今回のお題は、ちょっときつい言い方ですかね……(笑)
どうして嘘っぽい演技になるのかという話をさせていただきます。
この話をする時に、必ずしなければいけないこと。
それは人間の動機のお話です。
人間は何か行動する時、なぜ行動をするのかという心の動きが(動機)があります。
何かに事件でも、犯人の動機は何かと言ったりしますよね。それと同じ風なものです。
お芝居でもこの動機がとても重要で、この動機を表わすことで、それがリアルな表現なのか嘘っぽい表現なのかが一発で分かるのです。
この動機は身体動作で見分けられれるのですが、慣れてくると、その体の動きだけで
何を考えているかも分かるようになる
のです。
因みに私さいとうの場合、
劇団の後輩さんは私が心の中をすぐに言い当てるので、心の中が見えているようなので皆さん怖がってます(笑)
超能力とまで言われてますが、そんなことはありません。
どちらかというと職業病ですね(笑)
だから、普段でも会う人会う人ドキッとさせてます。
きっと私のことが苦手な人もいるでしょう(笑)
…それは冗談ですが、普段はあまり気にせず、見ないようにしています。
でもどうして、それが分かるとお思いになりますか?
それはですね、
無意識の体の動きを見ているだけ
なのです。
無意識の体の動きは当然無意識なので、コントロールできる人がいないのです。
その無意識の体の動きを役者はめちゃめちゃ研究するのです。
例えば、人間って驚いた時こうするよねっていうのが直ぐに分かります。
そしてそれには基本の動作があって、色んなアレンジまで作れるのです。
ですから、人間のおおよその出来事を研究しているので、何を考えているのかが見えるのです。
足の運び方一つでも表れます。
居場所での立ち方でも分かります。
手の動かし方でも見えます。
目の動き方でも分かります。
息でも伝わるのです。
ですから、その無意識の動作を徹底的に研究する。
そして、役者はその無意識の動作を意識化させる練習をすると良いのです。
しかし、ただ、これだけではいけません。
本当に大事なことは、
無意識の動作を意識化させて練習し、反復練習を重ねて再び無意識化させること
なのです。
ちょっと分かり難いですよね。
ここで、もう一つ違う視点でお話させてもらいます。
私たち役者は役の人物を演じるわけですが、その役の人物を演じる時に絶対に必要なことは、その自分が演じる役の人物の動機で動かないといけないのです。
これはどういうことかと言いますと役の人物を表すわけですから、役の人物の動機で、劇中で生きている訳です。
ここに、役に人物を演じる役者の自分が出てしまっては絶対にダメなのです。
もし、劇中で役者である自分の動機が現れてしまうと、演じようとする動機が表してしまうことになるのです。
そしてこれが今回のお題の答えですが、
演じようとすればするほど『嘘っぽくなる』のですね
だから、役者は演じようとしないことが実は正解なのです。
変な話でしょ。
でも、これは本当にそうなのです。
昔の新劇の演出家の先生は「表現しようとするな!」と若い役者に指導しておられました。
これはまさにその通りで、演じようとするだけで、「役者の動機」が無意識に現れてしまうのです。
役者と言えど、無意識に出る動きは防ぎようがありません。無意識ですのでね(笑)
必ず、どこかで現れてしまうので諦めなければいけないのです。
ですから、そうならないためにも、無意識の動きを意識化してその動作を覚え、身体に染みかせて、来るべき時にその動作だけに意識を向けて出力させるということなのです。
これが演技です。
身体動作から感情を誘発させるという演技術
この演技術は、キッカケのところで、その動作をするということに集中し、その動作から自動的に感情が誘発するようにするのです。
これですと、キッカケは役の人物の動機で動き始めるところでその動作を作動させるに留めるのです。
後はオートマチックに自分の感覚を解き放つ。
こういうことをしているのです。
昨今のお芝居を観ていると、役者の動機で芝居している人は本当に多いです。
例えば、泣く芝居で泣こうとしたり、怒っているシーンで怒ろうとしたりしているのはよく見られます。
役者がこれではダメなのです。
何故かというと、役者の動機で動いている表現は演技とは言えないからです。
演技という技術を持っていないと役者とは言えません。
ですが、こればっかりは気づく方にしかお教え出来ないことですので、なかなか難しいのが現状なのです。届く人にしか届けられない。
最後に素晴らしいこともお伝えします。
この無意識の動作を利用すれば、
とっても、動きがスムーズになったり、今まで流暢に言えなかったセリフが嘘のようにスッと言えるようになります。
また、自分だけでなく、周りの役者の動きも良くなるのです。
これは、そのような無意識の動作を働かせることによって、相手が動きやすくなる技術です。
合気道ではありませんが、それに近いものかもしれません。
如何でしたか?
演技って凄いでしょ‼
そうなんです。演技って物凄いのです‼
ですから、役者は物凄いことをしているのですよ‼
崇高なことを行っているのです。
このことを多くの演者に意識していただきたい。
私はそういう活動を今、行っております。
分かりましたか?セリフがスッと言えないからっといって、早口言葉のように何回も言い慣れるようなことをしてはダメなんですよ(笑) もしスッと言えないことがありましたらですね。あなたの無意識の中でおかしなことが起きているというサインだと思って下さいね。自分の滑舌が悪いからスッと言えないんだなんて考えたら、良い演技はおりては来ませんよ。他力がお働きになるのは自分を信じている時ですから、必ず、自分を卑下するような考え方にならないで下さいね。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。
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