
心が伝わる……これは私たち俳優にとっての表現における最大のテーマと言って良いでしょう。
私たちのブルアメソッドの最終テーマは「思えば伝わる」というもの。
思っただけで伝わるのか……?
そう思われるのも、ごもっとも。
普通に考えればテレパシーのようなもので、不可能なことを指しているのかもしれません。
しかし、ここを私たちは本当に目指しているのです。
ですから、少し変に聞こえるかもしれませんが、最後までこの記事をご覧いただけましたら、それが何となくお分かりいただけると思います。
思えば伝わる……思っただけで観客に伝わる訳ですから、自分の考えている事が全部バレている……というようなイメージを持たれるかもしれません(笑)
もしそうでしたら、それは私も嫌ですね(笑)そうではなくて、
「演技的にあることをすれば、このように考えている」という明確な技術が実はあるのですよ
ということなのです。
これは素晴らしい技術でもあるのですが、この技術が分かりますととんでもないことも徐々に徐々に見えてきます。
この話はとっても奥が深いので、難しいかも知れませんが、分かるととっても面白い有益な話であることは間違いありません。
ですが、このお話をガッツリするとなると
一年はかかります
ですので、段階的に一つずつご説明させていただければと思います。
ではまず最初に、
伝わりやすい演技
という話からさせていただきます。
演技表現は大きく分けて2種類あります。
セリフ表現と動作表現です。
セリフ表現は、セリフを話すことによって観客に表現する方法。
動作表現は、動作を表現することによって観客に表現する方法です。
ここまでは当たり前ですよね。
この二つの表現ですが、実は明確に違うことがあるのです。
それは何かと言いますと、少し変な言い方をしますが、セリフ表現は苦労せずとも情報が入ってきますが、動作表現は一手間加えないと情報が入ってこないのです。
どういうことか……?
セリフ表現の情報は聴覚で入ってきます。
とすれば、耳をふさがない限り自然と内容が入ってくるのです。
ですが、動作表現の場合の情報は如何でしょう。
視覚で入ってきますよね。
ここなのです。
視覚は見るということをしなければその情報を得られないということなのです。
一手間いるのはそういうことです(笑)
これはどういうことかと言いますと、こういうことも言えます。
セリフ表現は情報を取りに行かなくても自然と入ってきますが、動作表現は取りにいかないと情報は入ってこない
のです。
そして、これが伝わりやすい表現の答えなのです。
皆様は、何かの情報媒体をご覧になる時、全ての情報を見ていますでしょうか?
おそらく全部見ているという人は少ないですよね。
自分の関心のあるものや、気になるものしか見ていないのだと思います。
関心のないものは見ていても直ぐに記憶から消し去られているので、記事に載っていたかさえも分からないのですね。
これは脳の素晴らしい仕組みだと思います。全ての情報を処理すると頭が混乱して疲れてしまうのでね。
ある脳科学の先生が仰ってましたが、脳はレイジー(怠ける)でないとすべての情報を処理すると、人間のエネルギー消費が間に合わなくなり餓死するという表現までされてましたね(笑)
話は少し逸れましたが、つまりここで言いたいことは、関心があること、気になることは自ら情報を取りに行くという行動をしているということです。
聴覚からはそれがありませんが、視覚にはそれがあるのです。
ですから、セリフ表現と動作表現はどちらが伝わりやすい表現ですかと問われたら間違いなく
動作表現の方が伝わりやすい表現
ということなのですね。
お客様からすれば、見るという情報を取りに行くという動作を無意識に行っているのです。
そしてこれも前回で申し上げたことにも繋がるのですが、身体動作から感情が誘発されるのと同じで、その見る動作から関心が湧き起るということと全く同じなのですね。
行動していたらやる気が出てくるのと同じなのです。
ですから、やる気が出でから行動するではダメなのです(笑)
……またまた逸れましいましたが、これを整理して言いますと、
伝わりやすい演技というのはお客様の汲み取る行動が伴ってはじめて成立するもの
なのです。
回りくどい言い方をしていますが、これを結論から言いますと、自ら組み立てた考え方に至らないので、わざとこのように記させていただてます。
というのも、この頃の流行の見せ方、「結論から言いますと」という言葉。
実は私、これには違和感があるのです。
確かに分かりやすいのです。考えるプロセスまでしっかりとされているのですが、肝心の何故そういう考えに至ったのかというところまで説明がこの論法では出来ないので、毎回お伺いを立てないと有益情報を得られないというシステムにはまってしまうのではないかと思ってしまうのです。
分かりやすい分、本質をなかなか見つけられないスパイラルに陥る可能性があると。ですから、結論から言いますと言っているノウハウ動画は、リピーターを増やすのに有効は手段ではありますね。
ですが、演技についてもそうですが、こういったテクニックに翻弄されると、なかなか本質は見極められないようには思います。
如何でしたでしょうか。
伝わりやすい演技はこういう理屈なのですね。
ですが、最後にこの内容も付け加えさせていただきます。
それは、
お客様を味方につけるということ
これはとても大切なことなのです。
何故かはもうお分かりですよね。
味方になってくれた方が、自分の表現を汲み取って下さる確率が上がるからです。
若い頃によく言われました。
「技術がないなら汗かいてお客に納得してもらえ!」と。
これは、「あー、頑張ってるなー」というのが伝われば、お客様も贔屓目で見てもらえるという意味合いなので、あまり良い言葉ではないのですが、それでも何かを出せという見習い役者の戒めなのですね。
それも出来ひんような奴は舞台に立つなということですね。
この言葉は舞台に立たせてもらって本当に有難いと心底思えるようになると余計に響く言葉でもあるのです。
「技術がないなら汗かいてお客に納得してもらえ!」という言葉。
私たち舞台に上がる人間は、お客様との関係性で初めて成り立っている。
ですから、自分の技術で何とかするというような、調和の取れない考え方では、傲慢だと思います。
お客様によって日々芝居は変わる。
しかし、それでも毎回同じ感動を分かち合えるしばいになるのです。
これは奇跡を毎回引き起こしているのではないでしょうか。
ですから、その奇跡を起こすために私たちは日々、演技の自己研鑽を行っている。
こうすれば上手くいくとかそういうテクニックだけではダメなのです。
浅はかな考えの演技は、何かの表現で必ずどこかに現れてしまいます。
現れて例えば自分の心に嘘があるなと思えば、それは観る人に違和感となって必ず現れるようになっているのです。
ですが、お客様はその無意識に感じ取った違和感を「お芝居だから」という寛大な前提でスルーして下さいます。
お客様が味方について下さっていれば尚更です。
ですから、そこも調和を図るようにして、絶妙なバランス保つには、常に己の演技術を磨くことは私たちの大前提にしないといけないのです。
そうすれば、仮に不測の事態になった時にでも、大目に見ていただけるか、それがそのハプニングさえも価値のあるものに昇華するものだと思います。
一期一会ですから、印象に残る公演には価値がありますからね。
というように、お客様を味方につけることによって、取り伝わりやすい演技が確立されるといお話を最後にいたしました。
このお客様を味方につける方法。これについても奥が深いのでまた次の機会にお話しさせていただきますね。
より本質的なことがお分かりいただける内容かと思いますので是非お楽しみに。

さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。さらに、自身のBlog『さいとうつかさの演技力会話力Blog』は1000万PVを超え、多くの方々から支持を得ております。