心に響く演技を

私たちは普段、コミュニケーションをとっている時、話の内容よりも相手の動機に重点を置いて聞いています。

例えば、とても高圧的な上司がいたとして、部下に指示を与えました。この指示内容ですが、状況によっては、内容がしっかりと頭に入ったり、逆に頭に入らないこともあります。

その時に、しっかりと頭に入ってくる場合は、こういうことが予想されます。

この上司は、失敗するとこっ酷く叱りつけてくるので、余程注意しなければいけない

このように思う時は、相当気をつけて一言一句漏らさず聞き頭に入れることが出来ます。

しかし、こちらの状況ではどうでしょう。

毎回、毎回この上司に怒られている。今度も高圧的に指示されている・・・今度失敗したらどうしよう・・・

こういう状況になると当然、その上司からの指示内容は頭に入らなくなる可能性があることは安易に予想がつきます。

これは指示の内容よりも、相手の高圧的な動機をひしひしと感じ取っているから、焦ってしまって聞けなくなったり話している内容に集中できないのですよね。

また仮に、フレンドリーな上司からの命令だと、仮に指示通りに出来なくてもお咎めがないという場合でしたら、当然ですが、優先度が下がり、その指示に対してしっかりと行えないこともあるし、逆にあの仲良くして下さってる上司の為には、何としても指示されたことをしっかりとこなしたいということもあるしょう。

このように、一つの指示を受けるのも、色々な状況が想定されます。ここを踏まえて、演技を組み立てていくのです。この演技の組み立て時に是非意識を向けてもらいたいのが、

自分の表現に対しての相手のリアクション

です。自分の演技によって、お相手は周りにどのよう影響を及ぼしているのかを知ることが重要なのです。決して、表現のしっぱなしではいけないのです(笑) つまり、自分の演技はどれほどの影響があるのかを知ることがとても重要で、もしも自分の演技が周りや相手に影響を及ぼしていないのであれば、それは自分の表現が間違っている可能性があるということなのです。これはどういうことなのか・・・?

例えば、台本を見て、セリフの意味を考え、適切に相手に台詞を渡したとします。しかし、それだけでは、残念ながら相手に影響を及ぼせる台詞渡しとはなっていない場合があるのです。それは何故か?

いくら自分が適切な表現で相手に台詞を渡しても、相手が受け入れる態勢でなければ響かない

からなのです。先ほど、高圧的な上司のお話を例に出しました。高圧的な上司は、指示通りに出来ない部下に何でできないんだとさらに高圧的に取り組んでしまうと、結果はさらに悪くなります。ここで、もしもこの高圧的な上司が、自分の心を押さえて、相手の受け入れられやすい指示の出し方にすればどうでしょう?

そういうお話なのです。つまり、自分の気持ちよりも相手の気持ちになって話してあげた方が、断然効率よく上手くいくのです。

演技も実はこれがとっても大事で、相手の演技がしやすいように演技プランを作って上げれば、上手くいくのですね。

実際に演技プランの例

  • 相手共演者が話す時に、丁度客席の方に顔が向けられるような位置で自分が話を聞く。(お客さんに顔を見せて芝居が出来る)
  • 相手共演者の人の台詞が途中で途切れようとする時に、間髪入れず台詞を話す。(相手が勢いよく話が出来る)
  • 相手共演者が自由に動けるように、ポジショニングして誘う。(動かざるを得ない状況を作って無理なく移動してもらう)
  • 相手共演者をびっくりさせて冷静になったところに台詞を渡す。(台詞がスポっと相手に入りやすい)
  • 自分自身の演技がとても自然になるように、感情を誘発させる動作をする。(身体動作から自分自身の感情を誘発させる)
  • 常に冷静な心を用意しておく。(お客様の状態を常に感じるとるためにアンテナを立てている)

勿論まだまだたくさんありますが、簡単に上げるとこういうようなことがあるのです。

これをですね相手共演者にしてあげるとどうなると思いますか・・・?

嘘みたいな話ですが、こうすると自分の表現がお客様だけではなく相手の心に響きやすくなるのです。

にわかに信じがたい話ですよね(笑) でも本当です。一番最初にも申し上げましたが、人は話の内容よりも動機を感じるのです。私の為にこんなに動いてくれてるんだと感じれば、相手共演者も自然とこちらの為に何かしてあげたいとなるのですね。こうなりますと、こちらから発信する表現を、汲み取るという意識が芽生えるのです。汲み取ろうとする人は多くの情報を取り入れて、それに反映させることに繋がります。この反映が、相手から、はたまた周りから自分の元に還ってくるとさらなるエネルギーが生まれるのです。いわゆる相乗効果のようなものが出来上がるのです。相乗効果のある作品は一体感を生み、さらなる大きな力へと発展します。この大きな力がやがてはお客様を巻き込み劇場を一つにして、自分の思い描く世界以上の世界が展開されるのです。演技者が演技を終えたカーテンコールでのあの達成感は何にも代えられないものです。ですから、想定通りではなく、想定以上の力を起こすことが演劇の真の魅力なのです。

人の心が一つになること

そのために演技プランを立てると言っても過言ではありません。演技は役の人物の心情を理解してそれを表現するだけではありません。色んな関係から生まれる相乗効果で、未知の素晴らしいものを生み出すことをすることが私たちの楽しみでもあります。私たちは、最初から完成されたものを創造することは出来ません。作っていくうちに色んな力が働いて、そこから日々新しいアイデアが生まれてそのアイデアを形にしていくものだと思います。私たちは日々進歩し続けています。その進歩し続ける中で日々移り変わる現状を誰が想像できましょうか。やっていくうちに答えが見つかる。だからチャレンジすることが大切ですよね。やる前から、こうでは無理だとか出来ないとか考えていたら、想像力は働きません。今までの自分だと・・・そういうような過去を見て、自分のこれからの可能性を閉ざすことはとても勿体ないことだと思います。だから、私は、近い未来であっても、今にはない素晴らしいものが手に入っていると思い、お芝居を作っていきたいなと思います。今にはないものを今想像することは出来ません。ですから、もし素晴らしいものが手に入ったならば、いつもこう思うのです。自分の力では決して成し得ない素晴らしい力をいただけたと。こうして自然と感謝の気持ちが生まれ幸せな時間を味わいます。ですので私はいつもそれを心に描いてます。人の心が動いたら、とてつもないエネルギーが生まれる。そのエネルギーを作る設計プランが何よりも大切だと思います。

最後までご覧いただきまして、ありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

LINEで送る
Pocket
このエントリーを Google ブックマーク に追加
LinkedIn にシェア

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です