
まず、一つお断りをさせていただきます。
今回の演出ノートはご覧になられる方によってはネタバレになる可能性もございますので、最初から、前情報なしで『キネマの天地』を今後、舞台をご覧になられたい方は、今回の記事はご覧になられないようにお願いします。
当方も細心の注意を払って出来るだけストーリーが分かり難く書くことにいたします。
今回私は井上ひさしさんの作品の演出に初挑戦でした。
ですが、その前にこの話をしなければなりません。
私が井上ひさしさんの作品に特別な想いを寄せいているというお話を。
若かりし頃、以前所属していた劇団での公演「きらめく星座」で高杉源次郎役で舞台に幾度と立ちました。
この作品の初めての登板は今から約30年程前、当時の新神戸のオリエンタル劇場。実はこの時の公演が私にとって衝撃的で今でも鮮明に覚えている。
何が衝撃的かというと、セリフをただ発しているだけなのに、これほどまでにお客様から「笑い」が起こるのかと……。
セリフを話すたびに笑いが起きる。
波のように広がる「笑い」。
これは初めての経験でした。
この時に初めてお客さまと会話するってこういうことなんやと、肌で感じたのでした。
26歳の秋。震災から3年目。
この作品が初主演。
稽古では相当なプレッシャーがあったはずなのですが、あまり覚えていません。
一生懸命が「売り」の私はただがむしゃらに走っていたのだと思います。
本番が近づく一週間前にも「舞台に立てる気がしない」と友人にこぼしていたくらいで、この井上ひさしさんの世界観をドップリと味わうことは出来ていませんでした。
そして本番を迎え、いざ舞台に上がると震える手が急に止まり、妙に冷静に芝居が出来たのを記憶しています。
それは単にお客様のお力添えでそうなったわけですが、私が出ていくたびに笑いが起こるという「珍事件」が起きたのです。
どうしてここで笑いが起こるのか……その時の私には知る由もなく、ただ、お客様のオーダー通りにいたのです。
劇中盤に差し掛かり、漸く気がついたこと。
それは、「お客様はこう見ているのか」と気がついたこと。
自分の出番が一時終わり、袖に引っ込んだ時に、稽古では全く見えていなかった世界が本番の途中で見えたのでした。
私はこの物語の中で生かされている。
私はそう感じたのです。
これは私にとって衝撃以外の何物でもなかった。
終盤に差し掛かり、物語は急展開。
袖に入って共演者の芝居を横から観て、はたまた舞台セットの挟んで耳で聞いていて、思わず感情が抑えきれなくなりました。
止めどなく涙が溢れ出て、次の出番に支障が出るほどでした。
舞台袖に立っている裏方さんも泣いている。
勿論お客さんも泣いている。
この時に、お芝居の威力を肌で感じたのです。
理屈やない。
何か大きな力がこの劇場を一つにしていると感じたのです。
良い作品を観て涙したことは数々あれど、自分が演じて、涙したのは初めての経験。
ですから私にとって衝撃的だったのです。
その後も色んなところでこの作品で舞台に立たせていただきました。
お客様はどうして私が出るたびに笑ってくれたのか……
それは、台本の力。
セリフ一つひとつにエネルギーが込められていて、そのエネルギーが化学反応を起こして、新たな強大なエネルギーを生んでいる。
しかもその化学反応はしっかりと計算されていて、その結果、あのようなお客様の反応になったのだということ。
それを稽古ではなく本番で感じたのでした。
それから、自分なりに井上ひさしさんの作品を定義づけて、色んな作品を読みました。
舞台作品も数々拝見しました。
しかし、いくら目付をしたところで、自分の中では掴めない。
井上ひさしはこうだ!というものは何一つ見つけられないでいる。
こうなのでは?
ああなのでは?
というものはある。
ですがその確信めいたものは、考察段階では分からないのが正直な感想なのです。
お客様とのコミュニケーションが出来て初めてその良し悪しが分かるような感覚なのです。
一回一回の公演で、勿論お客様は変わる。
反応も変わる。
その中でも、いつも同じ結果を生み出す、この作品の力とはいったい何なのか……
それは今も私には掴めているようには思えません。
それほど、若かりし頃の登板が衝撃的だったのです。
古くから私を知る先生方は、あの「きらめく星座」が一番印象的だと未だに仰ってくれる方がいます。
ですが、未だに掴めていない私にとってそのことが素直に喜べないでいたのでした。
しかし今回この『キネマの天地』に取り組んだ時に、ある一つの気づきを得られたように思いました。
ですがその前に物語の演出についてのお話しさせていただければ。
次のページで。
「キネマの天地」、
さいとうさんのご経験と想いを結集した作品のようですなッ❗
観客と想いが一体となれて何よりでござる☆彡
いつもありがとうございます。
そうなんですよ。
また一つ私にとって大切な思い入れのある作品となりました。