションするのです。

この時に重要なのは、「これをしなければお父さんじゃないよね」というような、実際のリアルとは違うものは当然出てきますが、それには目を向けないことが肝心なのです。

人間はスコトーマ、つまり盲点があるわけですから、ありのままの世界を見ている訳ではありません。

つまり、必要なものしか見えていない訳ですから、人が必要なものと自分が必要なものとはまた全然違うので、自分が意識してそれがリアルだと感じるもので十分なのです。

要は、ここが重要なのですが

思い込みが本当に本当に本当に重要

なのです。

例えば、願望実現とかでもよく言われてますが、フカフカのソファーに座って、くつろいでいる富豪をイメージしても、実際には富豪が座っているソファーは逆に硬かったりするのです(笑)

それでも、フカフカのソファーがあなたの富豪のイメージならそちらを優先した方が良いのです。

で、もしこの方法で実際にあなたが富豪になったならば、

さいとうさん、このやり方を教えていただき、ありがとうございます

と言って、特注でフカフカのソファーを作れば良いのです(笑)

このような作業をしていくと、

凄い話でしょ(笑)

本当にその登場人物になっているから、感情移入が自然に出来るのです。

本当にその登場人物のようになるには、その登場人物と同じ情動が働けるか?

この一点だけなのです。

そうすると眼前に広がる景色が全く変わるのです。

これは本当に不思議なことなのです。

この不思議なことを起こす情熱が俳優にはあるのです。

今までのおさらいをします。

ある物事で、それがいくらバカバカしくても、それを見た瞬間、息を吸う。

そして、吸い込んでいる途中から笑顔を作る。

するとゾワゾワ感が出る。

これが身体動作の「体」の動作、の感情を誘発させるメカニズムを理解し体得する

これがスムーズになったら、

実際に喜ばしいことがあったことを思い返す。

そして、未知の喜ばしい世界を創造する。

という、

ですね。

ある物事が起きた時に、最大のイマジネーションを働かせるのです。

「なんと美味しいインスタントラーメンでしょう!」と感動するくらいに

その時に、先ほどの身体動作を全部組み込むのです。

すると、身体が本当に喜んでいるような感じになるのです。

そしてその喜んでいる感じが、自分だけでなく周りにも影響されて、みんながほっこりするのです。

このエネルギーを馬鹿にしてはいけませんよ。

こういう練習から始めるのです。

演技練習では、例えば、こういうのも行います。

実際に紅茶を飲んでみて、次にレモンを入れて、飲み終えたら一度コップを洗って今度はミルクティーを飲むという練習をします。

この時に、普通の紅茶、レモンティー、ミルクティーと全部の感覚を覚えておくのです。

そして今度は空のティーカップに紅茶が入っている前提で飲む模倣練習をするのです。

これは何の練習かというと

なのです。

すると、不思議なことに、この感覚が研ぎ澄まされていくると、いざ舞台で芝居をしている時に、遠いお客席からであっても、どの紅茶を飲んでいるのかが分かるようになるのです。

それは、セリフで言ったからとか、飲む前にミルクを入れたからとか、飲む前にレモンを絞ったからとかそういうレベルではないのです。

劇中で、お茶を飲むシーンがあって、その劇の感想に

緑茶を飲んでいるところがとても印象的でした

と書いてるお客様がおられます。

緑茶とは一言も言ってなくてもです(笑)

そういう感覚が実はもの凄く大切で、そういう感覚が、実はもの凄く多くのものを引き寄せ、幸せに導くのです。

演劇の凄さが分かりますでしょ?

小さな幸せを喜べる技を身につければ、やがてとんでもない大きな幸せを掴みます。

ですので、是非「幸せコレクター」になって下さい。

そうすれば周りにたくさんの仕合わせが見えてくるのではないでしょうか。

あなたが笑顔でいてくれたのなら、それが周りの人への一番の仕合わせだと思いますから。

ですから、いつでも良い感情でいて下さることを応援します。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。さらに、自身のBlog『さいとうつかさの演技力会話力Blog』は1000万PVを超え、多くの方々から支持を得ております。

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