
劇団ブルアの俳優養成講座では、演技の答えは台本にはないとお教えしています。
今回の話は台本の読解力や行間を読むという次元の話ではありません。
台本を読むには技術が要る
その技術を習得をしなければ自分にしかない表現は出来ません。
これは断言できます。
この技術を磨いて、自分自身の芝居観を養うこと。
これこそが、やがては自分の思い描く表現に至るのです。
これこそが芸術なのです。
この芸術という崇高な観念から自分の演劇活動への意識の高さが現れるのですね。
ですので、一俳優として何としてもこの台本を読む技術を身につけたいところです。
前回の1と2で基礎的なことをお話しさせていただきました。
今回の話はこの台本を読む技術の中では一番難しい内容かもしれません。
ですが、この内容の技術は普段でも必ず生かせるとても素晴らしい技術なので、多くの人に知っていただきたい技術でもあるのです。
その技術をご説明します。
「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺がありますよね。
これは江戸時代の諺らしいのですがこれと全く同じことなのです。
つまり、一見何の関係のないような事柄なのですが思いがけないところに紐づいて影響が及ぶことを意味するのですね。
この話のように、台本の情報から頭の中で演技プランのアイデアを創出させるのが今回の技術です。
例えば、台本から赤いという情報と車という情報を取ったとします。
この二つの情報から皆さまは、何を想像されますか?
消防車という人もいれば、フェラーリという人もいるでしょう。山口百恵という人も中に入るかもしれません(笑)
つまり、一つの情報では、想像できないものが複数の情報が集まると色々な想像が出来ますよね。
このように複数の情報を取り入れて、想像したものを演技プランのネタにするのです。
例えば自分の役の人物の情報を取る時、言葉から受け取る感情と、その人の性格、その人の立場、その人のいる場所、その時の状況、その時の世相、その時の流行。
その時の風習など様々な情報を沢山取り入れて、それらを踏まえて演技プランを立ててみるのです。
このように具体的な情報が沢山あれば、イメージがしやすくなるので、鮮明にしていくこと。
そうすると、台本にはないのですが、普段であればこういうであろうもう一人のその登場人物の行動が見えてきたりするのです。
まるでパラレルワールドのようにです。
もしこれとは違った状況であれば、
この自分の役の人物ならこうするであろう
というような台本にはないもう一つの顔です。
実はこの台本にはない役の人物のもう一つの顔を想像の中で垣間見ることが出来ると、とんでもないアイデアが生まれてきたりするのです。
例えば、この自分に役の人物は人と話す時にこういう癖があるのかなとかならば、まだ序の口ですが、この人はいつもの癖が禍でいつもトラブルを起こしていて、それに気がつかず、こういうところで周りの人から愛想つかされて、いつも風当たりがきつくなっているんだなというような、台本のセリフやト書きには書かれていない、役の人物やその周りの人の関係性までが簡単に見えてくるようになるのです。
ここに熟練の芝居観を持っている人がいると、台本の話の流れから周りの役の人物を表現するために自分の役の人物はこうあるべきだなと、別視点でも見られるようになり、より、周りとの調和のとれた役作りに発展させることが可能になるのです。
如何でしょう。
このように説明すれば、なるほど納得かもしれませんが、実践でやってみるとこれが意外に難しいのです。
ですので、ここで、ちょっとしたコツを申し上げます。
ただし、これも何回も練習してやっと習得できるものですから、必ず実践して下さい。
それは、連想ゲームをノートに書くのです。
一つのセリフを取り上げます。
そのセリフからまず、どんな感情で言っているかを言葉でしっかりと書きます。
次に自分の役に人物の性格はどんな性格か思いつく限り書いてみます。
次にその人の立場はどういう立場なのか実際に書いてみて下さい。
このように言葉を実際に書いてその言葉から純粋に紐づけるのです。
そうすると、先ほどの消防車やフェラーリといった自分独自のアイデアが必ず出てきます。
これが今回の最も大事なポイントなのです。
ですが、最後にもう一つここで大きな問題があります。
この自分独自の演技プランがこの連想ゲームで生まれたとします。
しかし、そのアイデアが台本に沿うのかどうかという問題があるのです。
独自のアイデアですので、台本との辻褄が合わなくなることは普通にあります。
と言いますか、実は最初のうちは辻褄が合わないのが当たり前なのです。
10回やって1回、当てはまるかどうかだと思います。
しかし、ご安心を。
この技術を磨いていく内に、5回に一回。3回に一回。2回に一回。
慣れてきたらほぼ間違いなく一回で辻褄を合わせられるようになります。
これも芝居観が身に付けばということです。
ですから、台本は読解力というレベルではないんです。
技術です。
芝居観を身につける技術の話です。
そして最後に、
これがなんとも不思議な話なのですが、この技術は、自分の感覚から想像するので、自分を信じる作業でもあるのです。
そういった創作活動は誠なる心の芸術的発想となり、表現しやすいという特性もあるのです。
つまり、自分の心に嘘がないから、スムーズになんの抵抗もなく表現がしやすくなるのです。
これはとても重要なことです。
さらに言うと、それは、自分だけに留まらず、周りの役者にも影響を与え、周りの役者もスムーズに表現がしやすくなるのです。
これはジグソーパズルで段々とピースがはまってきた時の感覚と似ています。
このように作り手同士の相乗効果が現れてくると、演劇作品自体を大切に大切に扱おうとなるのです。
そうするとさらにさらに、その大切にしようとしている作り手の気持ちが作品をご覧になっているお客様にも伝わり、劇場全体が一つの空間を大切にしてそれが劇のクライマックスで強大なエネルギーが生まれるのです。
この時に心の浄化が起きるのですね。
人間の心の浄化は新ら強大なパワーを生む原動力になります。
ですので、その素晴らしいパワーをお持ち帰りいただきたいのですね。
これが芸術の醍醐味です。
今回の話から芸術性を創出させる話ですので、これをしっかりと磨いて、俳優としてたくさんの影響を与えられる人になっていただければと思います。
自分らしい言葉で調和を図る。これが真の芸術
だと思います。
その芸術は普段の私たちの身近な会話の中にも存在しますので、是非お試し下さい。
相手のことを推し量ると様々な情報が出ます。
その情報を書きだして、点を作ります。
その点と点を線で結んで、そこから想像し生まれたものがあなたのアイデアです。
そのアイデアから相手と話が出来れば、驚くほど楽しい会話になりますよ。
それこそ劇的に。
是非お試し下さい。
【関連記事】

さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。さらに、自身のBlog『さいとうつかさの演技力会話力Blog』は1000万PVを超え、多くの方々から支持を得ております。
「【台本の読み方 3‐④】自分にしかない表現で勝負する」への2件のフィードバック