
劇団ブルアは2024年から俳優養成講座を開講しました。



一年間、プロの演技メソッドを学び、その成果を卒業公演でご披露する取組みを行ってまいりました。

今回はその俳優養成講座の第一期を振り返ってお話しさせていただければと思います。
先月2025年3月22(土) / 23(日)に神戸の小劇場「イカロスの森」で行われました
劇団ブルアの俳優養成講座第一期卒業公演
『楽屋』~流れ去るものはやがてなつかしき~
お陰様で超満員の回もあり大変好評を得まして無事幕を下ろすことが出来ました‼

一年間のプログラムでプロの演技術を学ぶということは本当に難しい取り組みではありますが、講座生の方々はその難しい取り組みを見事、達成し、無事、終えることが出来ました。
劇団ブルアの俳優養成講座の特長は何と言ってもプロの現場で培った実践の演技を学べるところ。
プロの心構えからお教えしました。



演技修得は生涯学習でもあり、一年間で出来得ることは限られています。
しかし、その短い期間の中で、何故プロと同じパフォーマンスで公演を出来たのかは、おそらく参加された講座生の方々が一番驚かれたのではないでしょうか。
ここが最大の謎だったかと思います。
そして、この『謎』こそがこれから俳優業を目指す若い方々にお伝えしたいことでもあるのです。
今回の内容は大変価値のあるお話。自信を持ってお届けします。
さて、何故プロと同じパフォーマンスで公演が出来たのか?



ということですが、まずここからお話ししなければなりません。
それは、演技という技術は生涯かけて学ぶ技術であるということです。
理屈で言えば、1年そこらでは習得は出来ない技術であることは言うまでもありません。
ですから1年でプロと同じパフォーマンスで公演が出来るというのは、普通に考えると「眉唾物」であるわけです。
ですから、私のお教えする俳優養成講座をうさん臭く感じる方も中にはおられるかもしれません(笑)
ですが、国内外で400ステージを超える実践経験からのお話。
不思議な話ではありますが、本内容をご覧になれば必ずご納得いただけるだけではなく、かなり有益な情報だと思っていただけることと思います。
では、どうしてそのような生涯学習的な技術を1年で学ぶことが出来るのかということですが、その答えは「NO」です。
演技修得はそれほどあまいものではありません。
ですから演技指導時にもよくお伝えしているのが
今はよく分からなくても良いから頭の隅にでも入れておいてください
というものでした。
つまり簡単に言えば、理屈で分からなくても良いので、言われた通りにやってみて下さいというスタンスで一年間学ぶというのが、俳優養成講座でのコンセプトでもありました。
でもどうしてこのようなコンセプトで講座を進めるのか?
演技には動作表現である舞台における所作があります。
実はこの所作は、こうするだけで、観ている人から「このように見える」という
表現者の意図通りにお感じになっていただける「技」が本当にたくさんある
のです。
ですから、その所作を反復練習して自分の体に馴染ませる練習をするのですね。






ですがここで問題になることがあります。


これはおそらく想像できるかと思いますが、最初の内は自分が所作通りに動いてみても、自分がどう見えているかは全く分からないという問題が生じてくるのです。
ですが、最初は自分の動きに自信がないのは当たり前のことなのですね。

ましてや、舞台の所作は、普段の動きとは明らかに違う動作が多くありますので、所作における動作は気持ち悪く思うことの方が寧ろ自然なのであります。
ですから、所作を練習する時に、自分で「この動きは正解なのかな?あってるのかな?」と思いながら練習している。
しかし残念なことにこの段階での所作は必ず間違っています。
何故ならば、正解の所作をするには、実は「動き方を修正する」のではなく、その動きをして自分で気持ち悪くなくなる「これで良いという感覚」が出てきた時の動作にしないと正確な所作になりえないからです。
私たちの世界ではこれを
気持ち悪いが丁度良い
と言います。
このように所作の動作を反復練習していき、自分の感覚と向き合うことを養うのです。
これは自分を信じる作業でもあります。
さらにこのことをまた別角度から見てみますと、
演技の答えは全て自分の中にある
ということも言えるのです。

ですから、この1年間で演技の答えは自分の中にあるのですよということをお伝えしたいのです。
全部分からなくても良い。
ですが、その自分の中にある答えの出し方を出来る限りお教えしますので、そういう風にこれから生涯自分で引き出して下さいねというメッセージも籠めているのです。
表現というのは求めれば求めるほど奥が深いものに気がついてきます。
また、求めれば求めるほど、よりシンプルに抽象化していくものに演技は進化していくものです。




抽象化すればするほど、多くの人の共通項が生まれますので、結果的に万人に共感を持っていただけるようになる素晴らしい演技になります。
こういう具体的な表現ではなく、抽象的な演技へと昇華していくことが演技に対しての芸術性が育まれることとなるので、その過程を一年間お教えしているのです。
ここまで聞くと理解は出来るけど、実際に出来るかしらと思われる方も多いかも知れませんね。
実際にその通りで、確かにこれは自分一人でおやりになるのはとても難しい技術習得法ではあります。
ですから、その演技修得をサポートすることも用意してまして、その一つに演技の反復練習をしている時に
それで良いんだよ!というように大きくうなずいて見守るということもしています。
先ほども申し上げましたが、自分で自分の所作があっているかどうかが分からない時があるので、その所作が適切な動作で動いていた場合は、大きくうなずいて「それで良いよ」という情報を分かりやすい形でお伝えすると、自分を信じるスピードが格段に上がりますので、非常に効果的に所作を身につけることが出来るのですね。
まぁ、指導者の方にそれで良いと言われるのは、一番答えを得られたと思う瞬間でもあるので、そこは自然におこなった方が良いのですね。
それを、そんなのは出来て当たり前だというような昭和的な感覚はこの段階では相応しくないので、そこは気をつけた方が良いのです。
ですが、最初の段階はこの分かりやすく「それで良いよ!」というサインを行っていますが、これでは受信力が身に付きません。
ですので、徐々にそういう受信力を身につけるようなプログラムも色々と用意しています。
その一つも惜しみなくご紹介しましょう(笑)
それは、
全員が前から真剣に観る
ということ。

どうしてそんなことが受信力を身につける方法になるの?
ということですが、ここでこういう考え方をしてもらいたいのです。
どうして役者になりたいのですか?
この答えを一番シンプルに言いますとこの答えになるのではないでしょうか。
注目を浴びたい
これですよね。
演じてますけど見ないで下さいという役者がいれば紹介してください(笑)
そうなんです。
自然の摂理から言うと、役者は注目してもらわなければ存在意義がないのです。
ですから、見られることを欲しているのです。
そう考えると、出番でない共演者の方々を含め、劇関係者全ての方々に稽古の段階で注目を浴びるとそれなりのエネルギーを感じることは容易に想像できるかと思います。
そして、これは演劇をなさっておられない方でもお分かりいただけるかと思いますが、普段のコミュニケーションでも、お相手が誠心誠意で接して下さってましたら、自分も誠心誠意でお返ししたいのが人情ですよね。
そうすると 「今、お相手がどのように思われているか」は、かなり重要になってくるのではないでしょうか。
その方との会話が終わってもなお「失礼がなかったか・・・」と気になる方も多いはず。
そのように、自ずと受信する能力が大切なのは身をもって体験できますよね。
受信力は、ある程度の緊張のもとに養われるもの
なのですね。
その説明は長くなりますので今回は省きますが、そういう考え方で受信力を身につけるプログラムはまだまだあります。
というように、実践の演技修得はプロの現場でしか分からないことをお教えしているので、今まで演劇学校に通われていた方であったり、色んなワークショップを受けてきた方も経験したことのない講座ではあるかと思います。
さて、講座の話はここまでにして、
では、実際に卒業公演『楽屋』について、お話しさせていただければと思います。
『楽屋』~流れ去るものはやがてなつかしき~
は清水邦夫さんの作であります。
その作品はとても有名で、日本で一番上演された作品なのです。
女性4人が出る芝居で、この作品に共感する演劇人はとても多いのですね。
私も今回も含め2回演出をさせていただきましたし、過去にも4回ほど色々なところで観劇をさせていただきました。
この作品は劇中にチェーホフの『かもめ』や『三人姉妹』、シェイクスピアの『マクベス』、三好十郎の『切られの仙太』など、数々の作品や、至るところに有名な詩人の詩がありますので、演劇をなさっている方からすれば、ご存知の方も多いかも知れませんが、演劇をご覧になったことがない方からすれば、上記を上げた作品は名前だけしかという方も勿論おられますので、作品の見せ方がなかなか難しい作品であることもよく知られております。




今回、俳優養成講座の講座生の方々も作品が分からないという方も中にはおられたので、色々と勉強もいたしました。
その成果もあって、ご感想はとても好評なものばかりで、その中でも一番多かったご感想は、『美しく見入ってしまった』ということを述べられている方が多かったように思います。
後は『流れるような展開』であったり、『この作品は過去に何回も見ましたが、初めてこういう意味だったのかと気づかされることが多かった』というようなご感想も多く寄せられました。中には『凄かった‼』というご感想も(笑)
実情をご存知の方であるならば、舞台にまだ数本しか立っていないとはとても思えないくらい、それだけ話に入り込みましたというものもあり、とても出演者の方々には自信になったかと思います。
今回の目玉の一つでもありますが、この作品先ほども申し上げましたように、女性4人のお芝居ですが、その女性役の中のメインに男性の俳優を持ってきたというのがありました。
これは結構お客様からも驚かれたのですが、その男性の所作が本当に綺麗で、全然違和感なく見れましたというご感想もあり、それは、私にとっても嬉しいお言葉でした。
若い方々に演劇の所作の大切さもこの作品でお伝え出来たことは本当に嬉しかったです。
私たちの演劇のジャンルは新劇というジャンル。
新劇はプロセミアム・アーチという額縁の中で絵画のように魅せる芸術性を追究しています。
その芸術性から共感されるエネルギーがお客様と共有できて本当に嬉しく思います。
最後に、申し上げたいことがございます。
俳優養成講座は演技をお教えするというスタンスで講座を進めて参りましたが、途中からはお一人おひとりのお力で自ら導かれた成果だと思っております。
私は、未来のその人その人の姿を見ているようで、本来の姿を目の当たりにさせていただいた印象があります。
磨いて磨いて本来の光が放たれたということ。
そのようなことが起きて、この舞台は成功したのだと確信しています。
芸事には奇跡を起こすことが必要なのだ
その奇跡を今回も拝見いたしました。
一つひとつの取組みに他力がお働きになっている。
そういう阿弥陀如来のお力が起きてこそ、真の芸術を伴った作品になるのだと思います。
今回出演なさった方々はそういう奇跡を起こしたのだと思います。
私は俳優養成講座で演技を教えているというよりも、寧ろ、この奇跡の起こし方をお教えしているように思います。
それは自分の力を限りになく信じることが出来れば、自分の及びもつかない力がさらに発揮されて、そのお一人おひとりの力が合わさって奇跡を生んでいるのです。




私たち演劇をする人間はそういった奇跡を起こすことが出来るんだと信じて、これからも芸術活動に従事していただければと願っております。
素敵な俳優、女優に出会えてとても幸せな時間でした。感謝申し上げます。


さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。さらに、自身のBlog『さいとうつかさの演技力会話力Blog』は1500万PVを超え、多くの方々から支持を得ております。