演劇にも、色んなジャンルがあります。
私の場合は新劇というお芝居。西洋現代劇のルーツを汲んだ世界的スタンダードな演劇です。
新劇と言っても日本で出来たのは今から100年以上前のこと。
ですから、新劇というとちょっと昔風のお芝居とお感じになる方もおられます。
特に90年代の小劇場ブームからは、お芝居のジャンルという垣根はなくなったように思います。
因みに新劇に対し、旧劇というのもあり、それは歌舞伎になります。
私が若い頃に教わったところでは、演技動作の所作を厳しく教えられました。
また自ら色んなところへ行き、教えていただくこともしました。
同じ練習を何度も何度もして体に馴染ませる。
ですので、私の演技習得は反復練習の賜物なのです。
しかし、私が色んなところでお芝居をするようになって、このような演技練習をしているところが実は少ないことに気がついたのです。
動きの合わせる練習とかはありますが、個人での動作練習をしている人はあまりいませんでした。
勿論、こういう動作練習は人前でやらず、一人で練習するものですが、稽古時に一向に動きが変わらない役者が意外に多いところを見ると、動作練習に重きを置いている役者は少ないと感じました。
ですが、そういう役者の方々は別に練習をさぼっているという訳ではありません。
動作表現よりもセリフ表現に重きを置いているという感じですね。
ですので、外に出た時の自分はとても驚いたのです。
そして、10年前からお芝居を指導するようになってからは、
「こうすればこのように見える」とか「こうしたらこう感じていただける」
というような動作表現の所作を教えていたので、当時はそういった実践演技が珍しかったのだと思います。
そうして色んな人をお教えしている中で、ある人がこのように言いました。
なんか、教えてもらった動作をしたらセリフが言いやすくなった!
と。
私はそれが当たり前だと思っていたのですが、教わる人からは目からウロコだったようで、それから、教える側と教わる側の感覚の差異がかなり開いていることに気がついたのです。
私が何故当たり前だと思っていたのか?・・・
それは自分が自然な動きをしていると自信をもって舞台に上がることが出来るので、セリフを言おうという感覚ではなく、セリフが勝手に出てくる感覚になるのは当然だと思っていた。
けれど、教わる側からすれば、動作表現とセリフ表現は別物で、それぞれの駆使しないといけないような感覚があったのだと思います。
このことが分かってから、私は演出時に、セリフをしゃべりづらそうにしている役者には、
動きとの連動がなされていないから、このようにして動いて、実際に動きを決めればそのセリフは簡単に言いやすくなりますよ
と動作を実演してアドバイスすると、呪いが解けたかのように激変し(笑)
ほんとだ!言いやすくなった!
という現象を数々起こしてきたのでした(笑)
というように、実際に動作表現をしっかりと決めた方が、演技はしやすいのです。
また、動作表現とセリフ表現は、伝わりやすさも違って、動作表現は「伝わる演技」で、セリフ表現は「伝える演技」になりやすいということもあるのですよ。
いずれにしても、動作表現はとても重要なのです。
このことが分かっていると、アドバンテージを取れますので、若いうちに意識して練習していただければと思います。
このBlogをご覧いただいている方でしたら、当然意識が高い人たちばかりだと思いますので大丈夫かと思いますが、最初、実践の練習でやってみると・・・・・・これが結構難しかったりするのです(笑)
ですが、動作表現がとても重要だということはご理解いただけたかと思います。
最後に表題の「舞台の表現美」について。
これから舞台の役者でやっていこうとするならば、このことを知っておくと、とてもお得です(笑)
でも、具体的には文章では難しいのですね。。。。
出来れば俳優養成講座で体験していただければ良いのですが・・・・・・
ですが知識だけでも知っておけば何かのお役に立てることもあると思います。
舞台の表現美・・・・・・それは、舞台の全体の魅せ方を知るということです。
新劇は基本、大劇場でするお芝居ですので、動作表現にはデフォルメした演技が求められます。
つまり、普段ではしないけれど、大きく動いて見せること。
ですが、この所作を正確に分かっていなければ、大きく動いているという感じではなく、オーバーな動きをしていると観客から思われてしまうのです。
「デフォルメ」つまり強調させる演技と「オーバー」つまりやりすぎる演技では全く印象が違って、デフォルメは作品世界を誘う効果ですが、オーバーは作品世界から現実世界に戻してしまう効果を引き起こしてしまうのです。
ですので、大きな演技にはデフォルメしたものでなければならないということをまず知って欲しいのです。
その上で大切なことを言いますと、このデフォルメをした演技は、実は大きな動作ではあるものの「無意識による動作」によるものなので、見ているお客様も気がつかないというのがポイントなのです。
つまり人間の無意識の動作は、見ている人も無意識に見てしまうので、その動作を演技所作としてデフォルメしても、大きな演技とは気がつかず、印象的かつ効果的に伝わるということなのです。
このようなデフォルメした演技を講座で生徒さんの前でお見せしても、全くスルーするのです(笑)
それで、
今こうして動いたんですけど、大きく動いてますよね?
と解説すると、その時に皆さん気がつかれるのです(笑)
つまり演技って見えない技術なのです。
このことが実は一番、これから俳優を志す方々に知っていただきたいことなのです。
見えない技術をどう見つけるか・・・
これも実は役者の仕事です。
素晴らしい俳優の演技は殆どが見えない。
見えないからこそ自然にその表現に感情移入できる
のです。
このカラクリを是非早いうちから知って欲しいのですね。
また、舞台経験が豊富な方でも、大きな舞台に立てばその真価が問われると言われます。
ですので、そういう、演技所作をあることをいち早く知り、練習に励むことが素晴らしい俳優への第一歩となります。
今は動作表現の話もしましたが、実は自分の舞台の位置取りでも素敵に見える演技テクニックが沢山あります。
このようなテクニックは誰にでも有効ではあるのですが画一的には教えられません。
人それぞれに違うからです。
この人がこうすればこう見えるけど、あの人が同じようにしてもそうは見えないというのが演技の面白さなのです。
手のあげ方、首の向き、あごの角度、歩み出し方、全てにおいて緻密な所作があります。
その所作を一つひとつ反復練習して体得する。
そうすると、本当になりたい自分になれるのです。
役の人物の所作をしっかりと練習していけば、不思議なことに、役の人物から歩み寄ってくるような現象が起き、本当の役の人物になるのです。
このように動作練習を重きに置いて練習すると、自分の魅せ方が段々と分かってくるようになるのです。
しかも凄いことに、自分だけの問題ではなく、空間全体の中で自分をどう見せるかまでが分かるようになるので、
そのような役者が立つ舞台は絵画のような美しい芸術性を持つようになる
のです。
大きな劇場には舞台にプロセニアム・アーチという額縁があります。
これでもうお分かりだと思いますが、元来、演劇は動く絵画という捉え方だったのです。
このことを理解して舞台に立つことが真の俳優ではないでしょうか。
自らを芸術的に見せること、これが一番の際立った印象に残る演技なのです。
美しく印象に残る演技。そういう表現美を備えた俳優にこれからも出会いたい。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。さらに、自身のBlog『さいとうつかさの演技力会話力Blog』は1000万PVを超え、多くの方々から支持を得ております。