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私たちの劇団は周りとの劇団との協力をとても重要視しています。

例えば、欲しい出演者が揃わない場合は、色々な劇団からご相談を受け、出来るだけ迅速に対応するように心掛けています。

ブルアは私以外は全員女性ですので、男性の俳優の出演依頼があった場合は、私の知り合いに全て声をかけるレベルで、どうしても緊急の場合は私が出演対応することもあります。

緊急では、本番10日前で主役2時間出ずっぱりというのもありましたし、大抵はひと月前くらいが多いです。

相当無理なオファーも受け、私についてくる劇団員も劇団の予定が大幅に変わったりすることもあるので大変な時もありました。

ですが、出来る限り協力したいのです。

これは私の性分なのかもしれませんが、協力というのが私の中で美徳化されているのかもしれません(笑)

損得勘定から動いているのもありません。

いや、いつかこちらも助けてもらう時があるかもしれないからという気持ちは正直ありますが、それ以外の勘定は本当にありません。

私の劇団員もこの頃、プロの現場にお世話になることが増え、劇団員個人こじんにも、SOSで要請が来ることも増え、その際に私に受諾して良いかを尋ねることが増えてきました。

私は余程のことがない限りは「助けてあげて」と送り出します。

この時に思うことは、うちの劇団員もこの演劇の世界で人様のお役に立つことが出来たんだなと誇らしく思うのです。

完全な自己満足ですね(笑)

ですが、今の私の中で思うことが実は深く係っているのかもと思えたのです。

その私の思うこと・・・・・・

それは、今の演劇に対して思うことであります。

勿論一括りには出来ない内容ですので、飽くまでも私個人の思いなのですが、それは何かと言いますと、

演劇って社会のお役に立っているの?

ということ。

勿論社会のお役に立っている演劇は世の中にたくさんあると思います。

しかし、演劇はあまり社会のお役に立てていない存在ではないかと思える時も正直あるのです。

「やりたいだけの演劇」になってやしないか・・・・・・

その演劇は世の中に必要なのか?

これが私の頭の中にいつもあるのです。

演劇はとても崇高なものであると頭で分かっていても、行動は果たしてそうなっているのだろうか?

・・・・・・もしかしたらそれは私たちがただ単にやりたいだけなんじゃないだろうかと・・・・・・

勿論、これを否定的だけに取っている訳ではありません。

やりたいことを支持して下さる方も大勢いるからです。

ですが、それで本当に良いのだろうかと、心のどこかでいつも思っている自分がいるのです。

誰かの役に立っている。

それだけでも全然違ってくるのです。

それには、遠い昔のことが思い出されるのです。

私が芝居を始めてまもない頃、当時所属していた劇団は日本各地の学校への移動公演をしていました。

学校への移動公演は、本当に様々で、来てくれて、本当に有難うという学校もあれば、そうでないところも正直ありました。

ある学校での思い出。

とても荒れた学校での公演でした。

公演会場は学校の体育館でしたが、用具室や、体育館の裏側は折れた掃除道具や部活で使われていたであろうスポーツ用具が数々捨てられていて、周りにはタバコの吸い殻だらけ、ビールの空き缶やワンカップの瓶が並んでいたりという光景が広がっていました。

学校の先生も、それを見て「ここの子たちは大半が漁師になるんで、みんなこんな感じなんですよ」と今では考えられないようなことを言っておられましたね。

ですが、流石にそういった状況を目の当たりにすると、私たちも先生に同情するしかありませんでした。

翌日の公演日。

生徒さんは予想通りです(笑)

先生方は、公演が始まる前から終始怒鳴り𠮟りつけ、生徒を半強制的に集めて座らせていました。

それに応戦する生徒も・・・・・・。

舞台袖にいた私たちは、正直「観てくれるようなレベルやない」と、声にはみんな出さなかったのですが、おそらくみんなそのように思っていたことと思います。

そして、先生のご挨拶があり、それでも止まない生徒の声が響き渡る中、舞台は開演。

舞台が暗くなると、大きな拍手!

・・・・・・今までにないくらいの大きな拍手に私たちは戸惑いました。

しかし、この拍手いつまでも続く。開演して芝居が始まっているのにまだ拍手している生徒がいる。

指笛や、シュプレヒコールモドキも起きる。

演者の声も全然聞こえなくなるような展開になり、先生が慌てて、静かに制している。

そんな状態の中、

私のお芝居の師匠が、ピタッと芝居を止め、棒立ちになって客席をじっと見つめたのです。

私は、これは本能的に「やばい」と思い背筋が凍り付きました。

普段、気性の荒い私の師匠は、いつ怒鳴り散らすかハラハラしてました。

どのくらいじっと客席を眺めたのでしょう。

生徒も徐々に静かになって、先生の怒号が再び響き渡りました。

一人の先生が舞台上にいる師匠のところへ向かったところで、師匠はそれを手で制し、静まり返った中こう言いました。

お芝居というのは、皆さんの協力があってはじめて成立するものです。皆さんにお聞きします。皆さんは私たちのこの芝居を観たいですか?

静まり返った中、

一人の生徒がおどけた声で「みたいです~!」と。

その声に大爆笑。

すると一人の先生がその声を出した生徒を引っ張り、外に連れ出そうとしました。

その時、私の師匠がこう言いました。

先生、ちょっと待って下さい。その生徒さんは私たちの芝居を観たいと言うてます

と。

先生も生徒も頭が?状態で舞台上にいる師匠を眺めていました。

すると、今度は生徒側から大きな拍手が来ました。

𠮟りつけた先生は少し可哀そうでしたが、元のいた場所に生徒を座らせました。

拍手や声援の中、師匠は今度、全生徒さんに向けて話しだしました。

皆さんは、もう大人です

この一言を言った瞬間に、会場が一気に静まり返りました。

その静まり返った中、今度は穏やかな声で静かにこう言いました。

皆さんは、大人です。もし、今度先ほどのようなことがございましたら、公演は取りやめさせてもらいます。皆さんは大人です。大人の対応に期待します

と言って、すぐに師匠は舞台袖に引っ込みました。

暫くしてから再びオープニング曲が流れ、舞台は暗くなりました。

会場はまたまた拍手に包まれましたが、灯りが入った瞬間、

今度はピタッと拍手が止み、それから先は、信じられないくらい静かになったのです。

芝居進行中は、笑い声もあったりもして、とても集中してご覧いただけているのがこちらにも伝ってきました。

お芝居が終わりカーテンコールの時に、すすり泣く生徒もいて、その光景に私たちは逆にとても驚かされました。

最後にお礼の言葉として、校長先生が花束を持った生徒を引き連れて、師匠に花束を客席からお渡し下さいました。

そして、校長先生のお礼の言葉。

このお言葉は、今でも深く刻み込んでおります。

この度は、我高校にお越しくださいまして、本当に有難うございます。ここに劇団をお呼びするのに、私たちは長い年月をかけて、ようやく実現したわけですが、いざ、実現しても、果たして、私たちの生徒は劇団の皆様方を温かく歓迎できるのだろうか……一末の不安がありました。ですが、今こうして私がこのようにお話させてもらえること。今日、私は、これほど生徒たちを誇りに思ったことはありません。ありがとうございました。

その瞬間、生徒からも先生からも、そして私たちも全員拍手をして、そこにいる全ての人が讃え合っているかのようでした。

校長先生の話は、私たちの心にも響き、私も思わず涙しました。

公演終了後、再び宿に戻ると、今まで見たこともないような大きな鯛が、これまた見たこともない大皿に載ってテーブルの真ん中に。

この話は早速、漁港の方たちに知れ渡ってたのでしょうか。

おそらく、体育館には漁村の方も来られてたんでしょうね。

夜の宴では、専ら校長先生の話で持ち切り。

その中で照明の先生が

いやー!もう校長先生に最後全部持っていかれたな‼ あれは泣かされたな‼

と(笑)

当事者の私のお師匠さんは・・・・・・

先ほどの芝居の話は一切触れず、大きい鯛にご機嫌ですっかり通常運転だったように思います。

私はあの時、心底こういう大人たちになりたいなって思ったんです。

私たちって、芝居してるんやないんや。人のために奉仕できるかどうかだけなんやと。

それがたまたま演劇なだけであって、他のもんでも良いんやと。

芝居の外で師匠が見せた意外な一面に、そう感じたのです。

しかし、途中で芝居を止めるって結構勇気がいると思うんです。

途中で止めたことがないから分かりませんが、普通は途中で止まると本当に心臓止まりますよ(笑)

それだけ禁じ手なのです。

私には、そんな豪快なことは出来ませんが、それでも、私も、もうその時の師匠の年に差し掛かろうとする歳。

私についてきてくれる後輩にも、人のためになることの延長線上に芝居があって欲しいと思うのです。

そんな大層なことではないんです。

ただ、手伝って協力すること。

これだけで大きな陽のエネルギーが生まれる。

人を助けているようで、人に助けられていると感じるエネルギーが。

こう感じるからこそ、常に周りに協力したい。そう考えている自分がいる。

だから、協力をする若者たちの背中を押し続けてあげたい。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。さらに、自身のBlog『さいとうつかさの演技力会話力Blog』は1000万PVを超え、多くの方々から支持を得ております。

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